襲われる馬車
街に向かって歩くこと、1時間半。
街に続く道、いわゆる街道に出ることが出来たけど、まだ、街は見えない・・・。
やばい、疲れた・・・。しかも汗だくだ。
僕は基本、インドア派だ。日々、研究に没頭しているため、ほとんど運動をしない。
そんな僕が、もうかれこれ2時間は歩いている・・・さすがに疲れてきた。
これ、あれだ。
僕の体が小さいから、思った以上に時間がかかっているんだ・・・。
ナナリーの時間の見積もり(2時間から3時間くらい)に1時間も幅があったのはこの為だったのかも・・・。
この調子で行くと、あと1時間は歩き続けるのか・・・。
お先真っ暗である・・・。
チラッとナナリーを観ると、すごく楽しそうに歩いている。
もちろん汗など一滴もかいていない。当たり前である。アンドロイドなのだから。
最悪はナナリーにおんぶしてもらうことを考えていると・・・
「マスター、後方から馬車が近づいてきます。かなりの速度です。」
僕は後ろを振り返り確認する。
かなりの土煙を上げて、一台の馬車が猛スピードで近づいてきていた。
そして、御者らしき人が大声で言う。
『嬢ちゃん達!!! 後ろから、盗賊団が来ている!!! スピードを落とすから、荷台に飛び乗るんだ!!!』
と、盗賊団!?た、大変だ! と思った瞬間に僕はナナリーの抱えられた。
「マスター、舌を噛まないように注意してください。」
「う、うん。」
そして、僕はナナリーに抱えられ、馬車の荷台に飛び乗った。
どうやら、この馬車は商業用の馬車なのか、荷台には様々な荷物が乗っていた。
その荷物に隠れて、2人の人がいた。30代前半くらいの女性と、10歳くらいの女の子だった。
女性の方は、金髪、青目で、腰まである髪にはウェーブがかかっている。おっとりしてそうな美人であった。さすがに、今の状況でおっとりとはしていないが。
女の子の方も、金髪、青目で、肩まである髪はストレートだった。
おそらく親子なのだろう、とても良く似ている。
「僕は、ロゼといいます。こちらは、ナナリーといいます。危ないところを助けていただきありがとうございます。」
僕とナナリーはペコリと頭を下げた。
「私は、マリーといいます。御者をしているのが、主人のロイドで、この子は娘のエリーです。」
「エリーです。」
自己紹介を終えると、ロイドさんがマリーさんに声をかけた。
「マリー、盗賊団がかなり接近してきている。このままでは追いつかれるのも時間の問題だ!
命には換えられない!荷台の荷物を盗賊たちの進路を妨害するように捨てていってくれ!」
「わかったわ!あなた!エリーも手伝って!」
「うん!ママ!」
「マスター、どうしますか?」
「ナナリー!相手の人数とかわかる?」
「数は48人です。全員が馬に乗り、中にはかなり豪奢な鎧を装着しているものもいます。」
数が多い・・・。
それに、盗賊団が豪奢な鎧を装着するものかなのかな?
などと考えていると、会話が聞こえていたのか、マリーさんが答えてくれた。
「彼らは、最近この辺で勢力を急速に拡大してきている盗賊団で、つい先日、王国騎士の討伐隊を返り討ちにしたので、その時に入手したのでしょう。」
「マスター!豪奢な鎧のデザインは統一されていますので、間違いないと思われます。」
どうしたものかと、ナナリーと相談しようとしたその時・・・
ヒュッ!
風切り音が聞こえた時には、僕は、ナナリーに抱き寄せられ、それと同時にナナリーの手には折れた弓矢が握られていた・・・。
「た、助かったよ、ナナリー。」
しかし、ナナリーはプルプル震え、何かをブツブツと呟いている。
今のは、危なかった・・・。今の弓は完全に僕の正面を捉えていた。馬に乗って揺れている状態で命中させてくるとは、かなりの手練だ・・・。
この精度の弓を連発されると、荷物を捨てても逃げ切るのは無理かもしれない・・・。
ここは迎撃にでるしかないか・・・と考えていると・・・。
プルプル震えているナナリーは小声で言う。
「マスター、殲滅の許可を。」
考えることに集中していたこともあり、小声で言ったナナリーの言葉は良く聞こえなかった。
状況的に余裕もなく、僕はあいまいな返事をしてしまった。
「え?う、うん。」
次の瞬間、追ってきていた盗賊団は、その地形と共に消滅した。
ナナリーの右手から発生した巨大なレーザービームによって・・・。