表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/217

ウィンリーエ学院 11

 翌日は学院の図書館を見学させていただいた。

 とはいえ、図書館へ来たのは僕とナセリア様だけで、フィリエ様とロヴァリエ王女は、今日も魔法の授業に見学と出席なさっていた。

 お城にも書庫があるとはいえ、それはやはり国家の運営のためだとか、リーベルフィアの歴史だとか、そういった類のものが多かった。

 ミラさんに案内していただいて、お城の書庫も一通りは全て見学を終えているのだけれど、リーベルフィアで出版されているすべての本があるわけではないとおっしゃっていた。

 特に、複数の学科が存在し、多岐にわたる分野が研究されている学院の図書館では、専門書などの種類、数も、膨大であった。


「‥‥‥まあ、そうだろうとは思っていたけれど」


 図書館へ入って向かったのは、まず、何といっても魔法に関する書物が並べられているところだ。

 神話や伝承、絵本のようなものなどから、何の言葉で書かれているのか分からないような古びた本まで、しかし、しっかりと手入れは行き届いているようで、保存の魔法はもちろんの事、埃をかぶっている様子も見られなかった。

 そして、それらの棚へ移る前には、真新しい棚が、急遽設けられたのであろう、それまであった棚を移動させて押し広げたような跡の残る通路に置かれていて、数冊の本がケースに保護されるような形で保管されていた。


「そう恥ずかしがることもないですよ、ユースティア。もっと胸を張って堂々と誇ればいいのです」


 ナセリア様はケースから魔導書を取り出されて、ぱらぱらとめくられながら、嬉しそうに微笑まれた。

 お城でも、ナセリア様が魔導書をお読みになっていらっしゃるお姿は、何度か拝見している。国王様にお見せした直後、図書館に献本してすぐにもいらして、1番にお読みになっていらした。

 その中には、いまだ姫様方にお教えしていない魔法も含まれている。ある程度は読めば使えるのだから、向学心の高いナセリア様が繰り返しお読みになられるのも、当然と言われればそうなのかもしれなかった。

 この魔導書自体が学院の授業に使われるのではなく、複製の複製が使われているらしく、今でも、教師の方が写しにいらっしゃることはよくあるのだという。

 複製の魔法を使うことは出来ないけれど、単純に手で書き写すことは出来るためだ。


「ナセリア様、私は別のところを見てまいりますので」


 真剣なお顔で読みふけっていらっしゃるナセリア様には言葉は届いていない様子だったので、僕は手近なところにあったメモ用紙に書置きを残して、別の棚へと向かった。

 向かったのは、この学院の歴代の教師の方が残されたと思われる、実際に使われていた教本や指導方法といった内容が記されている、業務日誌ではないけれど、昔の教科書が保管されている棚だ。

 教科書の内容は数年のスパンで見直されるらしく、何版にも連なっている、学院創立当時からの教科書が、その年の教員の方が必要だと思われたメモと一緒に残されていた。

 お城にも教科書の類は置いてあったけれど、実際に教鞭をとられていた先生方のメモまでは残されていなかった。

 おそらくは教えるべき重要な点だろうことが、要所要所に様々な注意点、留意点などと共に残されていて、試験の内容などとも一緒に閲覧することで、どういった点に注意すれば良いのかがよくわかった。

 僕は、僕の感覚に従って今まで姫様方に魔法をお教えしていたけれど、年月を重ねるごとに洗練されていく指導方法は、効率も良く、分かりやすいものだった。

 効率だけを考えるのもどうかとは思うけれど、どうしたら分かりやすく教えられるのかということはとても勉強になる。

 魔導書の編纂にしてもそうだけれど、僕が書き出したり、口頭で説明したり、実演したりしたことを、分かりやすい言葉に纏めてくださったのは魔法師団の皆さんのお力でもある。

 ナセリア様やエイリオス様、フィリエ様、いらっしゃるときにはミスティカ様も、何の不満も漏らされずに楽しそうに授業を受けてはくださるけれど、それは姫様方が優秀だからであって、僕の説明では分かりにくいところもあったかもしれない。

 午後には純粋に授業の見学をさせていただいて、教師、もしくは指導者というものを勉強させていただこう。

 そう決意を新たに時計を見上げると、そろそろお昼に差し掛かりそうな時刻だった。

 魔法学科の授業も終わる頃だろうし、フィリエ様とロヴァリエ王女をお迎えに行く必要も出てくるだろう。

 念話を使ってナセリア様に居場所をお訪ねすることも出来たけれど、おそらくは本を読み込まれていらっしゃるだろうナセリア様の邪魔をしたくはなかったので、僕は静かに図書館の中を、ナセリア様を探して歩き回った。

 新しい木の匂いや、紙の匂いが室内を満たしている。探索の魔法を使えば、お邪魔をせずにナセリア様を探すことも出来るけれど、何となく本の間を歩いてみたかったので、本の背表紙、タイトルを見ながら棚の間を歩いて行く。

 きっとナセリア様の事だ。何か難しそうな学術書か、僕は翻訳の魔法でも使わなければ読めないであろう古代の言葉で記されているような本を読まれていることだろう。

 棚の陰から顔を覗かせると、驚いた様子のナセリア様と目が合って、吸い込まれそうな金の瞳を大きく見開かれたナセリア様は、慌てて手にされていた本を棚へお戻しになられた。


「ユ、ユースティア、どうしたのですか?」


 大変珍しいことに、ナセリア様はわずかに動揺なさっているご様子だった。

 僕が棚の方を覗こうとすると、その視線を遮る様に身体を動かされた。


「そろそろ授業も終わる頃でしょうから、昼食のためにフィリエ様とロヴァリエ王女をお迎えに上がろうと思いまして……」


 ナセリア様はほっとされた様子でため息をつかれると、胸を撫で下ろされた。


「‥‥‥そうですね。ところでユースティア。明日の帰り道、少し寄り道をしてもらうことは可能でしょうか? 書店に寄りたいのです」


「お尋ねになる必要はございません。ひと言お命じ下さい」


 しかし、ナセリア様が欲される本がお城にはなくて学院にはあったというのは驚きだ。書店––読本を扱っている店は商業地域に行けばすぐに見つかることだろう。しかし、そのためには少々遠回りをすることにもなり、もしかしたら明日中に帰り着くことが出来なくなるかもしれない。


「しかし、ナセリア様。どのような本かお教えいただければ私が手に入れて参りますが」


 僕がそう申し出ると、ナセリア様はピクリと肩を揺らされて、


「いえ、それには及びません。私は自分で行きたいのです」


 何かお隠しになっていらっしゃるような口調だったけれど、姫様が秘密にしたいことを僕が探るわけにはいかない。僕の受けた感じでは、それ程危険なものを欲されていらっしゃるようにはお見受けできなかったし、大丈夫だろう。

 明日、御者の方に告げようと、心のうちにメモをすると、フィリエ様とロヴァリエ様に念話を送る。

 返事はすぐに来て、先に食堂へ向かわれるとのことで、そこで合流しましょうとフィリエ様はおっしゃられていた。


「ナセリア様。フィリエ様とロヴァリエ様は先に食堂へ向かわれるとのことです。私たちも参りましょう」


 ユースティアは先に行って、図書館の前で待っていてくださいと頼まれたので、護衛としてお傍を離れるのはどうかとも思ったけれど、司書の方や利用している学生の方も少なからずいらっしゃるので、承知いたしましたと頭を下げると、司書様に挨拶をしてから図書館を後にした。

 おそらく、僕たちと同じように、お昼へ向かうのだろう学生が何組か図書館から出てこられた後、ナセリア様が出ていらした。

 気のせいか、少しばかり頬が赤く染まっていらっしゃるようにも見える。


「ナセリア様」


「な、何でしょうか」


 言葉を噛むのを恐れるように、ゆっくりと頭を上げられたナセリア様のお顔はやはり若干赤いように見えた。


「すみません。失礼致します」


「––っ」


 体調が悪そうにはお見受けできなかったけれど、万が一があっては大変だ。

 僕は屈み込むと、ナセリア様の額に手を当てた。


「やはり少し熱いようですが――」


「わ、私は大丈夫です。それよりも、ロヴァリエ王女とフィリエを待たせてはいけませんから、急ぎましょう」


 早口でそうおっしゃられ、顔を背けられたナセリア様は、僕の先を速足気味に歩いて行かれた。

 さらさらと揺れる、長い銀の髪の間から、真っ赤に染まった耳が見えかくれしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ