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新年パーティー 2

 お昼前ごろになると、お城の外も騒がしくなってきて、何代もの馬車が次々と門の中へと入って来る。

 華美な装飾を施された馬車から降りていらっしゃるのは、やはりめいっぱい綺麗に着飾られた若くて綺麗な奥方で、お連れになっていらっしゃるお子様も負けじと華やかな衣装を身に纏っておいでだ。

 リーベルフィアで魔法顧問の職をいただいてからは、このようなパーティーに出席させていただくことも多い、というよりもほぼ毎回出席させられているのだけれど、まったく慣れる気配はなかった。むしろ、中途半端にマナーなどを学んでいるために、余計に動きがぎこちなくなるというか、余裕がなくなるというか、とにかく僕はとりあえず出席はしなくてはならないという事なので出席はするけれど、出来るだけひっそりと、隅の方で大人しくしていたいと思ってはいる。残念ながら、毎度そうはいかないのだけれど。

 会場の警護なのだと必死に言い聞かせながら、落ち着かないのを誤魔化すために会場内を歩き回る。


「そんなにしてたら何だか怪しそうに見えるわよ」


 たくさんの料理を乗せた台を動かしながらユニスが注意をしてくれる。

 

「どうせこれからも同じような機会はたくさんあるのだし、はやく諦めて慣れてしまおうとした方が賢明よ」


「そんなに簡単に出来ないよ」


 僕だけの問題で済むのならばまだしも、どこの蛮族とも分からない魔法顧問を雇い入れていらっしゃるなんて、とか、王家の皆様の噂に繋がるような真似は出来ない。

 ロヴァリエ王女の時は、パーティーの前に魔法の授業やリーベルフィアの観光などでご一緒させていただいたり、それなりに慣れる期間があったわけだけれど、普段から会うことのない高貴な方々と(最も高貴な方といつも一緒にいるのではと言われると返す言葉もないけれど)このような場でというのは、中々に大変なものがある。


「仕方ないわね」


 ユニスは小さく溜息をつくと、辺りの様子を窺いながら、


「このように隅ではなく、もっと皆様の方へ行かれてはいかがですか、ユースティア様」


 普段は絶対に使わないような敬称をつけて、会場内の全員の注意を引くような声でそんなことを言ってきた。

 途端、会場内にいらっしゃる奥方や殿方の視線が僕たちへ向かって集まるのが分かった


「ちょっと、ユニス!」


 僕は抗議をしたのだけれど、すでに遅く、ユニスは、じゃあ、がんばってね、と言い残して、その場を離れて行ってしまった。


「ユースティア様!」


 華やかに着飾られたお母様方や、紳士然としたぱりっとした服に身を包まれた殿方が、何人もやって来られた。


「わたし、ユースティア様にお話しをお聞きしたく思っておりましたの」


「あら、私が先ですわ!」


「私もどうかお願いいたします。あの魔導書の項目の事で––」


 ナセリア様とは違うのだから、いっぺんに色々な本を開くことが出来ないように、1度にたくさんの方から話をされても僕には同時に答えることは出来ない。

 一応、簡単なものでいいのであれば、例えばメニューから出されることが決まっている食堂の注文などであれば、以前働いていたこともあって、出来るかもしれないけれど、魔法に関することとはいえ、まったく違う内容を10数人から同時に話されて理解できるはずもなかった。

 しかし、女性を––男性もいらしたけれど––蔑ろに扱う事など出来るはずもなく、ようやく覚悟を決めて話しをしようと思たところで、


「これより国王様、王妃様、並びに王子様、姫様のご入場です」


 舞台の上へと皆様の視線が向けられた。

 国王様と、レガール様と手を繋がれた王妃様が、連れ立たれてゆっくりと、エイリオス様が緊張なさっているようなわずかにぎこちない歩き方で、ミスティカ様の手を握られたフィリエ様がにこやかに笑顔を振りまかれながら、そして最後に大理石を削って作った美しい人形のような横顔を、わずかたりとも動かされずに、唇を閉じられたナセリア様がゆっくりと入って来られた。

 フィリエ様とミスティカ様にも言えることだけれど、ナセリア様はいつもは肩から下へもずっと流していらっしゃる銀色の髪を、今日は見事に結い上げていらして、目を離すことが出来ずにじっと見つめてしまっていると、ナセリア様がこちらへ気づかれたらしく、僕へと宝石のような金の瞳を向けられた。

 僕とナセリア様が立っていらっしゃる場所には、実際の距離以上に大きな、大きな差があるのだけれど、そのことを忘れてしまいそうになるほど、周りの音も聞こえずに見つめ合ってしまった。


「国王様よりご挨拶が御座います」


 いつの間にやら辺りは静まり返っていて、壇上では国王様が話を始められていた。

 長くは語られず、国王様がグラスを掲げられると、周りの方もグラスを掲げられ、それから拍手が起こった。

 王妃様に促されて、素敵な笑顔を浮かべられたフィリエ様を先頭に、ミスティカ様とエイリオス様、そしてナセリア様が壇上から降りてこられると、あっという間に参加者の方に囲まれていらした。レガール様は王妃様のお近くにいらしたけれど。

 

「アインズヘルト侯爵の次女でタリアンヌと申します。エイリオス様より1つ年下の8歳です」


「どうぞお見知りおきください、エイリオス様。私はバーンシュタインタイン子爵の娘で、カトリーヌと申します。先日、12歳になりました」


「私の父は学院で数学の教師についております、キャロラインと申します。エイリオス様と同じ9歳です」


 エイリオス様はかなり目を白黒とさせていらっしゃるご様子だったけれど、それでも何とか一生懸命なご様子で貴族のお嬢様方に挨拶をされていらした。

 どなたも無邪気な笑顔を浮かべられていたけれど、真っ直ぐに人の好意を信じられずにいた僕は、どうしてもご家族から色々と言い含められているのではないかと疑ってしまっていた。

 しかし、エイリオス様の方はまだ平和な方だったのだと思い知らされた。


「ふーん。それであなたは何が出来るの? 燃え盛る炎の輪の中をくぐってみたりしてくれるのかしら? それとも、天井からぶら下がったり、玉の上で逆立ちでもしてくれるのかしら?」


 ミスティカも見てみたいわよね、と姉姫様に促されて、ミスティカ様がよく分からないといった表情を浮かべられながらも頷かれている。


『フィリエ様』


『何よ、ユースティア。そんなに心配しなくても大丈夫に決まってるでしょう』


 つまらないから暇つぶしよ、本当にするわけないでしょう、とフィリエ様はおっしゃられたけれど、その目の前の男の子たちは、すぐに用意してみせますと大変意気込んでいらっしゃる。


『出来なければそこまでだし、本当にするような考えなしなら、そもそも相手にする必要もなくなるしね』


 王妃様がお聞きになられたら卒倒されてしまうような内容をそんな風に気軽に話してもらいたくなかった。


『だって、一々あしらったりするのも、毎年面倒なんですもの。それに、すぐにフラれちゃ可哀想でしょう。私もいつかは、格好良くて、優しく紳士的で、思いやりがあって、誰からも好かれていて、包容力も、素敵な話術も、もちろん強さも持ち合わせた、私を1番に愛してくれる人を見つけるのだけれど、それは今じゃないわ』


 どうやら以前フィリエ様が仰っていらしたことは本気であったらしい。

 僕がどうこう口を挟めるものではないので、言及したりはしないけれど。


『そんなことより、私よりも、お姉様についていた方が良いんじゃないの? お父様も‥‥‥いえ、何でもないわ。とにかく、ユースティアはお姉様のことを見ていてあげて。1番に』


 フィリエ様に言われたからというわけではないけれど、僕はその場から離れていらしたご様子のナセリア様を探した。

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