27.ヘイゼル殿下の独り言
「やはりユリは退屈しないな。お前もそう思わないか?」
ユリが去った後の温室は静まりかえっており、以前はこの静けさを気に入っていたが、今は物足りなさを感じている私はかなり彼女に毒されたか。
「私には答えられません」
「そのわりに珍しく返事に時間がかかったな」
外から見れば花を眺め独り言を呟いている様に見える光景だが、床にある私の影が一瞬揺れた。
「ユリが欲しい。だが、今の私には手に余るな」
「それは妃としてでしょうか? それとも仲間としてですか?」
今日の影はよく喋る。
まぁ、このような日も悪くはない。
「理想は両方だな。だが、叶わないだろう。お前からは何か報告はあるか?」
「本日もまた珍しい北の実が入りました」
「数は?」
「二つほど」
生まれる以前から定められているこの地位により昼夜入り込む間者を時に泳がせ、不要品は深く水に沈めてきた。おかげで生き延び今の私がいる。
「お前達がいなければ、とっくに私が沼に沈んでいたな」
答えはない。ただ、気配は存在する。
「彼女は、自分が立つ位置により他国との均等が変化する可能性を察知している。また、私も国を傾けてまで手に入れるつもりがない事も」
「……私には難しい事は分かりかねます」
正面に位置する今は空席の前には、空になった皿が重ねられている。
『あらやだ、マナー違反なのは知っているけどつい片付けの癖がでるのよね』
先程の彼女が私を見る視線は、偽りのない優しさで溢れていた。
『まぁ、適当に息抜きしなさいな。愚痴なら聞いてあげるわよ。あ、おばさんに期待はしないでね。あくまで相談にのるだけよ! あー、私ったら余計な事を言っちゃったかしら。失敗かも』
思い出すと笑いそうになるから困る。
「あとは、リュネールが上手くやれば国内に留めておけるんだが」
予想以上の腑抜けだったのが誤算だ。
「副団長殿も、たまには苦しめ」
「言葉が過ぎますよ」
影に窘められるが、訂正するつもりはない。
「まぁ、傍観させてもらうよ。私は、かの姫を手に入れに行かなければ」
リュネールのお陰でしばらくは楽しめそうだ。
「息抜きは大事だとユリも言っていたしな」
それは違う意味だと背後から聞こえたが、無視をしヘイゼルは呼び鈴を鳴らした。