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孤独に負けてたまるか!

作者: 上原直也

 せっかくの金曜日の夜だというのに、何も予定がなかった。会社帰りの道をひとりでトボトボと歩いていく。


最近誰もわたしの相手をしてくれない。最後の砦だった彩子にまでフラれてしまった。彼女に恋人ができたのだ。・・彩子だけは仲間だと思ってたのに。裏切りもの!・・とはさすがに思わないけど、でも、やっぱりちょっと寂かったりする。ひとりだけ取り残されてしまったような感じがして。


まあ、でも、やっと彼女も幸せになれたんだものね、友人として祝福してあげなくちゃいけないか、と、自分自身に言い聞かせるように思う。


寒い。十月も下旬に入って急に肌寒くなってきた。特に夜は冷える。夜の色素を含んだ冷たい風が、衣服をすり抜けて心まで吹き込んでくるような気がする。


街の光は明るくて、暖かくて、賑やかで、そのキラキラとした街の光はわたしの心をチクチクと刺す。こんなとき、誰が側にいてくれるひとがいたら、今のこの寒さも、きっと逆に心地よく感じられるのだろうけど。


もしかすると、わたしはこのままずっとひとりなのかもれしないなぁ、とポツンと思う。そう思うと、どうしようもなく寂しくなった。極端な孤独感は水が冷えて固まるときのように膨張してわたしの心を傷つけていく。恋人がいないくらいで大げさだけど。でも、そんな感情はどうすることもできなかった。


このまままっすぐ帰る気にはなれなかったので、目についたセルフスサービスのカフェに入った。金曜の夜のせいか店は混雑していて、賑やかな話し声が店内に溢れていた。カップルや友達連れのひとたちばかりで、わたしだけがひとりきりでいるような感じがした。


店を出ると、家に向かって歩き出した。ふと何気なく夜空に視線を向けると、三日月が明るく輝いていた。少し目に冷たいような感じのする、透き通った優しい光だった。その光を見ているうちに、わたしは唐突に昔好きだったひとのことを思い出した。もうそのひとのことは忘れたと思っていたのに、それとは違う感情が、まだ、わたしの心のなかには残っていたみたいだった。


家に帰ってから料理をする気にはとてもなれなかったので、アパートの近くにあるコンビニで弁当を買った。それと飲み物とデザートを少し。


一人暮らしだから、玄関を開けてももちろん誰もいない。孤独が、息をひそめてわたしことを待ち構えている。音がないとなんだか心細いので、とりあえずという感じでテレビをつけ、そのテレビをつけっぱなしにしたままお風呂にはいる。そしてそのあとに遅い夕食をとる。食べた弁当は、いかにも身体に悪そうな味がした。


つけっぱなしのテレビではだいぶ前に話題になった映画が流れていた。そしてそれは、昔付き合っていた彼とはじめて観にいった映画でもあった。


思い出すつもりなんて全くなかったのに、わたしは彼と一緒に過ごしたたくさんの時間を思い出してしまった。記憶が、わたしの心を無理やり通り抜けて行くような感覚があった。すぐにチャンネルを変えればいいのに、でも、なぜかわたしはそうすることができずにいた。 


別れたのは、彼の浮気が原因だった。彼が以前付き合っていた恋人と隠れて会っていたのだ。彼はただ相談に乗っていただけだと言ったけれど、わたしは彼のその言葉を信じることができなかった。


彼は何度もわたしに謝ってきてれくれたけれど、そのときわたしはちょっと意地になっていて、彼のことを許してあげることができなかった。


でも、と、思う。もしかしたら、彼はほんとうにただ相談に乗ってあげていただけなのかもしれない、と。あるいはあのとき、わたしが彼のことを許してあげていたら、と。だけど、今更そんなことを思ってみてもはじまらないのだけど。


と、唐突にケータイの着信音が鳴った。見てみると、それは彩子からのメールだった。


わたしがひとりで落ち込んでるんじゃないかと心配に思ってメールしてきてくれたみたいだった。彩子からのメールを読んでいるうちに、ふと思わず笑みがこぼれた。彼女の気遣いは単純に嬉しかった。わたしは彩子に向かって、余計な心配はしなくていいからとやせ我慢のメールを送信すると、ケータイを閉じて、立ち上がった。


そういえば、さっきコンビニで買ってきたデザートがまだ残っていたことを思い出した。早速、冷蔵庫からデザートを取り出すと、スプーンで掬って、一口口に含んだ。


甘くて優しい味が口のなかに穏やかに広がっていった。甘いものさえあれば、独り身のの切なさなんてなんでもないや、と悟った。


孤独に負けてたまるか!とわたしは思った。


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