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音楽祭

 音楽祭は朝1番から始まるのではなく、昼前ごろに開催の宣言があるのだという事だった。

 ナセリア様の出番は1番最後だという事だったけれど、感謝祭と同じように国王様が開催の挨拶をなさるということで、ご家族全員でお出かけになるのだという事だった。

 朝食を終えて、僕が馬車のところまで辿り着いたとき、国王様と王妃様のお姿は見受けられず、若様、姫様方は5人全員がお揃いだった。ミスティカ様、レガール様も、クローディア様とではなく、今日はこちらに残られている。


「母上は父上について早馬でたくさん回られるので、レガールまで連れて歩くのは大変だろうということで、今日は私たちと一緒にいることになるが、よろしく頼む」


 国王様と王妃様は、僕が寝たのと入れ替わりくらいに起きられて、すぐにご出立なさったのだという事だった。

 リーベルフィアのあちらこちらへ、今日1日で回られるのはかなり大変なのではないかと思うけれど、それが国王としての仕事なのだと言われれば、僕がどう心配しようともあまり関係はないわけで、とりあえず、僕は目の前の、今僕がなさねばならないことに集中することにした。


「お任せください」


 馬車の扉を開き、姫様方から順番にお手を取って中へとご案内する。

 天鵞絨の台に最初に足を駆けられたのはミスティカ様で、王妃様、クローディア様とご一緒ではないためか、やや不安げな表情を浮かべていらした。

 

「ミスティカ、大丈夫よ。お母様とお父様はいないけれど、私たちがついているんだから」


 フィリエ様はそうおっしゃられると、ミスティカ様の手にご自分の手を重ねられて、一緒に僕の手に乗せられた。

 それほど大きい台ではないので、バランスなどに不安を感じられたけれど、フィリエ様はミスティカ様とご一緒に、落ちたり、バランスを崩されるようなことなどもちろんなく、優雅に馬車にご乗車になられた。


「ナセリア様」


 フィリエ様とミスティカ様をお連れした次に、ナセリア様に手を差し出す。

 ナセリア様はほとんど緊張されていらっしゃるようには見受けられず、いつもと変わらない表情をされていらした。


「そういえば、ユースティア。今朝はユニスと一緒に寝たって聞いたんだけど?」


 ナセリア様が台に足をお掛けになられたところで、馬車の中からフィリエ様がそんなことをおっしゃられた。


「危ないっ」


 同時に、ナセリア様が、大変珍しいことに、台を踏み外されて、僕の方へとよろめかれたので、僕は咄嗟にナセリア様を抱き留めた。

 

「ナセリア様」


「‥‥‥何でしょう」


 誤魔化すように澄ましたお顔をされたナセリア様は、どこか脹れていらっしゃるような雰囲気だった。


「大変失礼ですが‥‥‥縮まれましたか?」


 なんとなく意識してみると、抱き留めたナセリア様のお身体は、とっても柔らかくて、いい匂いがしたのだけれど、おさまりというか、抱いた感触というか、何だか以前よりもおさまりが良いというか、そんな感じだった。


「ユースティアが伸びたのよ」


 馬車の中からフィリエ様がお声をかけてくださった。

 僕の身長が伸びたからなのか。

 私だって成長しています、とナセリア様は呟かれていらしたけれど、なるほど、僕の成長の方がナセリア様よりも大きかったから、そんな感じに思えたのか。

 今はまだ、わずかに僕の方がユニスよりも背が低いのだけれど、もう少ししたら追い越すのだろうか。


「ユースティア。お姉様を、女性をエスコートしながら他の女性の事を考えるなんて、良い度胸じゃない」


 ナセリア様とユニスの違いを––具体的にどことは首が物理的に飛びそうなので口には出せない––考えていたところで、フィリエ様からじとっとした視線を向けられた。その奥からは、ミスティカ様のおどおどとした視線も感じられる。

 口には出していないはずだけれど、何故分かったのだろう。具体的に誰とはおっしゃってはいらっしゃらなかったけれど。

 でもたしかに、今はナセリア様のエスコートに集中しなくてはならないので、他の事を考えるようなことは出来ない。


「大変失礼いたしました、ナセリア様」


「別に、私は、ユニスの大きなお胸の事なんて、気にしてはおりません」


 僕は真摯なつもりで頭を下げたのだけれど、すでに時は遅く、ナセリア様はつんと前を向かれたまま、馬車に乗り込まれると、ご自身の胸元を見下ろされて、ぱたぱたとされていた。

 続けて、レガール様とエイリオス様が乗り込まれると、最後に僕が乗り込ませていただいて扉が閉められ、馬車はゆっくりとしたペース、というわけではなく、若干速いペースで走り出したため、僕は振動を抑える魔法を使用した。

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