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ころしや探偵の事件簿「記録に残されたアリバイ」――転生先は探偵助手――  作者: 烏川 ハル


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第二十六回 警部は語る・その十六

   

秋座あきざ吾郎ごろうは……」

 上司の話によると、話題の秋座という人物は、いわゆる私立探偵。『あきざ探偵事務所』なる興信所を経営していた。こういう仕事は、普通は人手が必要なものだが、この男は、何から何まで一人でこなしていたという。

 上司の机の散らばった書類の中には、一枚のビラもあった。それを上司は、グイッと私の方へ差し出したが、こんな宣伝文句が載っていたよ。

『浮気調査、人探し、素行調査、つきまとい対策など、なんでも引き受けます。対人関係工作、アリバイ工作までお任せください。あきざ探偵事務所』

 もちろん、私の目に留まったのは『アリバイ工作』という言葉だ。

 上司は私の視線に気づいて、無表情なまま続けたね。

「そうだ。知られては困るような行動、といっても違法行為ではなく浮気行為みたいなものかな。その際、相手側に浮気調査やら素行調査やらをされても大丈夫なように、アリバイ工作をするのだ。最近では、そんな依頼も増えてきたらしい。そして、そうした仕事こそ秋座吾郎の得意分野だった」

 ここで、上司が少しクスッと笑った。無常表な上司には珍しい、と思ったが、彼の次の言葉を聞いて、私も納得したな。

「秋座吾郎は、変装術に長けていたらしい。変装する探偵などと聞くと、昔の子供向け娯楽小説に出てくるような、ヒーローじみた探偵を思い浮かべるかね? いや、もちろん、そこまで完璧な変装ではない。顔見知りには通じない程度だが、他人である調査員が相手のアリバイ工作には、十分だったらしい」

 なるほど。特に相手側の調査員だって、たいていは近づき過ぎずに、遠巻きにつけまわすだけだろうからな。余計、稚拙な変装でも通じるのだろう。

 ……などと悠長に考えていられる場合ではなかった。

 上司の言葉を聞きながら、私は、おさむただしの証言を思い出していた。そして、ある推理が、頭の中をグルグル回り始めた。


 二十二日。修は、小学校の同窓会へ行っていた。だが、小学校時代の友人との付き合いはなく、十数年ぶりに会う者ばかり。つまり、その場に顔見知りは誰もいなかった。小学校時代のエピソードなど前もって伝えておけば――少しくらいあやふやでも小学校時代なら「忘れていた」で通じるから――、姿形のよく似た別人でも代わりが務まるのではないか……。


 二十三日。正は、喫茶店で長時間、過ごしていた。行きつけの店ではないから、店員たちは正の顔見知りではない。それでも店員たちの印象に残ったのは、正が何もせずボーッと虚空の一点を見つめ続けていたせいだ。それは本当に正だったのだろうか。別人が変装して喫茶店に行き、店員たちの印象に残るように、敢えてそんな奇行に走ったのではないか……。


 この二つの考えが、私の頭の中でしばらくの間、バターになる勢いで追いかけっこをしていたね。

   

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