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ウィンリーエ学院 帰り道 12

 ナセリア様のご助言もあり、僕は1人で夜の街へと飛び出した。

 探索の魔法と飛行の魔法、加速の魔法と身体強化の魔法を併用して、矢よりも速く屋根の上を駆け抜け、正確には飛び駆ける。

 騎士の方達に事情は、本当に簡単にだけれど説明したし、結界の魔法が働いていれば内部の様子もある程度わかるのだけれど、やはり、長時間離れているのは不安になるので、出来る限り急いで終わらせて来ようと思っている。

 一応探索魔法は使用したけれど、昨夜の建物の位置をそう簡単に忘れたりはしない。確認のつもりだけだったのだけれど、昨夜と同じ場所でよかった。


「手早くするには‥‥‥」


 昨夜は静かに気づかれないようにしようと思っていたけれど、今回は違う。

 時間が限られているのだから、相手にも迅速に行動してもらわなくてはならない。


「見えた‥‥‥っ!」


 館の門が見えた瞬間、魔力を放ち、門を壁ごと、そして見張りの方ごと吹き飛ばす。

 距離があるので威力も減衰されるだろうし、おそらく死んではいないだろう。次の1歩で門まで距離を詰めた僕は、門番だった彼らにまだ息があることを確認する。

 昨夜と同じ方で、昨夜の失敗にも関わらず、仕事を任されている様子だった。

 ただし、今夜はそれほどの余裕がないため、吹き飛んで気絶しているらしい彼らを確認に行くなどという余計な真似をしたりはしない。


「何事だ」


 騒ぎというほどではないけれど、流石に門を吹き飛ばすような音が響けば何が起こったのかの確認に位は来るだろう。近所の方には迷惑になってしまったかもしれないけれど、まだ遅過ぎはしないということで許して貰いたい。


「お––」


 最後まで聞かず、問答無用で口を塞ぐと、即座に意識を奪い、その場に転がす。昨夜の侵入で彼らの警戒レベルを引き上げてしまったようで、瞬間的に使用した館を対象とした索敵魔法では、結構な––10人ほどの人数が集まっているようだった。

 まあ、今相手をした方程度の実力の方であれば、何人いようとも大して変わりはしない。

 索敵や探索の魔法では相手の強さまでは分からないし、そんな魔法は知らないけれど、どちらにせよ後に引けないのだからここから突っ走るしかない。

 どうせなら1度に集まってきて貰った方が良いだろうと考え、出来るだけ派手に館の扉を吹き飛ばす。

 すぐに音に気付いた数名が奥の方から姿を現してきた。体格も性別も、武器すらもバラバラで、統一性は見られない。

 連れ去った彼女たちを、そう離れたところに置くはずもないけれど、ククリさんの姿は見られなかった。反応は近くにあるので、近辺にいらっしゃるのは間違いないと思うけれど。


「おい‥‥‥いや、待てよ、お前は」


 最初は子供らしい体格だと緊張感も皆無だった彼らの気配が、館に月明かりが差し込んで僕の顔が照らされると、一気に警戒したような態勢をとられた。


「何故、俺達の––」


「余計な情報を漏らすな! どんな手段で伝えられるか分からん」


 どうやら少しは冷静な方がいらっしゃるらしかった。 

 しかし、その口調から察するに、おそらくは尋ねても応えてはくださらないだろう。他の方が口を滑らせることに期待するのも、今の一幕の後では難しそうだ。

 仕方ない。僕はもう1度、探索の魔法を館があるこの土地、そして地下にまで届くように、球形にとばした。


「なるほど。地下にも施設が。そこに捕えた彼らを閉じ込めているのですね。目的は‥‥‥人身売買でしょうか、それともこれから薬漬けに? もしくは人体実験にでもされるつもりでしょうか。まあ、あなた方の目的に興味はありません」


 話をする時間が勿体ない。

 彼らから話を聞き出すのは、組合か、騎士の皆さんに引き渡した後、刑吏だかなんとかの仕事に就かれていらっしゃる方の仕事で、僕の今重要な仕事ではない。


「いくら魔法顧問といえど、まだガキだ。この人数相手に、そう簡単に––」


 彼らが余計な口を開いていてくださる間に、自分の周囲に展開していた球形のシールドを発散させる。

 それは衝撃波を生じさせる魔法となって、周りを取り囲むように集まられた彼らを、壁にぶつかるまでに強く弾き飛ばした。

 そして、数名が壁に叩きつけられた衝撃で意識をとばされたようにぐったりとその場に崩れ落ちられた。

 もちろん、見せしめになどという時間のかかるような聞き出し方はしない。

 誰も話してくださらなければ、彼ら以外の人の反応を探せばいいだけなのだから。全力でやればものの数秒もかかりはしない。


「そういうわけで、私としてはどちらでもほとんど変わりがないので、出来れば話してくださると助かるのですが」


 まだ動ける彼らは、一瞬目配せをされ、


「上だよ、まとめて上の階の一室に放り込んでいる」


「なるほど地下ですか。どうもありがとうございました}


 彼らの瞳や手の動き、わずかな発汗量の差、そして口調から、情報の真偽については大よその見当はつけられる。今、彼らが目を丸くしているのは、おそらく演技ではないだろう。


「大人しくしていていただけるのでしたら、特に必要もなかったのですが、おそらくそうもいかないでしょうから」


 僕は彼らをバインドで拘束して地面に横たえさせると、半壊した建物内部で、地下へと続くのだろう入口を探した。

 会話して彼らから聞き出す時間と、僕がこの建物、そのひとフロアを可能な限り平らにして調べるのに、それ程時間的な差異があるとは思えなかった。


「この辺りかな」


 少し精度を高めた結界を広げると、地下から風が吹いてきている部分を発見した。

 その部分には魔法的な隠蔽もかけられているようで、ほぼ間違いないようだった。


「下に落としてしまうのが楽なんだけど、それだと囚われている人が潰れてしまう可能性があるからな」


 腐食の魔法で、扉の周りを削り落とす。これならば細かい調整が割としやすいので、扉を落としてしまうことなく、けれど一応切り離すことには成功した。

 次に、今切り離した扉の下辺りに結界を展開する。試しに細く削った破片で、扉の高さ、重さなどには見当をつけているので、おそらく支えることが出来るだろう。

 最後に、わずかな接地面で床にくっついていた扉を完全に切り離すと、その扉の乗った結界を移動させて、入れる隙間を作り出した。


「お邪魔します」


 声をかけると、おそらくは食事の時間だったのだろうか、食器を片付けている最中の人が、目をぱちくりとさせながらこちらを見上げているのが見えた。

 地下にあったのは牢屋のような施設で、何人かの子供たちが弱っている様子で横になっていた。

 結界を展開して調べたところ、死んでいる子供はいないようだったので、一応安堵し、同様に治癒魔法を使用した。


「この子達は連れ帰っても問題ありませんよね」


 相手が答えるのを待たずに先を続ける。


「おそらくですが、私の主人は聡明でいらっしゃるので、もうじきこちらへも捜索、というよりはあなた方を捕えに人が居らっしゃると思うのですが――」


 同時に、地上の方では何やら騒がしそうな人の声が聞こえてきた。


「私も急いでおりますので、どうしてもとおっしゃるのでしたら、手加減が出来ずどうなってしまうか分かりませんが、一応戦われますか?」


 相手の方は一瞬答えを躊躇された。 

 そして、その一瞬で僕は彼との距離を詰め、地上へ押し出すだけの魔法を込めて、目一杯彼を打ち上げた。

 飛行魔法と、移動魔法、砲撃魔法を組み合わせた感じだ。

 勢いよく上の階、地上へと 飛ばされた彼を追って、僕も飛行の魔法で地上へと降り立った。


「お話は伺っております。ユースティア魔法顧問殿」


 待っていらしたのは、ギルドからいらしたとおっしゃられた方達だった。

 一体、どんな手段を使えば、これだけ早く人を動かすことが出来るのだろうかと思ったけれど、それが出来るからこそ姫様なのだと、どこか納得していた。


「では後のことはお任せしてもよろしいでしょうか?」


 なんだか後片付けを任せてしまうみたいで心苦しかったのだけれど、そういった事務的なことは僕にはよく分からないので、得意な方に任せた方が良いだろう。

 僕は僕に出来ること、姫様方を安心させるために、そしてもちろん、先程捕らえられていた方の中に確認したククリさんのことを報告するためにも、宿へ向かってやはり出来る限りの速さをもって飛び出した。

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