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6.第二騎士団所属 クラリス・ミルヴァの呟き

「私が…?」

「そうだ」


朝早く団長に呼ばれた数名の中に入っていた俺は内容を聞いて驚きのあまり話が終わり同僚が執務室から既に退出していたのにも気づかなかった。


まさか女神に喚ばれた方を警護する任務なんて。


「女神が選び異世界から喚ばれた方だそうだ。まだ酷く取り乱しているらしい。念の為、数日間はグライダー副団長も任務につく。クラリス、不満があるのか?」


口に出していたらしく不味いと思っても手遅れで団長の耳に届いてしまっていた。


団長に睨まれただけで身が竦む。しかし確認しなければ。


「そんな高貴な方ならば、なおさら私は不適任かと」


俺は、仮面をしているとはいえこの容姿だ。


「お前の技量を見て決めたのだが、それが誤りだというのか?」


──もう、これは駄目なやつだ。ここで歯向かえば団長に今、殺られる。


「いえ! 誠心誠意努めてまいります!」

「期待している。下がっていいぞ」

「ハッ!」


ガルス団長の睨みは強すぎる。それに隣にはグライダー副団長までいた。


「悲鳴とか上げられたらどうしよう」


仮面をしていても嫌がられる場面を多々経験してきたクラリスは、憂鬱な気持ちのまま任務についた。


暫くして式典の日、来賓の方々が少ない場面での移動は俺が担当になり、一度退出したユリ様が部屋で短い休息をとるため移動していた時、起きてほしくない事が発生した。


急に立ち止まったユリ様のお陰で攻撃が僅かに逸れた。ユリ様を押し倒し起き上がろうとする身体を自分の体で包む。こんな醜い俺が近くにいて突き飛ばされるかもと頭を過るも脇腹と腕に攻撃魔法をくらい、その一瞬は忘れた。


なんとしてもこの方を護らなければ。


侍女でもあり護衛のルビーが放った魔法の跡を追跡する光る紐が粉々に割られた窓の先へと伸びていく。


早く魔法部隊に連絡をしなければ。いや、魔術師も関わっているか? だけど今夜は魔法部隊長は別の任務で不在だ。ならば。


「二人共、こっちに来て少し屈んで」


頭をフル活動させている俺と侍女に扮したルビーをユリ様は、いつもと変わらない穏やかな口調だが有無を言わせないような雰囲気を出し呼んだ。


痛む腹からおそらくかなりの出血をしていた俺は、早く魔法部隊に伝達し副団長を呼びたかったのに。


細く簡単に折れそうな腕が伸びてきて抱きしめられた。


「っ、お離し下さい!」


俺だけではなくルビーも驚愕していた。この予期せぬ状況に。


「ばい菌、入らないように治れ」


ユリ様が言った瞬間、脇腹と腕に温かいモノを感じた。腕の痛みと腹の出血が止まった?


「ユリ様!」


肩を包んでくれていた手が下り、体が傾いていく。抱きとめなければと手を伸ばした先に、新たに現れた腕。その袖には三本の銀色に輝くライン。


頭を床に打ち付ける寸前、抱きとめたのは、俺ではなくグライダー副団長だった。




***



傷はユリ様の治癒の力で完全に塞がっていたが、数日様子をみろと休まされ、俺はこのまま任務を外されるなと思っていたけれど団長に呼ばれ再びユリ様の護衛を命じられた。


嬉しくてすぐにそのままの足で俺は、鍛錬場に行き身体を動かしていたら耳慣れてしまった声が聞こえて思わず駆け寄った。


そんな俺は、また思いもよらない言葉をもらった。


「私がいる間、お世話になっている期間中、貴方が嫌でなければ室内などつけなくても大丈夫ですよ」


しかもずっと仮面をつけて痒くならないのかと心配までしている。この仮面は魔法で装着しているし特殊な作りで負担はないのに。痒いって。笑いそうになったのに。


笑えなかった。


俺は、古い由緒ある家で汚点だった。見目が良い両親の元に産まれた醜い俺は不用品であり、既に優秀な兄が家を継ぐことが確定していた。親は俺の前に姿を出さないし呼ばなかった。


唯一、歳の離れた姉だけが俺を気にかけてくれた。


不用品の俺が生き残るにはと考えた時、騎士団に入団したいと思った。俺は魔力が多く、また運動神経がよかった。それに、入団すれば、団長、副団長以外は名で呼ばれる。


家柄は関係ない、実力のみの世界。


『歳を重ねてきて思うの。最後は中身よ。そしてどう生きてきたかは容姿ではなく、その表情に出る』


全て捨てたはずなのに。

親にすら抱きしめられた事がなかったこの身。


貴方は何てことないように触れてくる。



『そうそう。あの時の謝罪の言葉を訂正します。護ってくれてありがとう。冷静な姿にとても安心できたわ』


この方の為なら死んでもいいと。

──俺は、初めてそう思った。






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