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ウィンリーエ学院 10

 エルトリーゼ学院長が決着を宣言されると、地上では割れんばかりの拍手と、大きな歓声が沸き起った。

 魔導書に載せている、使っても問題ないだろうと判断した魔法だけで勝負したつもりだったけれど、望まれたしょうぶになったのかどうかはわからない。

 もしかしたら、もっと色々な種類の魔法を見せた方が良かったのかもしれないし、あるいは、生徒の皆さんでもすぐに使えるようになるような、魔力消費のもっと少ない実用的な魔法にした方が良かったのかもしれない。


「ご満足いただけましたか?」


 相手方に望まれた事だったとはいえ、一応、容赦はしなかったつもりだ。フィシオ教諭の魔力を大きく上回る攻撃を浴びせてしまったので、もしかすると気絶されているかもしれない。

 地上に降りてゆき、フィシオ教諭の傍らに膝をつく。勝負のときは女性だからといって手を抜いたりはしないけれど、勝負が終われば話は別だ。


「え、ええ。‥‥‥あ、ありがとう、ございました」


 身体にこそ目立った傷はついていないものの、ローブには穴が開いていたり、擦り切れていたり、結構傷んでいる様子が見られる。

 僕は修復の魔法をかけると、荒い息を吐いているフィシオ教諭へ手を伸ばした。

 フィシオ教諭が身体を起こされると、離れて観戦されていた生徒の皆さんが一斉に駆け寄って来られた。エルトリーゼ学院長やフィシオ教諭が連れてきてくださった教師の方は、一応静止してくださっているみたいだけれど、周りが止まらないのに、一部の生徒だけが止まるはずもなかった。


「ユースティア!」


 1番に僕のところへ駆け寄って来られたフィリエ様は、それはそれは小さなお顔全体に溢れんばかりの感情を表現なさっていらした。


「フィリエ様、おっしゃりたいことはよく分かります。ですが、今すぐにお教えするわけには参りません。一応、魔導書には載せていますので、それを読むことを止めるわけではございませんが、魔法をお教えする立場の人間としては、姫様方があのような魔法を使用することを許可するわけには参りません」


 今まさに使っているところ観戦し、好奇心の虜になっていらっしゃるご様子のフィリエ様は、明らかに分かるような不満顔を浮かべられた。

 しかし、あの魔法を練習するのに、一体どこを使えば良いというのだろうか。

 僕は夜にでもお城を飛び立って、誰もいない海の上だったりで練習することは出来るけれど、まさか姫様方に同じような練習はさせられない。

 身体にも負担はかかるだろうし、まだ成長中の姫様方の身体に無理をさせてしまっては、見えないところや魔法での修復や治癒の届かない部分、疲労ではなく本当にお身体を壊されてしまうかもしれない。


「えー」


 可愛らしく頬を膨らませられたフィリエ様だけれど、それに惑わされてはいけない。


「フィリエ、あまりユースティアを困らせてはいけませんよ」


 にらめっこに負けない自信はあったけれど、その決着の前にナセリア様がフィリエ様を静止してくださった。 


「フィリエ様。どうしてもとおっしゃるのでしたら、まず、アルトルゼン様とクローディア様に、悪漢を打ち倒すための攻撃魔法を練習したいのだけれど、今の私が使ったりすれば、身体への負担が大きく、倒れたり、ぼろぼろになったりする確率がかなり高いのだけれど、認めてはくださいませんか、と、ご許可をいただいてきていただいてもよろしいですか。それで、おふたりが許可を出されるようでしたら、お教えいたします」


 国王様と王妃様のお名前を出すと、フィリエ様は、ぐぬぬ、と何かを堪えていらっしゃるような姿勢をとられた。

 ご両親の名前にもひかないような決心が御有りだったのならば、まあ、触り位であれば構わないかと思っていたけれど、迷われるようでは、つまり、やはりご自身でも結果が分かっていらっしゃるのであれば、これ以上何か言うことはない。


「フィリエ様。今は無理でもいずれはお教えすることにもなります。その時まで、今しばらく御辛抱ください」


「‥‥‥分かったわ」


 フィリエ様は小さく息を吐き出された。

 とはいえ、まったく何もないというのも、もし、僕のいないところで練習でもされようとしたら大変だ。規模は比べ物にもならないけれど、魔力弾程度であれば問題ないかもしれない。


「ロヴァリエ王女」


 姫様方の後方では、呆然となさっているロヴァリエ王女が何か呟かれながら、修復した演習場の跡地を眺められていた。

 ロヴァリエ王女の考えていらっしゃることは、まあ、ほとんど想像はつく。

 僕の全力かどうかはお分かりになられなかっただろうけれど、少なくとも、今、目の前で行われた程度の魔法は、必要とあれば、隣国へと向けられるかもしれないのだ。

 ロヴァリエ王女がリーベルフィアへいらしているのは、魔導書を編纂した者に会いたかったという理由ももちろんあるのだろうけれど、どれ程の力があるのかを調べてくるという狙いが、まったくなかったとは言い切れないだろう。


「私が言っても、説得力もなければ、信じることもお出来にならないとは思いますが、ご安心ください。私自身は、何もないにもかかわらず、他人、もしくは他国、そしてその他のものにでも向けて、このような魔法を使うつもりは少しもございません。神を信じてはおりませんが、この名に懸けてお誓いいたします」


 少なくともリーベルフィアではそれほど熱心に信仰されていらっしゃる方は、それ程多くはいらっしゃらないだろう。例えば、毎朝祈りを捧げたり、毎日女神像へ手を合わせに行かれるような。もちろん、どなたであってもそれなりに、多少は信じていらっしゃるのだろうけれど。

 しかし、たとえどれ程信仰されていようとも、僕は神なんて信じたりはしない。

 それは、どれ程時が経とうとも、どこへ行こうとも、決して変わることのない思いだ。


「魔法を使えるのに神を信じてはいないの‥‥‥?」


 お城で読んだ文献には、魔法とは神が与えてくださった力、魔力があるのも神が創造したからだという考えの宗教本も複数存在していたけれど、まったく信じてはいない。


「魔法が使えるのは自身の鍛錬の結果によるものです。それとも、魔力の素となる、魔力素が大気中に満ちていることすらも神のおかげだとお考えですか?」


 ロヴァリエ王女は何とも言い難い表情をなさった。

 もちろん、そういう考え方が一般的にされているのは知っている。デューン様とアルテ様が、何だかよくわからないことによりうんたらかんたら、と書かれた本も何冊も図書室に保管されている。

 しかし、いや、これは僕自身の考えであって、押し付けたりするのも良くはない。


「申し訳ありませんでした。何をお伝えしたかったのかと申しますと、私自身は今のところ、魔法をむやみやたらと考えもなく使うつもりはない、ということです。信じてはいただけないでしょうが」


「いえ、大丈夫よ」


 僕の言葉を遮ったロヴァリエ王女は、ナセリア様とフィリエ様の方へちらりと視線を向けられた。


「あなたがそんなことをするような人じゃなさそうだというのは、何となくだけど感じられるもの」


 何を分かった気に、などとつまらない愚痴を叩くつもりはない。ただ、僕の言葉を信じてくださったのは純粋に嬉しかった。

 自分の脅威にもなり得るほどの未知の力を目にした場合、利用しようとするか、排除しようとするか、どちらかだと思っていた。

 しかし、ロヴァリエ王女も、学院の皆さんも、もちろんナセリア様も、フィリエ様も、そんなご様子は欠片も見せられず、むしろ、好意ばかりを向けてくださった。負の感情ではなく、純粋な好奇心と尊敬などのこめられたものだった。

 もちろん、まったく恐怖がなかったかといえば、ゼロであるとはいえなかったけれど。


「ありがとうございます」


 僕も真摯に応えていこうと思った。

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