3.異変と小さな変化
翌日、無知の素人でも感じるほど、やたら大掛かりだなと思っていた式典は、近隣諸国との友好記念日であり長い戦を繰り広げていた時代、多くの犠牲の上で成されたと忘れない為の重要な行事と教えてもらった。
うーん。勢いに押されて参加を承諾してしまったけれど私が出て意味があるのか未だ不明だわ。
* * *
「ありがたいけど、いいのかしら」
「これから夜会もありますので今のうちに一度休まれないと身体が持ちません」
陛下や各国のトップの演説が終了し、休憩していいですよと言われたので自室へと侍女のルビーさんと話をしながら背後の護衛騎士のクラリスという名の青年と共に足早に移動していた時。
チリン
「えっ?」
とても小さな鈴の音を耳にし足を止めた直後。
「危ない!」
「ユリ様!」
二人の鋭い声と硝子の割れる派手な音がしたなと思った時には床に転がっていた。
「何が」
「まだ危険です。頭を下げたまま動かないで下さい」
横に倒れた私に覆いかぶさるようにいるのはクラリス君のようだ。
「ルビーさんは?!」
「こちらにおります。クラリス様、追跡をかけましたが最後まで辿れるかわかりません」
「ああ、気配が薄い。至急第三に伝達をしなければ」
ルビーさんは、普通の侍女ではなかったのね。
さっきの音は何だったの? それよりも。
「二人共、こっちに来て少し屈んで」
仮面をつけた騎士と侍女さんは、不思議そうな様子をしている。じれったくなった私は、ぶら下がるように二人を腕に抱きしめた。
「ユリ様?!」
「つ、お離し下さい!」
「嫌かもしれないけど、少しこのままで」
おばさんに抱きつかれるなんて嫌かもしれないけど、動かれると集中できない。
「ばい菌、入らないように治れ」
目を瞑りあの鱗粉のような光る粉を凝縮させるようにイメージしてみる。だってねノートには方法が書いてなかったし、ルールで一日に一度だけしか質問はできないんだもの。女神様ってケチよね。
「傷をつけさせてごめんなさいね」
昨日、振りまいた鱗粉よりも強い脱力感を徐々に感じ目を開き、そっと腕を離した。
「出来たのかしら?」
ルビーさんの褐色のなめならか肌に先程の切れた傷は見当たらない。良かった。そうそう騎士さんは腕も怪我していたわよね。
「「ユリ様!」」
力が入らないわ。なんだか足も。若返ったのにおかしいわね。走りこみとかしたほうがよいのかもしれない。
ああ、目を開けてられないわ。百合は誰かに抱きとめられた事にも気づかず意識を失った。
* * *
「あら、寝てしまったの?」
そうだ夜会。
「ユリ様!」
「いきなり起きては身体に障りますよ」
飛び起きた私に駆け寄るルビーさんと、昨夜会った副団長さんが椅子に座っていた。
「警護を強化する為、私も貴方の護衛として配属になりました」
貴方が何故と聞く前に教えてくれたのはありがたいけれど。
「……そうですか」
贅沢だとわかってはいるけれど、副団長さんは外して欲しかった。
「何か不満がありますか?」
低い声が更に下がったように感じ慌てて返事を返してしまう。
「いえ、そんな事は」
この時はまだ小さな迷いしかなかった。だけど、後に副団長さんの護衛を断っておけばよかったと酷く後悔する事になるのだった。