17.副団長さんは恋愛小説がお好きなのね
グライダー副団長さんに私が森で滞在期間中は自分も一緒に過ごさせて下さいと言われた。しかも、食料の調達もしてくれると言うのだから、とても心強い。
そこで共同生活について話をしていたんだけれど。
「納得されましたか?」
「確かに思っていたより過ごしやすそう」
夕暮れ時、私が生活している家の前に設置されたテントを副団長さんと二人で覗き込んでいた。
「でも、狭くないかしら?」
テントといえば、三角を想像していたのだけど。見せられた形は円筒形だった。さすが異世界である。百合はジロジロと観察を始めたものの、なんだか私には落ち着かない。
見慣れないから違和感を感じるのは仕方がないわよね。
「これは、位の高い方々が使用してもおかしくないほどの良い物ですし、寝るだけですから充分です」
彼からヘイゼル殿下が用意した荷物なだけにかなり上等な品だから問題ないと空き部屋の使用を頑なに断られた私は、もう折れるしかなかった。
でも、条件というか、お願い事をした。
「食料まで用意して下さるなら昼と夜は一緒に食事をとってもらえるかしら? あとシャワーも使って欲しいわ」
一人は苦痛ではないけれど食材まで調達してくれると言ってくれたので、せめて作った食事を食べて欲しい。
「分かりました。ただしユリ様の負担にならない程度に」
「ありがとう」
つい、お礼を口にした私の顔は、自分が思ってる以上に笑顔になっていたのをユリは気づかない。
また彼も自分に向けられる何の思惑のないユリの視線や態度により、既に影響を受けている事を知らなかった。
「あら、副団長さんも恋愛小説を読んだりするのね」
「これはっ! 殿下が用意された荷の中に目を通すよう言われただけで!」
そんなに焦るものなのかしら? まぁ、恋愛小説って恥ずかしい場合もあるわよね。
「好みは人それぞれだし」
「いや! だから私が選んだわけではなく殿下が勝手に入れた本で!」
「どうしてそんなに焦るのかわかりませんが、誰にも言わないから、というか此処には私と貴方だけですもの」
ユリは、知らなかった。この積まれた本の大半が、いわゆる刺激の強い大人の本だという事を。
「ユリ様!私の話をちゃんと聞いてください!」
「はいはい、聞いてますよ。とりあえず夕食の準備だけしちゃうわね。また後で」
捌いてもらった魚を保存以外でもう少し濃い味が食べたいと思ってタレに漬けたことをすっかり忘れていた。濃くなり過ぎたかも。
「ユリ様!」
「漬けた魚が気になるのよ。また後でお話をしましょう」
普通の恋愛小説がそれ程好きだなんて意外だわと思いながら家に小走りで戻った。
「…私は、軽蔑されたに違いない。どんな顔をしてこの後の食事をとればいいんだ?」
彼女の急ぎ戻る背中を見てやはり嫌悪されたと解釈し落ちこみ途方に暮れるリュネールであった。