20.百合の悩み事はつきない
「くだらない話ばかりね。肝心な事は一つも書いてこないじゃないの」
百合は、ヘイゼル殿下からの手紙を読みため息をつき、窓から外で鍛錬をしている彼を眺めた。
「あと5日。なんとかしたいわ」
副団長さんの背をなぜた日以降、普段から無口だった彼はさらに寡黙になった。
殿下に何を書いたか問いただしても見事に無視をされる始末で直接あの糸目王子に会いたいけれど完全に森が浄化されるまで離れられない。というか、なんとなく今、此処から離れると良くない気がするのだ。
「それに、まだ決めてないのよねぇ」
5日後、一度お城に挨拶はしに行くけれど、その後の身の振り方に百合は悩んでいた。
「お城で生活するのは落ち着かないし、かといって冒険者なんて素人がなれるわけもない。神殿に滞在したとして殺されなかったとしても一生マスコットとして働かされそう」
駄目だ。
「とりあえず、森を綺麗にしに行くか」
百合はすっかり冷めてしまった珈琲を喉に流し込み椅子から立ち上がった。
* * *
「あら、随分歩いたわね」
最近は、少しなら考え事をしながらでも金の粉を出せるのでよいのだけど。
「こんな穴は初めて見たわ」
私が知る穴とはシンプルに岩でできている物である。しかし、目の前にある物は。
「これ、TVショッピングで観たパライバトルマリンに似ているような」
確かあれは指輪とネックレスのセットで。
『さぁ、この時間だけでの販売です! あ、残りがあと数点! お早めにお願い致します!』
南国の明るい空色と海を思わせる色の石は、あまり派手な物を嫌う百合でもインパクトがあった。
「触っても平気かな」
穴からハミ出ている剣のように突き出た部分に触れようとした時。
「ギュルル」
私のお腹の音ではない。動物の鳴き声に伸ばしかけていた手を止め、声のした先は穴の中。
「……魔獣さん?」
光る白いものが二つ。
「ちょっ」
何か来る予感がし、とっさに横に転がるように倒れこめば、私がいた場所には太い剣ではなく、あの宝石がぶっ刺さっていた。
「いや〜。攻撃魔法の力、女神様に返品しないほうがよかったかも」
穴からズルズルっと音をさせ出てきた生物は、有にニ階建ての高さがあった。
「あら、でも穴より大きいって物理的に変よね」
こんなピンチな時でも、おばさんの独り言は健在であった。