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お墓を建てる

 国王様のお部屋へ向かう際中、それとなくナセリア様にお尋ねしたところ、リーベルフィアの東の方の立ち並ぶ住居の地区の中にはいくつか教会が建てられていて、広場にあるものと同じ、デューン様とアルテ様の像がいらっしゃるのだという。

 教会の敷地の庭にはお亡くなりになった方を弔うためのお墓が建てられている場所もあって、多くの方はそこにお眠りになっているのだという。他の場所だと、田畑地帯の先、リーベルフィアの国土の南端の方にも、墓標となるような石碑がいくつも並んでいるとのことだった。


「それは、誰が建ててもよろしいのでしょうか?」


 僕がお声をかけると、ナセリア様は振り向かれ、何もかもを見透かしているような、宝石のような金の瞳で、じっと僕の事を覗き込まれた。

 出来る限り表情や声には出さなかったつもりだけれど、話題が話題だけに、知られてしまうのは仕方のないことかもしれない。


「ええ。亡くなった方を弔う権利は何者にも侵されない権利ですから」


 ナセリア様は国王様と王妃様の寝室の扉をノックされた。


「お父様、ナセリアです。起きていらっしゃいますか?」


 時間が時間だけに、国王様は未だお休みらしく、部屋の中から声は聞こえてこなかった。ナセリア様は再びノックされたけれど、結果は変わらなかった。


「申し訳ありません、ユースティア。お父様には朝食の際に尋ねてみますから、それまで待っていてくれますか?」


「頭などお下げにならないでください。それから、誰にでも権利があるということですので、国王様にお城の敷地内というご許可をいただかずとも、私が自分でその南の方へ行って参ります。やはり、お城の中に墓標を建てるというのはいささか、かなり問題があるでしょうから」


 毎日お参りするのに近い方が良かったと思っていたけれど、大分考えが浅かった。お城の中にお墓を建てるなど、正気の沙汰ではないだろうし、毎日のお参りであれば、リーベルフィアの南端程度、1人であれば、朝のわずかな時間でも十分に行って帰ってくることは出来るだろう。


「そのような事、誰も気にしたりしませんよ」


 ナセリア様はそうおっしゃってくださったけれど、僕はいいえとお断りさせていただいた。

 お墓を建てたって、何の償いにもならないことは分かっているし、ティノ達だって、そんなことをしている暇があるのだったら、もっと別の、楽しいと思えることをしなさいよ、と言ってくれることだろう。

 謝られても迷惑だと、そう言われるかもしれなかったけれど、やっぱり僕はきちんとティノ達に謝りたかった。

 ありがとうございますとお礼を告げて、その場を立ち去ろうとしたところで、何かが僕のところへ引き寄せられてくるのを感じた。

 僕は魔法を使っていなかったし、使ったとしても、おそらくはここではない世界に忘れて、置いてきてしまったものだったから、到底引き寄せることなど出来るはずもないと思っていたけれど。


「これは‥‥‥」


 辛うじて原形をとどめており、何とか衣服だと分かるような状態のものだったけれど、自分で作った、最初の贈り物の事を忘れるはずもない。

 全部で6人分の、ぼろぼろのワンピースやズボンは、色褪せ、破れたりしていた。

 

「ユースティア?」


 僕が声を出したので、立ち止まれ、振り向かれたのだろう。ナセリア様が驚かれているような瞳を、僕と、それから僕の抱えている服へと向けられる。


「どうしたのですか? その‥‥‥布は?」


 ナセリア様は辛うじて布とおっしゃられたようだけれど、この有様では他の人の目から見ればボロか、ゴミのようにしか見えないだろうことは十分に承知している。

 誰にわかって貰えずとも、これは僕の大切なものになるはずだったということには変わりがない。

 今度、布を買ってきて、同じものは無理だけれど、今できる最高のものを作って、墓標に飾ろう。これは、僕が大事に、大事にとっておこう。


「‥‥‥なんでもありませんよ。それよりも、本日の授業はお休みにさせていただいてもよろしいですか? 明日には今日の分までしっかりお教えいたしますので」


「‥‥‥分かりました。フィリエ達には私の方から伝えておきます」


 ナセリア様は少し寂しそうに目を伏せられて、そのまま背中を向けて歩いていってしまわれた。

 お声をかけるべきだったのかもしれないけれど、何と声をかけたらよいものか分からなかったし、それは果たして正しいことなのか自信も持てなかった。

 また食べずに動き続けて、倒れる寸前になると、ユニスか、他の誰かにでも、強制的に休みをとらされてしまうことになるし、雑なものは作りたくなかったけれど、時間は限られている。すぐにでも行動しないと、足りなくなってしまうかもしれない。

 ナセリア様たちが朝食をお取りになっている間に、僕は外出の許可証をいただいた。



 ◇ ◇ ◇



 手早く朝食を済ませ、外出の許可証を提示してお城を後にする。

 城壁を跳び越えてゆくなど出来ないし、魔法顧問という職に就かせていただいているのだから、外出する際の確認だけは取っておかなくてはならない。

 幸い、魔法師団の皆様は僕の外出を快諾してくださって、むしろ、もっと休みを取ってくださいと怒られた。


「ユースティア殿はもっとご自分の事をお考え下さい」


「騎士団もおりますが、あなたは国防の要なのですぞ」


 どうやらもっと休みをとれと言われているようだった。


「そう言われましても‥‥‥、先日もお休みをいただいたばかりですし‥‥‥」


 何も用事がないのに休むというのはどう考えても暇になると分かっているし、そう簡単に姫様方の授業までお休みにするわけにはいかない。

 そもそも、休む、という概念を手に入れたのが、本当にここ最近の事なので、働くというか、何かしていないと落ち着かない気分になる。

 休んでいる間の食事をとるのは、気が引けるを通り越して、逆に気分が悪くなるし、あのように立派な部屋を使わせていただくのも気が休まらない。

 もちろん、姫様方にもご用事は色々とおありなのだし、毎日毎日というのは無理だというのは分かっている。ナセリア様は毎日僕のところへいらっしゃるけれど、本当に勉強熱心なお方だ。


「とにかく、丁度良い機会ですからご自分のなさりたいことをなさってください。今日1日、こちらのことは我らにお任せください」


 そうやって魔法師団の皆様が詰めていらっしゃる、本や薬草、石や木などに塗れた部屋を追い出されてしまったので、僕は1人で庭に出て、ティノ達6人と、それからシーリーさんの分の名前を彫るべく、仕舞っていた鉱石を取り出した。

 朝の陽ざしを浴びてきらきらと輝くそれは、透き通った色をしていたので、削った名前が見えづらいかもしれないけれど、立派なものにはなるだろう。


「あまり大き過ぎてもあれだし、小さすぎると何だかなあって感じになっちゃうからなあ」


 お城の庭で掘ろうと思ったのだけれど、そんなことをしていては皆様落ち着かれないだろうし、やはりそちらの方が良いだろうと思い、先に風車小屋のある方、リーベルフィアの国土、及びこの大陸の南の端の方へと移動することにした。

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