プロローグ、はじまりの想い 見城三月
登場人物多くなって読みにくいとは思いますがこのプロローグに名前が出ている人物中心に進めていくので他の登場人物は今章ほとんど出番はありません。
俺は一般的な人と比べて三つの大きなアドバンテージを持っている。
その一つが前世の記憶だ。俺は、この世界を外側から観測したことがある。
その世界には魔法なんてものはなかった。もちろん魔物や迷宮もいなかった。妖怪とかは御伽噺の世界だった。だから、創作の中でたくさん設定が作られて、いろんな作品で愛されていた。この世界は、そのうちの一つだった。
科学技術の方はよくわからない。たぶん同じくらいだと思う。どちらの世界も月の有人探査は俺が生まれる前にはすでに終わっていて、火星の有人探査は前例がない。無人探査は向こうでもこっちでもどこまで行ってるのか知らない。
そして、この物語の主人公は音斑佑。見城三月はその親友の名前だった。
この物語は春休みから始まって、世界の危機である地龍を倒すことによってルート分岐する。ただ、俺の関わっているところでもそうでないところでもいくつかシナリオの改変が起こり、もう俺の中にあった未来予知の如き知識はほとんど意味をなさない。
前世の俺はその物語の人気投票では主人公の音斑佑に票を入れていた。
別に男色の気があるとかそういうことじゃない。
『地』『水』『火』『風』それぞれの魔力属性を持つヒロインも普通に好きだったし、特に幼馴染の『水』ヒロイン、紀伊原鏡に心奪われたことは数知れない。
ただ、それでも俺は登場人物よりも世界観、物語が好きだった。
最初は関わることができるだけで十分と思っていたけど、それじゃあ満足できず、隣に立ちたいと願ってしまった。何せ、原作通りなら見城三月ではほとんど物語に関われない。ただのルームメイト止まりだ。人気投票では投票先にかろうじて名前が載っていたけど、完全にネタ枠だった。
強くならないと世界に関われない。
強迫観念じみた憧憬は、俺に何度も挫折させながら、それでもある程度は強くしてくれたと思う。
ただ、佑の成長はそれ以上だった。
地龍が現れたとき、本来なら佑はもともと発現していた『増幅』とその時になって覚醒する『消失』という魔法で撃退するはずだった。
ところが、『消失』のフラグは失われ、『増幅』だけでは届かない佑は負けるはずだったところを『融合』という、原作にさえ登場しなかった俺には未知の魔法で地龍を打倒してしまった。
たぶんその時の感情は安心だったと思う。
確かに世間に発表された英雄の名前に俺の名前はなかったけど、無関係じゃないことは他ならない佑達がよく知っている。
俺の力は、間違いなくこの世界に響いた。
佑も、フラグを折られてさえ目的を達成できることを証明したから、もう俺が佑の心配をするなんて烏滸がましい。
それに、原作ではもう世界の危機はもう存在しない。大仕事があと一つ残っているけど、あんまり心配はしていない。今の俺ならちゃんと物語に関わることができる。
この世界に生まれて十九年。
ようやく俺自身のやりたいことが見つかった。これが俺のやるべきことだなんて言うつもりはないけど、これが俺がやりたいことなんだと胸を張ることはできる。
さぁ、見城三月の物語を始めよう。