涼風に乗せる言葉の在り方を
この手紙を読んでいるとき、君はこの町の上空にいるのかな。
そこから何が見えている? 想像しようとしてもできないな。
君はここ最近、よく昔の話をしていた。俺が覚えていない話ばかりだった。
小学校の頃の話が中心だった気がする。遠足や修学旅行みたいな特別な日はよく雨が降ったこととか、腕に打った剣山みたいなやつが痛かった話とかをしていたのが記憶に残っているからかな。
あ、あと俺が度胸がなかった話もしていた気がする。
確かに学習発表会での劇が酷かったことは流石に覚えていたよ。セリフは忘れるし、声は出ないし。
俺が嫌な顔をする度、君は何度でも嬉しそうに話をしていたね。
この手紙を書きながらその理由が分かってきた気がするよ。
帰り道、校舎の自販機で売っているレモンスカッシュ片手に話をした。
それがもうできないんだなと思うんだけど、思うだけでまだ実感は無い。
君もきっとそうなんだろ?
君が旅立つ前に一つだけやりたいことがあると相談してくれたね。
それが「夜の学校に忍び込みたい」だった。
それから俺はどこか抜け道が無いかと探してさ、
実は穴なんてどこにも無かったんだ。
あれ、俺が壊したんだ。
バレないようにコツコツと切っていたんだ。
どうだ、たまにはやるだろ?
君の高校生活最後の願いだからね。何とかして叶えてあげたかったんだ。
これでさようなら、これで最後。
そんな風になんて思いたくないけど、君に伝えておくべきだと思う。
深夜のプールではきっと伝えられないだろうから。
そこはあの頃から変わらないんだな
好きだよ。
今の時代、メールもあるからきっと寂しくないさ。
いつか「おかえり」が言える日を楽しみにしている。
また会おう。
読んでいただき、ありがとうございました。