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ウィンリーエ学院 帰り道 6

 葉っぱ1枚が金貨数枚‥‥‥?

 大陸に流通している硬貨は金貨から銅貨までの5種類だけれど、普通に市場に流通しているのは小銀貨くらいまでだ。

 それに感謝祭のときのことから考えても、金貨というのはとても珍しいものなのだろう。

 僕もお給料などをいただいてはいるけれど、金貨がつかわれようとしているのを見たのは1度だけ、感謝祭のときにフィリエ様が使用されようとして、使用できなかったときだけだ。

 つまり、それだけ価値が高く、かつ、一般に流通しないほど希少性の高い硬貨が使われるほど、の価値を持つという葉っぱということになるのだけれど。

 そういえば、以前、冒険者組合で働いていた時、とある種類の薬草がとんでもなく希少なものだったというんで、かなりの高値で取引されていたことがあった。

 僕が最初にいた世界での話だし、僕は冒険など、数日以上に跨る遠出には出られなかったから、結局生息しているそれらを直接見たことはなかったのだけれど。

 つまり、そういった薬になるような植物を、冒険者組合を通して市場に流すのではなく、特定、もしくは、不特定の個人と直接取引をすることで、通常価格以上の価値をうみだそうということだろうか?


『ここからでは種類までは分かりませんね‥‥‥』


 ナセリア様の声は、歯がゆさというか、もどかしさを感じられるものだった。

 サンプルが手に入れば、調べることは出来る。

 お城までその草だけを飛ばして運び、ミラさんに調べていただくことが出来る。もっとも、こんな時間だから、ミラさんはすでにお帰りになっていらっしゃるだろうけれど。


『ユースティア。あれをこっちに引き寄せることは出来ないの?』


『フィリエ様。出来るか出来ないかという事だけでしたら可能でしょうが‥‥‥』


 その場合、この場に第三者がいたのだということを、確実に知られてしまうことになる。

 そして、そこから誰がやったのかということになるのだけれど、草が勝手にどこかへ飛んで行き、急に虚空へ消え去ったとなれば、彼らはまずどういった想像をするのだろうか。

 もし、彼らの中に魔法師がいれば、それは魔法によるものだと看破されることだろう。

 そして、今は気付かれていないからこそ僕たちはこうして隠れていることは出来ているけれど、そこに誰かがいるのだということを知られてしまえば、隠蔽の魔法の効力は低くなってしまう。


『彼らを制圧してしまえばいいんじゃないの?』


 ロヴァリエ王女はそうおっしゃって、腰のものを引き抜かれようとされる。


『いけません。彼らが言っていた通り、この場所以外にも『窟』と呼ばれる場所があるのです。おそらくは何らかの手段で連絡を取り合っているのだとは考えられますが、一方の連絡が途絶えた場合、もう一方がどのような行動に出るのか』


 そして、動き出してくれれば僥倖だけれど、動き出してくれない場合、妹さんの居場所もこの近くだということは分かっているけれど、誰かが漏らしたのではないかということで、処分されてしまう可能性が、まったくないとは言い切れない。


『彼らも全く眠らないということはないでしょうから、見張りが薄くなった時点を見計らって、とりあえず、今日のところはあの葉っぱを1枚いただくことが出来れば、というくらいに考えておきましょう』


 しかし、この作戦には大いなる穴があった。



 ◇ ◇ ◇



 ただその場でじっと待ち続けること小1時間。未だに部屋の明かりは消えそうにもなく、彼らの話し声や笑い声もなくなりそうにはない。

 しかし、こちらは違う。

 大人と子供とでは、明確に体力に差があり、先程からフィリエ様は欠伸を漏らされ、うつらうつらと、眠たそうに目を擦っていらっしゃる。

 ナセリア様はなんとか大丈夫そうにはしていらっしゃるけれど、無理をしていらっしゃることは明白だ。その証拠に、ナセリア様が覚醒の魔法を使用されていらっしゃるのを僕は何度か感じていた。

 ロヴァリエ王女は割と大丈夫そうだけれど、こんな状態のナセリア様とフィリエ様にまともな行動をとることが出来るとはとても思えない。


『‥‥‥一旦、今のところは退散しましょう。明日、今度は日中にもう一度訪れることに致しましょう。その際の理由はこちらでご用意いたします』


 人命が係っているため、本当は一刻の猶予もないのだけれど、こんな状態で戦闘でもすることになれば、姫様方が心配で、とても集中できそうにない。

 騎士の皆さんにはお店の見張りをしていただいているのだし、どう考えてもこちらが後手に回らざるを得ない状況にしかなり得ない。

 もはや返事すら帰って来ない姫様方に、失礼しますとお断を入れ、僕がナセリア様を、ロヴァリエ王女にフィリエ様をお頼みすることで、その場からの離脱を試みる。

 しかし。


「あっ」


 思わずなのだろうけれど、ロヴァリエ王女が念話ではなく声を出してしまわれるほどの事態だとは思ってもいなかった。

 自分の着ているものだとか、武器装備ではなく、別の人を運ぶことが初めてだったロヴァリエ王女は、どうやら上手く飛行の魔法を使用することが出来なかった。


「誰だ!」


 小さな声ではあったけれど、元々が静かな深夜の家の中だ。廊下から部屋の中へ聞こえるのには十分過ぎた。


『ロヴァリエ王女! 失礼致します!』


 もちろん、念話を使うことを忘れず、僕はロヴァリエ王女とフィリエ様に魔法を使う。

 2人を同時にこちらの魔法に引き込んで、一緒に空へと飛び上がる。


「おい」


「ああ」


 しかし、飛行の魔法をかけ直す余裕はあったけれど、隠蔽の魔法までかけ直す時間はなく、おそらくはロヴァリエ王女のお姿は彼らに見られてしまったかもしれない。

 フィリエ様とナセリア様の幻術のほうは、おふたりが何となく眠そうにされていた時から補助させていただいていたので、すぐに使うことは出来たのだけれど、ロヴァリエ王女の方は、即座に、とはいかなかった。

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