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第五回 踏切で出会った男

   

 昔こんな話を聞いたことがある。

 姉と弟あるいは兄と妹といった『異性のきょうだい』間での恋愛を禁じるのは、遺伝子に刻み込まれた忌避感なのだ、と。

 本当かどうか定かではないし、当時は俺も話半分に聞いていたが……。

 この『響谷ひびきだにつばさ』という体に転生してしまった今ならば、俺は「本当だ!」と断言したい。

 なにしろ。

 響谷ひびきだにあいという魅力的な女性の、たわわな裸胸ムネを前にしても、今の俺の体は、全くピクリとも欲情しないのだから!

 もしも転生前の俺が、どこかで響谷愛に出会っていたら、しかも目の前で彼女が寝間着のボタンを外して胸をさらけ出そうものなら……。

 とても俺は、冷静な気持ちでは、いられなかっただろうね。

 しかし今は、そんな状態の姉を前にしても、なんとも思わない。

 魂とそれが宿る肉体は無関係ではないとみえて、この体に引っ張られて、俺の魂も「姉に惚れた!」とか「このまま襲ってしまいたい!」という気持ちには、なれないらしい。

 ある意味、残念な話である。


 まあ、そんなこんなで、特に問題もなく俺は姉の体を拭き終わり。

 とりあえず看病として、それ以上やることもないので、

「では、姉さん。ゆっくり休んでください」

「ああ。また何かあったら、翼を呼ぶからね」

「はいはい。いつでも駆けつけますよ」

 軽口を言いながら姉を再び寝かしつけて、姉の家を出た……。


 ……などと、姉の家での様子を回想しているうちに。

 ちょうど列車が通過し終わって、踏切の音が止まる。続いて上がっていく遮断機を何気なく見ていたら、踏切の反対側に、見知った顔があることに気が付いた。

 向こうも俺に気づいたらしい。歩きながら軽く手を振って、俺に声をかけてきた。

「やあ、響谷君。あのひとの家からの帰りかい?」

 俺の体の持ち主であった『響谷翼』が、我孫瓦あびがわら警部と呼んでいた男だ。

 元々は姉ではなく弟の方が何度も事件に巻き込まれ、その縁で知り合いになったらしい。もちろん弟を介して姉とも面識あるのだが、何か含むところがあるようで、弟を『響谷君』と呼ぶのに対し、姉のことは名前ではなく『あのひと』と呼ぶ。

「そうです。また姉に呼ばれまして」

 俺が警部の質問に肯定を返すと、少し誤解したようで、

「そうか。私の管轄外で、事件に巻き込まれたのか」

「違いますよ。今日は事件の相談ではなく……」

 俺が姉の病状を説明すると、

「なるほど……。寝込んでいるなら、訪問は控えたほうがいいかな……」

 少し考え込む表情の我孫瓦警部。

 言われてみれば、彼は俺とは逆方向に歩いてきたわけだから、今から姉の家に行くつもりだったのだろう。

 ならば、俺は尋ねてみる。

「何か警部の手に余るような、難事件でも起こりましたか?」

   

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