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ウィンリーエ学院 9

 同時に僕は地面を強く蹴り出した。

 もちろんただの脚力による踏み込みではなく、自己加速魔法によって勢いをつけたものだ。

 気づかれないように身体操作系の魔法を使うのは、訓練の成果もあって、得意な魔法の部類に入る。とはいえ、開始の合図前から魔力を放出したわけではなく、身体の内側で練るという表現が正しいのか分からないけれど、とにかく、ため込んでいた魔力を合図と同時に膂力に加算したのだ。

 開始前に魔法を使うのは、審判がいる以上、反則を取られる可能性があったけれど、魔法として存在していなければ、ただの魔力であれば開始前に魔法を使ったことにはならないだろうと判断したのだけれど、案の定、何も注意されたりはしなかった。学院の先生ともあろう方が魔力の反応に気が付かないはずはないだろうし、黙認されたのだろうから構わないだろう。

 もっとも、フィシオ教諭はこれで終わるような方ではなかった。

 魔力を伴って遠慮なく突き出した拳は、フィシオ教諭の回避もあって、宙を切り裂くだけに終わった。


「解放!」


 フィシオ教諭が叫ばれると、伸ばした腕を絡めとらんとするかの如く、地中から鎖のようなバインドが伸びてくる。 

 それを破壊すると、今度は僕の死角辺りからリボンのようなバインドが姿をみせた。

 残念ながら、死角とは言っても見えないだけで、感じることは出来るから防御するのも簡単だった。


「嘘っ!」


 誰が叫んだのか、ひとつ以上の驚きを示す声が上がる。

 魔法を使うのに見ていたり、見えていたりする必要はない。

 例えば、この学院にいながらお城の一室に障壁を展開することも、理屈の上では不可能というわけではない。しっかりと空間を把握して、想像することさえできれば、魔力の許す限り、地上のどこへでも魔法を作用させることは出来るはずだ。

 しかし、普通は目で見ていないところへと魔法を作用させるのは難しい。距離的な問題はないとはいえ、認識、想像できなければ、やはり魔法は使えたりしないのだから。

 つまり、今僕がしてみせたような、全周を防御するのではなく、限られた範囲のみへの障壁の展開には、かなりの想像力、認識力、魔法力、などが必要になるということになる。

 球形だったりと、自身の身体を覆うようなフィールド型の障壁を張る方が普通であり、バリア型の種へ気を見えない範囲に使うということは、言うまでもなく、範囲が絞られるわけで、無駄に終わる可能性の方が高くなるはすだった。


「なにも、見えない範囲だからといって、フィールドタイプの障壁を使わなくてはならないということはありません。しっかりと魔法、もしくは魔力、或いはその両方の把握ができていれば、今のようにバリアタイプのものでも防ぎきることは出来ます」


 先程の授業の内容と早速反してしまったのだけれど、授業内容から脱した方法をこそ示すべきだとも思う。

 僕は見えない範囲などからの攻撃などに関してはフィールドタイプのものや結界などを用いることにより、ある程度の範囲を完全に遮断した方が危険も少ないと言ったつもりだったけれど、フィールドタイプのものや、結界を用いる場合の欠点として、魔力の消費量があげられる。

 バリアや障壁と呼んでいるタイプの魔法は、一点集中、つまりは魔力を用いるのも瞬間的なものであるのに対し、フィールドや結界といったタイプの用いる場合、展開している間中、常に魔力を消費し続けることになる。

 もちろん得意、不得意もあるだろうし、調整が上手くできない場合には、どちらの方が燃費が悪いとは一概に言い切ることは出来ないけれど、少なくとも僕の場合、だらだらと魔力を消耗し続けるフィールドを張り続けるよりも、魔力を感じ取り、ピンポイントで防ぐ障壁、シールドを展開する方が魔力の消費を抑えることが出来る。

 実際の戦闘ともなれば、障壁魔法の他にも、例えば探索、探知の魔法、連絡を取るための念話、戦場を駆けるための移動魔法、そしてもちろん攻撃のための魔法と、並行して使わなくてはならない魔法がたくさんあり、魔力を無駄にすることは極力避けるべきだ。

 姫様方は戦場に立たれるようなことはないだろうし––僕や魔法師団の方々、それに騎士の皆さんがそんなことはさせたりしない––危険だと思われたらすぐに防御フィールドを形成していていただきたいのだけれど、実際に戦闘を行うであろう僕たちにとっては、何らかの特別な手段でも用いて回復量を消費量よりも上回らせることが出来ない限りは、このように魔力の消費を極力抑えつつ戦うことが求められる。

 もちろん危険もある。

 突然、魔力を感じ取るよりも速く、障壁を展開するよりも先に、圧倒的な速度を持って魔法が放たれた場合、障壁の展開が間に合わず、直撃を受ける可能性もある。

 それが必殺の一撃だった場合、なすすべもなくやられてしまうことも考えられる。

 しかし、僕は自身の記した魔導書に載っている、つまりは今この国、及び大陸に出回っている魔法に関しては全て把握している。それらの魔法に関してならば、あまりにも過剰でない限り、どのような状況でも防ぐことが出来るだろうという確信もあるし、もし魔導書に記載されていない、未知なる魔法、もしくは別の技術などによる襲撃の場合など考えているときりはない。

 魔法は万能性を秘めているかもしれないけれど、決して万能ではないのだから。

 そして、現在の状況、これまでの授業からフィシオ教諭の実力を判断するに、おそらく、そういった隠し玉的な手段はないだろうと判断していた。

 本当に内密にすべきことならば話したり、見せたりはしないものかもしれないけれど、そのような隠し事をされているような雰囲気はなかった。さりげなく探りを入れてみたりもしたけれど、おそらく、僕の知らない魔法を使われることは、少なくとも今の段階では、ないだろう。

 相手の魔法力の方が強ければ、僕の障壁は突破されてしまうのだけれど、そのような事態にもなったりしなかった。

 僕は下で観戦なさっている姫様方の方を向きながら、


「これより攻撃のための魔法をお見せいたしますが、しっかりと理解されない間は決して真似をなさらないでください。制御を誤ると魔力を使い過ぎてしまいますし、もしそれで倒れられるようなことにでもなれば大変ですから」


 手のひらに魔力の収束を開始する。

 フィシオ教諭が展開なさるだろう障壁等を撃ち抜けるであろう、十分な威力を込めた魔力弾を造り上げる。

 防御の際に必要なことは相手の魔法に押し負けないだけのバリアや結界を作ることだけれど、逆に、攻撃に必要なのは、相手の防御を突破するだけの威力を込めた魔法だ。

 もちろん、魔力を込め過ぎてしまっては周囲に甚大な被害を及ぼすことにもなりかねないため、細心の注意をはらう。

 腐食や石化などでは見ごたえもないだろうし、そもそも危険過ぎるし、ゴーレムを作り出すのであったり、召喚の魔法には時間もかかる。

 天候操作では範囲が広くなりすぎてしまうし、死霊魔法や呪いを見せるわけにはいかない。

 魔力砲程度であれば、姫様方はすでにご存知かもしれないけれど、分かりやすく見せるためには、ある程度派手な方が良いだろう。

 炎や水、氷や雷などでは地味に思われるかもしれない。


「いきます」


 宣言したのはフィシオ教諭にしっかりと防御していただくためだ。

 防御ごと撃ち抜くつもりではあるけれど、防御魔法を使うと使わないとでは結果に影響が出るだろう。

 わずかにでも減衰されれば、ともすれば、まだ戦うことが可能かもしれない。こちらも殺したり、治癒不能な怪我を負わせたりしないように加減するつもりなのだから。

 フィシオ教諭が障壁を展開されたのを確認してから、僕は収束した魔力を砲撃として放った。

 放ったのは一瞬だったけれど、辺りは白い魔力光に飲み込まれた。

 


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