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15.食料の悩み

鬱蒼としたミルノアという森での生活で10日ほど経過した現在。


「我ながら規則正しい生活を送れて優秀じゃないかしら。それにしても、立派なお家で贅沢だわと殿下に文句の手紙を書こうとしたけど止めて正解だったわ」


一人暮らしくらいできる。けれど激しい気温差に加え真っ暗闇で不安な夜にはしっかり造られた家はとても安心できた。


一つ、致命的なのが食料である。


「私に仕留めるという行為は難易度が高いわ」


時折ウサギに似た小動物や大物では鹿のような生き物も見かけた。女神様に攻撃魔法のような力を少し欲しいと強請り手に入れたのに。


「捕らえたとしても私には捌けない」


スーパーでしか肉を購入してこなかった私には、目の前の生きたモノを殺めるという行為もそれを生きる為にとはいえ解体する行為はとうてい出来そうになかった。


「……なさけないわ」


用意された家には食料もおいてありイモ類や豆、小麦粉のような粉など長期保存可能な食材ばかりを沢山貯蔵庫のような場所に事前に用意されていたが、それもあと数日後にはなくなる。


「どちらにしろ一度は買い出しに行くべきよねぇ」


ただ、困ったことに街までの距離がよくわからない。転移で来てしまったことを悔やむも既に手遅れである。


「あっ! キタッ」


そんな現状を考えながら近くに流れていた川で試しにと吊した糸が勢いよく反応した。


「くぅ!負けないわよ!」


肉は駄目でも魚ならなんとかいけるはず!絶対に捕る!


「おばさんの力をなめるんじゃないわよ!」


貯蔵庫内の隅にあった頼りない竿は、今にも折れそう。とりあえず水から引っ張りあげれば私の勝ち!


「大人しく捕まりなさーいっ!」


力を込め強く引くと手応えが。


「やったー! 大物ゲットー!!」


弧を描き宙を舞う魚を視線で追えば。


ビタン!!


「え?」


背後に長身の男性?!


「あっ、ごめんなさい!」


ビタンという音は、私の釣った魚がその人の顔に直撃した接触音で。焦る私は、再び顔を見て固まった。


「えっ、副団長さん?」


見覚えのある青みの帯びた仮面に銀色の髪。極めつけは引き締まった体型と特徴的な瞳の色。間違いなくグライダー副団長さんだわ。


「「何故、貴方が此処に?!」」


見事にハモった。




***



「タイミングよくて助かったわ」

「いえ」


とりあえず立ち話もと仮住まいの我が家に案内した私に彼はその魚を捌きましょうかと素敵な提案をしてくれのだ。


「──美味しい」

「そう?口に合ってよかったわ」


新鮮なうちにと一部は魔法石により便利な冷蔵庫の冷凍庫部分に放り込み、残りはシンプルに焼いて、ぶつ切りの部分はフライにしてみたが臭みも強くなくとても美味しく出来た。


「どうしましたか?」


彼が一点を見つめているのに気がついた。それは小さなトレーに置いてある金色のコイン。


「あら、ちょっと待っていてね」


雀のような鳥が窓をコツコツと鳴らしている。


「お手紙かしら?」

「ぴぃ!」

「ありがとう」


細い足には小さなカプセルに似た入れ物がついているので慎重に外せば鳥は窓の外へ飛び出していった。


「どうやら私ではないみたい。どうぞ」


どうして彼が、副団長さんがいるのを知っているのかしら?そんな疑問をよそになにやら目の前の人の発する温度が急降下していっている気がしてならない。


「あのコインでそうかと思いましたがやはり」


ボッ


彼が握りつぶした手紙は、赤く燃え消えた。なにより、その手は大丈夫かしらと気になるも。


「ユリ様、ヘイゼル殿下が絡んでますね?」


グライダー副団長の口元が笑っている。以前、彼の口角が上がる姿を見たのは数回のみ。だけど素敵だわ、良いものが見れたわと思えない私は、悪くないはず。


「とりあえず、お茶をもう一杯いかが?」


少し落ち着かせてからのがよさそうだと、何も気づいていないように振る舞う百合であった。




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