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10.素敵な侍女さん達に旅立つと伝えれば

「明日、ここを出るわ」


ガシャン

カラーン


「まぁ!火傷しなかった?!」


ルビーさんがティーポットを落とし、窓際で植木に水をあげていたビオラさんが如雨露を落とした。


ああ、二人が何も手にしていない時に話せばよかったと思うもの手遅れである。


「よかった。火傷はしてないようね」


ルビーさんの手や足元を確認すれば、少しスカートにはねてしまっていたけれど足にはかかっていなかった。よかったわ。


「ユリ様! 私が何か気に障る事をしてしまいましたか?!」

「誰かに嫌がらせなどを受けたのですか?!直ぐに殲滅致します!」


二人とも、距離が近いわ。


「気に障るなんて、ビオラさんにはお世話になりっぱなしだったわ。それに、ルビーさん。殲滅って勇ましいわね。でも、誰にも苛められてないから大丈夫よ」


若いって勢いがあって羨ましいわ。私は、見た目が若返っても、やっぱり若々しさはとうに枯れているもの。


それにしても予想以上に驚かれたわね。


「ずっと考えていたの。でも、急だったかしら?」

「急過ぎますよ!」

「そうです!悲しいです!耐えられません!ここなら、私は私のままでいられるのにっ…あ」


ルビーさんは、小さな形のいい唇を両手で塞いだ。大きな瞳の端にはうっすら滲んだものが。


「も、申し訳ございません」

「何故謝るの? 私は嬉しいわよ」


ハンカチをその宝石みたいな目の縁にあてれば体が揺れた。ルビーさんの表情は少し怯えていたので、あえて目線をしっかり合わせて笑いかけた。


「たくさんの勇気をだして仮面を外して心を許してくれて。とても温かいものをもらっているのは私よ。突然来たおばさんに優しくしてくれて、ありがとう」


背中をゆっくり擦すれば、肩の強張りが抜けたみたい。少し落ち着いたかしら。


「ユリ様。どうしても出ていかねばならないのですか?」


ビオラさんが、ルビーさんに寄り添うように立ったので私はゆっくりと手を離し彼女に向き合う。この子もまた美しい紫の瞳に、意志の強い表情をしている。


「そうねぇ。私は、この世界にいればよいみたいだから。お城は快適だけど、視野が狭くなりそうでね。ほら、傅かれるって無理だから」


そうなのよ。豪華な部屋やハハーッと拝まれるなんて一生慣れないし、なれたくない。


「少し、範囲を広げて見てみたいの」


おばさんでも、近くの街にちょっと出掛けたくらいだけど分かっているのよ。


生活するのは大変だって事が。


でもね、やってみる前から諦めたくないのよ。第二の人生みたいなものだし、どうせなら貪欲にいかないとね。


「私とルビー、少し持ち場を離れてもよろしいでしょうか? 直ぐに戻りますし、外の警護は増やすようにお願いしてきますので」


ビオラさんの言葉に、それは私もありがたいと瞬時にOKをだす。だってね、荷造りはどちらかというと一人で集中したいわ。


「勿論。二人が戻るまで荷造りもあるし部屋からでないと約束しま」

「ありがとうございます。ルビー!泣いている場合じゃないわ!行くわよ!!」


言い終わる前に二人の女の子達は、消えていた。

まあ、ルビーさんは、腕を掴まれ半ば引きづられていったけど。


二人がいないと、この部屋は広くて…ちょっと寂しいわね。


「いやいや! 今からどうする! 荷造り頑張ろう!」


両頬をペチリと叩き気合を入れた。




***




「ふぅ、こんなものかしら」


いくら入れても膨らまない魔法の斜めがけカバンにあらかた詰め終わった。


日も傾いてきているけれど、二人はまだかしらと思ったら、タイミングよくルビーさんとビオラさんが戻ってきて、何でそんなに息をきらしているのかしら?


「遅くなり申し訳ございません! ユリ様、あの歴史書を至急返却して欲しいと司書が騒いでまして。私は入室不可の書庫の為、お願いできますでしょうか?」


「歴史書…ああ、寝室だわ。分かったわ。ちょとまってね」


ビオラさんに言われて思い出した。寝る前に読んでいた。そうよね。明日にはいなくなるし返さないと。


「あら、ない」


ベッドサイドに置いていたはずなんだけど。


「ユリ様、ありますか?」

「あ、ルビーさん、思い出したわ。応接室に置いて」


あるわと振り返ったら。


「危ない!」

「あっ」


何故か副団長さんのどアップで。此方に倒れてきた彼の目は、これでもかと見開いていた。


「つぅ!」


副団長さんを支えるなんて到底無理である。お尻がかなり痛い。


「はっ、大丈夫…」


近い、近すぎる。まるで押し倒された状態である。

心臓の音まで聞こえそうなくらい、互いの隙間などなく密着している。


「申し訳ございません。お怪我は」


先にフリーズが解けたのは副団長さんで、倒れこんだ時に私の頭を庇ったのか後頭部に手が。


「急に起き上がるのはよくない。そう、ゆっくり」


密着がなくなり重みは消えたものの、肩を抱かれ半身を起こしてくれた。それでもまだ近すぎる。


「クラリス!ルビー! これはどういう事だ?!」


彼の顔を向けている方向を自分も見てみるけど、薄暗い中、閉まった扉しかない。


「何がなんだか」


そもそも、どうして副団長さんが? 私の呟きに視線が私だけに向けられて。でも、よくある恋愛ドラマとは違い甘ったるさは勿論ない。けれど、怒りと私と同じ困惑さが伝わってきた。


「どうやら閉じ込められたようです」

「えっ?」


見て下さいと扉を顎で示し、彼は右手を軽く振った次の瞬間


バチバチッ


黄色い火花のようなものが飛んだ。


「クラリスが力を練り上げ隙間を埋め扉を封じている。また、これは、ルビーか。おそらくルビーが外部と連絡が取れないよう力を遮断させる膜を部屋全体に施したようだ」


あら、扉近くに湯気が。

薄暗いなか、近づけばキャスターつきワゴンに食事が乗っているようだわ。


「紙がある」

「見せて下さい」


そこには。


『ユリ様、不敬をお許しください。少ししましたら扉は開きます。グライダー副団長、ユリ様を説得して下さい!』



ペロンと一枚の紙にさらっと書いてあるけど。

しばらくってどれくらい? いえ、幸いにも、この部屋はトイレお風呂完備である。


グシャ


彼が手紙を握りつぶした音につい、ビクッとしてしまう。随分おかんむりだわね。


ああ、私だって。


眺めているだけでよいと思っていた人とよりにもよって寝室で二人っきり。


女神様、なんとかしてくれないかしら?


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