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ころしや探偵の事件簿「記録に残されたアリバイ」――転生先は探偵助手――  作者: 烏川 ハル


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第三十二回 再び、居酒屋にて・その一

   

 あれから数日後。

「さあ、今日は私のおごりだ。どんどん飲みたまえ」

 同じ居酒屋で、俺は再び、我孫瓦あびがわら警部と向かい合っていた。

 まだ夕飯どころか、昼飯の時間帯なのだが……。まあ、少しくらいなら構わないか。

「ありがとうございます。でも今日は、この後ちょっと用事があるので、あまり……」

「そうか、それは残念。では響谷ひびきだに君の分まで、私が飲むとするかな」

「ええ、どうぞ。それより、事件の話を聞かせてもらえますか? そのために今日は来たのですから」

「ああ、そうだな。どこから話すとするかな……」

 警部は、さっそく運ばれてきたビールに口をつけてから、

「……結論から言えば、君の考えた通り。犯人は、山田原やまだわらおさむだった」


 前回、この同じ居酒屋で呑んだ時。

 何気なく周りを見渡した俺は、料理を運んできた店員と何やら言い合っているテーブルがあるのを見つけた。

 耳をそちらに傾けてみると、

「おいおい。こんな大皿、三人前も頼むわけないじゃないか」

「すいません。でも確かにオーダー表に……」

「ちょっと見せてみろ。……おい、これ『三』じゃなくて『二』だぞ。上の棒と下の棒の間に、ゴミがついてるだけじゃないか。紛らわしいなあ、漢数字じゃなくて算用数字で書いておけよ」

「ほんとだ! いやあ、すいません。これはこちらのミスですので、お代は……」

 その瞬間。

 探偵でもなんでもない、いつもは――といっても元の響谷ひびきだにつばさの『いつも』だが――姉の引き立て役にすぎない、こんな俺でも閃いた。

 秋座あきざ吾郎ごろうの日記の『二十三日』も、本当は『二十二日』なのではないか、と。

 もちろん、居酒屋の場合とは違って偶然の汚れなどではなく、犯人の意図的なトリックなのだろう、と。


「鑑識で詳しく再調査してもらったよ」

 警部が話を続ける。

「インクの乾き具合などから見て、同じ時期に書かれたものではない、と判明した。犯人は『二』の真ん中に、後から短い線を書き加えて、『三』に仕立て上げたわけだ。まったく、あの連中、最初から全部のインクの詳細まで調べておけば……」

 警部は、鑑識に対する愚痴も付け加えた。

 素人考えだが。

 科学的な調査のためには、サンプルとして文字の一部を微量ながら削り取って使いそうだから、文字の一画一画まで全部、綿密に調べるのは無理なのではなかろうか。今回のように指定された箇所だけ調べるのが精一杯なのでは……。

「さらに、『三』の三本の棒の筆圧が不自然なことも判明した。真ん中の一本だけ、強い筆圧で書かれていたらしい」

 そこまで調べる鑑識は、愚痴の対象どころか、優秀なのではなかろうか。

「これこそ偽造の決め手だよ。『三』という字を書く時に、真ん中の線だけ押し付けるように書く人間なんて、普通いないだろう? 少なくとも、秋座吾郎に、そんな癖はなかった。他のところにある『三』という文字を見る限りな」

 さらに続けて、

「もちろん最初に筆跡鑑定した際、日記の筆跡は、自宅に残った部分と照らし合わせていた。しかしコピーではない以上、一字一句、完全に一致するわけではないからねえ。こうやって着目されるまでは、見落とされていたわけだ」

   

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