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ウィンリーエ学院 帰り道 11

 そしてその日の夜、ナセリア様とフィリエ様、ロヴァリエ王女が食事をなさる頃を見計らって、僕はクレネスさんのお店を出発することにした。

 ギルドのように不特定多数の人が集まっているところでは姫様方の安全が、もしもの場合に守り切れない可能性と、もしもの場合に周りの方が護って可能性を考えたのだけれど、ギルドからでは静かにいなくなるということが無理そうだったので、心配だからという理由でクレネスさんのお店にお邪魔させていただいていた。

 もちろん、僕は食費などを完全に自腹で負担するつもりだったのだけれど、クレネスさんも譲られず、結局半分だけ受け取っていただいた。

 食事中の方がクレネスさんもナセリア様達を引き留めやすいことだろうと思ったのだけれど、もちろんそんなにうまく行くはずもなく、席を中座しようとしたところで、ナセリア様に尋ねられてしまった。


「どうかしたのですか、ユースティア」


 上手くクレネスさんが会話の流れを調整してくださっていると思ったのだけれど、突然隣で立ち上がったりしたら、そちらに目が行くのは当然のことだろう。

 ナセリア様につられて、フィリエ様とロヴァリエ王女もこちらへお顔を向けられる。

 食後の運動と誤魔化しても、僕が姫様達を放って1人でそんなことをしに出掛ける訳はないと思われていらっしゃるだろうから、そんな嘘には騙されたりはなさらないだろう。

 夜に訓練をするなどといえば、一緒にするのだとおっしゃりかねない。

 この場に姫様方を留めつつ、自然に自分だけが離れられる、そして姫様方の好奇心や責任感などを刺激しない理由が必要になる。もしくは、それがあってもこの場にいてくださるように頼める何かが。


「‥‥‥実は、私が周囲に展開している結界に何者かの侵入があったようです。お伝えしては不安になられると思い、静かに対処してくる予定でしたが‥‥‥」


 完全に嘘というわけではないけれど、真実でもない。

 僕が静かに対処してくるつもりだというところも、結界を展開しているということも本当だけれど、侵入者など存在していない。


「こちらのお店には私が結界を展開しておりますので、ほとんど問題はございません。内側から出たりされなければ、破られたりはしないはずです」


 好奇心なのか、正義を旨としているからなのか、フィリエ様とロヴァリエ王女は、同時に立ち上がられると、やはり同時に、私も行くわ、とおっしゃられた。

 予想通りの行動で、わずかな隙間からはクレネスさんが申し訳なさそうに頭を下げていらっしゃるのが目に映る。


「ロヴァリエ王女、そしてフィリエ様。相手の規模を考えますと、おふたりを守りながら戦うのは少しばかり無理がありそうです。離れた場所、こちらにいてくだされば、それだけ距離的な余裕が出来ますから、賊よりも速く動くことで、こちらへの攻撃からお守りすることも可能でしょうが、近くにおられますと、やはり、危険が増しますので」


「私の事なら心配は不要よ」


 おふたりとも、そうおっしゃるだろうと思っていた。

 しかし、事実は近くに賊など居ないのだし、ここはおそらく安全なわけで、やはり本拠に連れてゆくのは、昨日のこともあって絶対に許容できない。

 

「心配いらずとも、心配するのです。出来る限りの危険から遠ざけたいという私のわがままを、どうぞお許しください」


 僕はその場で1歩下がると、フィリエ様とロヴァリエ王女が距離を詰めて来られる前に、障壁を作り出した。


「もし、それでもついてこられるというのであれば、こちらも実力で止めさせていただきます。私にそのようなことはさせないでください。どうぞ、お願いいたします。この、事前に回避できなかった愚かな従者に、挽回の機会をお与えください」


 時間は惜しかったけれど、このまますぐに出て行くわけにはいかない。確実におふたりがついていらっしゃらないという保証を得られなければ。


「フィリエ。こちらにきて座りなさい」


 僕たちの無言の見つめ合いはすぐに破られた。

 ナセリア様はほとんど姿勢を崩されないまま、静かにカップに口を付けられていた。


「ナセリアお姉様は、気にならないの?」


 フィリエ様のご質問も、ええ、と軽く躱された。


「ユースティアが私たちがいない方がよいと判断した結果でしょうから。戦いにおいては、私たちなどよりもずっとユースティアの方が慣れています。そのユースティアが言うのですから、仮に私たちが出張って、それでユースティアの邪魔になってしまったらどうするつもりですか? それで万が一、私たちに何かあった場合、1番負い目を感じるのはユースティアですし、その気持ちを、貴女は受け止めることが出来るのですか、フィリエ。それは今貴女が考えるより、ずっと重いものでしょう」


 ナセリア様がフィリエ様の瞳をじっと見つめられながら、ご自身の座っていらっしゃる横を軽く叩かれた。


「フィリエ、好奇心は大切な感情ですが、何事も行きすぎてはいけませんよ。ここでユースティアの帰りを待ちましょう」


 ナセリア様の口調は優しいものだったけれど、有無を言わさぬ感じがあった。


「‥‥‥分かりました、お姉様」


 フィリエ様は大人しく引き下がられると、ナセリア様の横に収まられて、ナセリア様に優しく金の御髪を撫でられていらっしゃられた。


「ロヴァリエ王女。御身もどうかこの場は私にお任せいただけないでしょうか。お気持ちは十分に理解できますが、ここはどうか1つ、私を信頼してはいただけませんか?」


 ロヴァリエ王女は何かを感じられたのか、静かに息を吐かれると、


「‥‥‥ここはリーベルフィアですものね。あなたにも色々あるのでしょうから、お任せするわ」


 そう剣を引いてくださった。


「ご協力感謝いたします。では、今しばらくお待ちください。もちろん、遅くなった場合、私の事を待つ必要はまったくございませんので」


 僕は深く頭を下げると、クレネスさんのお店を文字通りに飛び出した。

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