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音楽祭に向けて 2

 音楽祭はたしかにお祭りだけれど、感謝祭のようにリーベルフィア全体が盛り上がるということではなさそうだった。

 伝統があることも確かだし、この時期に開かれるのだということを街の人たちも、皆さん、知っていらしたけれど。


「そりゃそうさ。うちみたいなギルドとか、酒場みたいなところでやる音楽ならともかく、音楽祭は国立のホールで行われるからね。申し込めば誰でも参加できるとはいえ、色々とハードルも高いんだろうさ」


 お城へ戻る前に立ち寄ったギルドで、シルエラさんはそのようにおっしゃられた。

 数日後の音楽祭に備えてか、ご自分の楽器を確かめていらっしゃる方もちらほらと窺える。お城から音楽ホールまでの距離はそれほど遠くはないけれど、湖や神殿、あるいは鉱山の近くや海の方に住んでいらっしゃる方も、リーベルフィア全土のお祭りということで、参加や見学にいらっしゃる方々も続々と集まってきていらっしゃるご様子で、ギルドは大分混み合っていた。

 

「まあ、いつかは収まりきらなくなるかもしれないね。でも、今までそんなことはなかったし、たしかにここは国立の音楽ホールに一番近い宿だけど、馬車に乗れば、ここからじゃなくても十分音楽祭には間に合うからね。もちろん、朝は早くなるだろうけど」


 リーベルフィアには冒険者ギルドは全部で4つある。

 これが、4つもあるなのか、大陸最大の歴史を誇る国であるにも関わらず4つしかないなのかの判断は僕にはつけるのが難しかったけれど、それこそ僕が来る前にも毎年音楽祭も、感謝祭も開かれていたのだから、僕が気にするようなことではないのだろう。

 少なくとも、音楽祭などに関する、出席、参加等に関しては。

 当面、僕が気にしなくてはならないのはナセリア様の警護の事であるのだし、お城からであればここまで半日ほどで辿り着ける。

 今すでに部屋が埋まりつつあるという状況に、姫様方がいらした場合の前日の宿という問題はあるけれど、ここからでなくとも馬車で当日朝に間に合うというのならばあまり気にする必要もなさそうだった。

 演奏前に長距離の馬車移動、とか、朝早くの出発になるといった問題はありそうだけれど、ナセリア様であればそういった問題にはすでに手を打たれていらっしゃることだろう。


「まあ、あんた達には不要な心配かもしれないけどね」


「ご心配頂きありがとうございます、シルエラ様」


 挨拶を済ませ、ギルドの外からお城へ向かって、文字通り、飛び出そうとしていた僕の前を、黒いマントに、黒いフードを被った集団が通り過ぎていく。

 何かぶつぶつと呪詛のように呟いていらした様子だったけれど、結構な人数だったことと、そもそもつぶやき程度の大きさのぼそぼそとした声だったことからはっきりとした内容までは聞きとることは出来なかった。


「奴らは創成教を名乗っている、最近できた、まあ、いわゆる、宗教団体ってやつだね」


 今更確認するまでもなく、このリーベルフィアで主に信仰されているのは、太陽と月の女神様でいらっしゃるのだというデューン様とアルテ様だ。

 教会や広場には像が立てられているし、僕がリーベルフィアへ来たばかりのころに聞いた口調から受けた感じによると、王妃様も信じて、あるいは信仰していらっしゃるような感じだった。

 もちろん、僕は神なんてまったく信じてはいないけれど、いや、逆にいないだろうという事に関しては誰よりも信じていると言えるだろうと思っているけれど、何となく、彼らから嫌なものを感じたのも事実だった。

 おそらく問題はないだろうけれど、音楽祭に参加される方の不安になりそうなことは、出来る限り調べて、それらを、必要とあれば、取り除くことが出来るかどうかを確かめておく必要はあるかもしれない。


(ナセリア様)


 そう思って、ナセリア様に念話を飛ばした。

 いきなり話しかけるなんて、とても失礼なことかもしれないけれど、おそらく、当初予定していた日よりも帰りが遅くなってしまうだろうと予測できたため、報告だけは入れておこうと思ったのだ。

 国王様、もしくは王妃様へご報告した方が良かったかもしれないけれど、不確かな情報をお伝えするわけにはいかないと思ったのかもしれないし、最初に浮かんだのがナセリア様のお顔だった。


(どうしましたか、ユースティア)


 ナセリア様の反応は素早く、響いてきた声はどことなく嬉しそうなものだった。


(練習中でしたでしょうか。それでしたら大変申し訳ありません)


(いえ、そのようなことはありません。それよりも、用件を聞かせてくれますか?)


 口調––実際に口に出しているわけではないけれど––から、深刻そうな問題だと感じられたのか、響いて来るナセリア様の声がどことなく鋭くなったようだった。


(問題、というほどでもないとは思うのですが、少々気になる事が出来てしまいまして。予定よりも帰りが遅くなるだろうことをお許しください)


 僕は創成教と名乗っているらしい彼らの事を、今見た限りで分かる範囲でお伝えした。


(‥‥‥そうですか。‥‥‥よろしくお願いしますね)


 ナセリア様の念話からは少しばかり寂しそうな響が感じられた。

 僕の事を待っていてくださるというのは自惚れが過ぎるかもしれないけれど、待っていてくださる方がいらっしゃるというのはとても心が温かくなるものだった。


(気になる事って何? もしかして、事じゃなくて人かしら?)


 続いてご連絡したフィリエ様は僕の見ている光景に興味津々なご様子だった。

 僕が分かっていること、実際に見たことをそのままお伝えすると、フィリエ様は嬉しそうな悲鳴をあげられた。


(なにそれ! 何だかいかにも物語にでも出てくる悪者って感じで素敵、じゃなかった、面白、でもなくて、そう、たしかに気になるわね!)


 ナセリア様にもお伝えしてあるのだから、大丈夫だとは思うけれど、念のため。


(フィリエ様。まだ、何も分かっておりませんので、こちらへお顔を見せられるようなことはなさらず、大人しくお城でお待ちくださると大変助かります)


(‥‥‥わ、分かっているわよ)


 少し間があったのが気になるけれど、おそらく大丈夫だろう、と信じたい。

 ロヴァリエ王女ならば、こちらの制止を振り切ってとんでいらっしゃるかもしれないけれど、フィリエ様はきっとそんなことはなさらないだろうと思っている。

 女性を優先させた形になってしまったけれど、エイリオス様にもお伝えした。


(わかった。ユースティアも無事に帰ってくるのだぞ。私も、そしてきっと姉上が1番心配なさるだろうからな)


 先日の学院からの帰り道での事を王妃様にご報告したときにも、随分とご心配をおかけしてしまった。それは、姫様方だけの事ではなく、僕自身も心配の対象に入っていたようだった。

 ティノとの約束、ティノの願いがあるから、僕は決して自ら命を絶とうなどとは思っていないけれど‥‥‥うん、まあ、考えるのはやめておこう。考えていると、実際の行動に影響が出る可能性が否定できない。


(承知いたしました。必ずや事態を解決、もしくは解決の糸口をつかみ、無事にご報告いたします)


 そう返事をすると、僕は探索魔法を使用して、彼らの後を追いかけた。

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