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11 .吐露

「副団長さん、とりあえず食べませんか?」


お茶は熱いくらいが好きなのよ。せっかく淹れてくれたのだから冷める前に飲みたいわ。


「暗いわね。私が言うのも変だけどこちらに座って」


灯をつけようと動く前に彼が端から灯していく。表情は全く分からない。けれど隅に置かれているテーブルまでワゴンを押してくれたのでなんとか話せるかしら。


「ありがとう。お話は少し飲んでからでよいかしら?」


返事はないけれど目でいいと言われたと解釈し、まだ充分温かいお茶を口に含めば香りに癒やされる。何口か飲み身体が心なしか力が抜けた感じがして眼の前の彼に話しかけた。


「私が、前もって伝えないから皆を驚かせてしまったみたいで。ごめんなさいね」


同じくソーサに音を出すことなくカップを置いた彼と目が合う。


彼の瞳は灰色が入った青だった。間近の距離はまた新しい発見を教えてくれた。


「クラリスが酷く動揺していました。私も何も聞かされていなかった。陛下や宰相は」


声を荒げる事はしない。けれど苛立ちをみせながら問われた。そうよね。警護する側にしてみれば怒って当然だ。


「知っているわ。知っていたのは四人、いえ団長さんには数日前に話をしたわ」


そう伝えると機嫌が更に悪そうになった。でも、嘘を言っても仕方がないし。


「部下から、明日貴方が城を去るだけしか聞いてません。具体的に城を出てからどうされるのですか?」


深すぎるため息だわね。


「少し見て回ろうかと」

「お一人で? 警護を付けずに?」


皆、同じ反応をするのよねぇ。


「ええ。ぞろぞろ大人数なんて余計目立つもの」


今後はゆっくりお一人様がいいのよ。それに雇うお金なんてないし、あったとしても勿体ない。


「陛下の許可は既にもらってるわ」


益々納得していないので最高権力者を出す。どうだ!もう何も言えまい!


「私は」

「あ、ごめんなさい!時間大丈夫かしら?ちょっと待って欲しいの」

「時間は問題ありませんが、身体が」


副団長さんが再び口を開きかけたとき、私の身体が淡く光り眼の前に馴染みの交換日記が現れた。


「おっと」


宙に浮いたそれをなんとか受け取り、私が急いで開けば勝手にパラパラと紙がめくられていき。


「ああ、椿」


止まったページから光が溢れ等身大の椿が映し出された。



***


『椿っ久しぶりー! 着物可愛いじゃん!』

『ナオも可愛いよ! 元気だった?』

『あっ、椿ー! ナオー!』


仲良し組が集まり写真とおしゃべりが始まった。

周囲は、華やかな着物とスーツ姿の子達で賑わっており、沢山の声が聞こえてくる。


「ユリ様」


ただひたすらじっと見ていた私は、副団長さんの私の名を困惑げに呼ぶ声で彼を忘れていた事に気づいた。


「あ、いきなり驚いたわよね。あの青い花柄の着物の子、私の娘なの」

「…娘」

「そう。今日は成人式でね。大人の仲間入りを祝うのよ。本当は年齢が引き下げられ18歳で成人だけど成人式のお祝いは昔と変わらず20歳なの」


椿は、旦那に似ているので目もぱっちりしていて、すごい美人!というわけではないけど愛嬌がある子だ。椿はなにやら大声で笑っている。


「よかった」

「お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「よかったという意味を?」

「はい」


私は映像に目を向けたまま、椿の陰りのない笑顔をじっと見つめる。


「私は、夫とつい最近、一ヶ月前くらいに離婚したの。もう一人の私って言えばいいのかしら。半分になった私のがしっくりくる?」

「離婚、離縁ですか?」

「そう。椿が19歳の頃に伝えたわ。争う夫婦仲ではなかったけれど、子供が成人したら別に生きると決めていたの」


ちらっと副団長さんを見れば、驚いているようだわ。


「此方にきた時、若返ってしまったから違和感を感じるかもしれないけど、私は副団長さんより歳は上ですよ」


歳上と小さく呟く声が聞こえた。

まあ信じられないわよね。


「夫とは、全く生活の感性というか相性が合わなくてね。段々会話もなくて。でも、月に1回は一人暮らしの椿と会って外食したり。お互い子供は大事だったし、私は、成人まで責任があると思っていたから」


椿は、ある程度成長して気づいていたようだったけど、まぁ君達、驚くほど合わないよねとケラケラ笑っていたけど。


──本心は、勿論わからない。


「でも、子供のお陰で夫婦を続けられたし、全てが嫌ではなかったの。お母さんをさせてもらえて感謝しているわ」


これは、本心だ。


「娘は、小さい時、正直育てづらかった。癇癪の度、叩かれる度に泣きたくなったし嫌にもなった」


だけど。


「でも、離れて二度と会うことが出来なくなって、やっと気づいたの」


遅すぎる思い。


「時にムカついたし、悲しかった。でも私を前向きにさせてくれたのも、笑わせてくれたのも椿なのよね。あ、あと犬のちこもとても大切な家族だわ」


私は、子供が苦手だったし子育ては向いていなかった。駄目な親だったかもしれない。結構影で泣いたりした。


そんな時、ちこは私を癒やしてくれた。


ふわふわの温かい体を抱きしめれば穏やかな気持ちになれた。


触れられないのは頭でわかってる。

でも手を伸ばさずにはいられない。


「椿、おめでとう」


きっと半分の私は、今夜は沢山ご馳走をを作っているだろうな。


「──無理しないでいいと思います」


背後から抱きしめられた。

とてもぎこちなく、戸惑いながらなのがわかる。

でも、ゆっくりと人の温もりが伝わってくる。


もう、抑えられなかった。


「うっ、うっ、直接言いたかったっ」

「はい」

「もっと、怒ってばかりじゃなくて、褒めてあげればよかった」

「きっと気持ちをわかっていると思います。とても…いい表情をしていますから」


涙でぼやけて椿が見えない。

でも、友達と楽しそうに話す声が次々と耳に入る。


「……副団長さんがいてくれてよかった」


一人でいいのに。

眺めてるだけでいいのに。


人は、あなたは、あったかいな。










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