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ウィンリーエ学院 帰り道 13

 出来る限り急いだつもりではあったけれど、やはり数時間はかかってしまった。

 それに、結局ナセリア様のお手を煩わせる結果になってしまったのも心苦しい。本来であれば捕縛した彼らをギルドまで運んで引き渡しをと考えていたのだけれど、おそらくこれは直接戻ってこいというメッセージなのではないだろうか。


(姫様)


 僕は屋根を蹴りながらナセリア様に向けて念話をとばす。


(ユースティア。首尾はいかがですか)


(はい。おそらく、ククリさんと思われる方を含む、数名の囚われていた方達を救助致しました。詳細は後ほどご自身でお確認いただくのがよろしいのではと思いますが、弱っていらしたので、ギルドの方がとりあえず保護されました。私の考えが至らぬせいで、いらぬお手間をお掛け致しました)


(この程度の事、どうということはありません。では、すぐに戻ってきてくださいね)


 とりあえず念話で簡単な説明を終えた僕はそのまま屋根を蹴り、クレネスさんのお家へと急いだ。

 本当はククリさんをお連れして帰った方が良かったのかもしれないけれど、事情聴取など、やりたくはなくても やらなくてはならない仕事が、きっとギルドの方達にはあるのだろう。

 もし、クレネスさんがお会いしたいをおっしゃられたのならば、そのときは僕がクレネスさんをククリさんの下までお連れするつもりだ。もちろん、今度はナセリア様達も一緒に。


「姫様。戻りました。ユースティアです」


 先程念話をしたのだから、まだ起きていらっしゃるだろうとは思っていたけれど、やはりクレネスさんはもちろん、ナセリア様も、フィリエ様も、ロヴァリエ王女も眠たそうになさりながらも、一応身体を起こしていらした。


「ご苦労様でした、ユースティア。もう1度、皆に、あなたの口から説明していただけますか?」


 皆に、とナセリア様はおっしゃられたけれど、この場でどなたにご説明しなければならないのかは分かっている。

 僕はクレネスさん、クレネス様の前に膝をついた。


「クレネス様。妹君であらせられるククリ様と思しき方は無事に保護いたしました。特に怪我など、目立ったものは残っておられません。おそらく、衰弱されていらっしゃいましたので、今はギルドの方が––間違いなく信用できる方だと思われます––保護されて、最寄りのギルドへ向かわれていらっしゃるはずです」


 僕のスピードの方が、おそらくは馬車か何かでいらしたのだろう、ギルドの職員の方よりも圧倒的に早かっただろうから、まだ向こうは落ち着いていないだろうけれど、こちらからも歩いて向かえば丁度良いかもしれない。

 いや、おそらくこちらの方が早く着くことになるだろう。馬車と徒歩とはいえ、ここからギルドは目と鼻の先だ。


「ありがとうございます。その、あの、なんとお礼を申したら良いか‥‥‥」


 僕は彼女の目尻に浮かぶ雫を人差し指ですくって払った。


「私は当然の義務を果たしたまでです。お礼を申されるようなことではありません。困っている方、危機にある方をお助けするのは、私がしなければならないことですから」


 何だか不思議そうな視線を集めてしまったけれど、特に文脈から外れ過ぎているということはないはずだ。

 救えたはずの命を、救えずに終わってしまう事など、これ以上起こすわけにはいかない。

 救えるのに救わないというのでは、彼らと何ら変わらない。


「では、一緒に参りましょう。ギルドでお待ちしていれば、妹君––ククリ様もすぐにいらっしゃるはずです」


 当然の流れとして、僕たちは5人で、正確には護衛の騎士の方もいらしたのでもう少し多く、ギルドへ向かって歩き出した。

 歩き出すと言っても、本当に目と鼻の先なので、数分もかからずに到達できる。

 ギルドは未だ賑わっていて、まあ、夜間でなければこなせない依頼などもあるのであれば、それも当然のことのように思えたけれど。

 僕たちがギルドへ到着して程なく、先程見送った馬車がギルドへ到着された。


「ククリっ!」


 馬車が停車するのと同時に、クレネスさんが明るい茶髪を振り乱しながら、わき目もふらずに駈け出した。


「お静かに願います。皆様、余程お疲れのようで、とてもよく眠りにつかれていらっしゃいますので」


 先程のギルドの方は、僕がいることに驚かれていらっしゃるご様子だったけれど、僕と目が合うと深く頭を下げられたので、僕も深くお辞儀を返した。

 ギルドの方は、助け出された方のこともあるし、馬車ごとこのままおアンチになるとのことだったけれど、クレネスさんはお家へ戻られるという事だった。

 馬車の中は狭いし、やはりお家にいた方が安心するのだろう。

 僕が運ぼうかと思っていたのだけれど、


「これは私の特権ですから」


 クレネスさんはそうおっしゃって、ご自分でククリさんを背負われると、幸せそうな笑顔を浮かべられながら、ゆっくりなるべく揺らされないように歩き出された。


「大変だったみたいだけど、解決して良かったわ。私だって、未解決のまま国へ戻るわけにはいかないもの」


 ロヴァリエ王女は、心の底から嬉しそうな、喜んでいらっしゃるような笑顔を浮かべられた。それはもちろん、リディアン帝国へ戻ることができるからということではない。

 そうおっしゃられながら、ロヴァリエ王女は可愛らしい欠伸を1つ漏らされた。


「姫様方。ご心配だったのは分かりますが、夜更かしは美容の大敵ですよ。それに休まれていないと、明日お城へ戻られた際、クローディア様に叱られてしまいますよ」


 僕は、この世の悪事全てを解決できるなどとは思っていないけれど、やはりこんな時間になってしまったのは、僕の効率か、手順が良くなかったからなのではないかとは思っていた。

 やはり、最初の潜入の時に、姫様をお守りしながら救出までできる実力があれば、このような事にはならなかったわけだし。

 姫様方の背中を押しながら、僕は己の一層の鍛錬を誓った。


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