表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/217

ウィンリーエ学院

 朝食にチーズの入ったふわふわとろとろのオムレツをお腹に収めた僕たちは、シルエラ様とシルキー様にお礼を告げてギルドを後にした。

 ウィンリーエ学院は僕たちが泊まったギルドの目と鼻の先にあるので、どうやらご自分の足で歩いてみたかったご様子のフィリエ様が、お送り致しますとおっしゃってくださった御者の方をお断りされてしまった。

 学院は全寮制で、国民の皆さんが通っていらっしゃるわけではないとのことだったけれど、身分に関係なく、学費は多少かかるとはいえ、将来働くときに必要な知識を得ることが出来る機関というのは随分と魅力的に思える。少なくとも、学院に通っている間は衣食住に関して心配しなくても良いのだから。


「国としてお金を出すのは当然です。ここで学んでいらっしゃる方は未来のリーベルフィアを担っていく者ですから。そこでの投資は後からいくらでも回収できることでしょう」


 知識のない、もしくは誤った知識を持ってしまわないように教育を受けさせるのは、将来を見据えた場合に、たしかに必要な投資なのかもしれない。

 それに、学院で学ぶことが出来るとはいえ、まだ小さい子供たちを保護するための場所としても、全寮制の教育機関というのは良い働きをしているのではないだろうか。

 そういった意味でも、人材を資源と言い切るのには抵抗があるけれど、ナセリア様のおっしゃることは正しいのかもしれない。


「もっとも、初期費用、つまりは学費だけはどうしようもありません。教師を務めてくださっている方にお給料を払わなくてはなりませんから」


 ナセリア様の表情がわずかに曇る。

 他にも、学院の設備の維持費用、必要な資材の購入、諸々のお金は必要になる。

 奨学金という制度もあることにはあるらしいのだけれど、利子もないとはいえ、お金のない人たちが借りるのには抵抗があることだろう。その気持ちはとてもよくわかる。

 将来的により多くの富を得るためとはいえ、言い方や実態はどうあれ、借金に似た構造を利用する気にはなかなかなれないのだろう。

 結果、富める人とそうでない人の知識だったりの差が広がり、余計に格差を助長することにもなるのだけれど、中々難しいものです、と続けられた。


「姫様は学院に通いたいとは思われたりなさらないのですか?」


 お城では学院で学べることのほとんどを、学院以上のレベルで教わることが出来ているのだろう。学問でも然り、運動及び武術然り、自分のことながら魔法も。もっとも、学院の内容はこれから見学させていただくのだけれど。

 そのため、姫様方にとっては通う必要がないのかもしれないとは思ったけれど。


「あたしは通ってみたいわ!」


 フィリエ様は、柵の向こう側に見える真っ白な学院校舎へときらきらとした瞳を向けられた。


「学院にはたくさんの生徒が通っているのでしょう? 格好良くて、優しく紳士的で、思いやりがあって、誰からも好かれていて、包容力も、素敵な話術も、もちろん強さも持ち合わせた結婚相手がいるかもしれないわ。もちろん、あたしを1番に愛してくれる人だけれど」


 なんというか、思っていたのとは大分違う反応だった。そういったものは、学院ではなく、パーティーなどに求めるものなのではないだろうか。もちろん、学院生活を一緒に過ごす中で見極められたいと思っていらっしゃるのかもしれないけれど。

 これは王妃様にご相談した方が良いのだろうか。

 しかし、ご息女様は将来の夢がはっきりしていらしてとてもよろしいのですが、少々思考が偏っていらっしゃるというか、そんなふわふわとした内容で王妃様へご相談しても構わないのだろうか。

 仰っている内容だけを考えれば、素晴らしく素敵な相手なのだけれど、何となく不安にならずにはいられない。

 フィリエ様の、そしてもちろんナセリア様やミスティカ様の美貌を考えれば、王族のお姫様ということを抜きにしても、将来的に言い寄って来る男性は後を絶たないだろう。

 もちろん、今でも同年代のご子息、ご息女の方々と関わり合いになられることがあれば、例えば主席なさったパーティ―などでお会いするような貴族の跡取りの方などには言い寄られることは、これから先、どんどん増えることだろう。

 今でも天上の美をお持ちだし、性格も素敵なのだから、今後成長されれば、一体どれほどの素敵な女性になられるのか。


「もちろん、学院の授業にも興味はあるわよ。だからユースティア、そんなに不安そうな目で見るのはやめてよね」


 フィリエ様はナセリア様のお顔をちらりと見られ、


「ユースティアは将来の事とか考えているの? もしかして、ずっと王宮の魔法顧問でいるつもり?」


 どうなのだろう。

 もちろん、姫様、王子様方に魔法をお教えするのにはやりがいを感じている。

 しかし、今までは大手に振るって使う事の出来なかった魔法で食い扶持を稼ぐことが出来ているのは、ナセリア様に拾っていただいたおかげだ。それは偶然で、それも運命と言ってしまうことも出来るのかもしれないけれど、甘えてよい境遇だとは思っていない。

 他の、それこそこの学院に通われていらっしゃるような、成績優秀、将来有望と目されていらっしゃる方に言わせれば、その境遇を捨てるなど贅沢だと言われてしまうかもしれないけれど。


「もちろん、姫様方に魔法をお教えすることには大変喜びを感じておりますが、ずっとこのままというわけにもゆかないでしょう。いずれは私もお城を出ることになるとは思いますが‥‥‥」


 隣に座っていらっしゃるナセリア様の肩がピクリと震え、不安そうな視線でこちらを見上げられる。


「ユー––」


「お待ちしておりました」


 ナセリア様が何かおっしゃられかけたところで、守衛の方に声をかけられた。

 前回、ユニスに案内して貰った時に一緒にいた僕の顔も覚えていてくださったようで、僕たちは軽く挨拶を交わした。


「ナセリア・シュトラーレス王女殿下、フィリエ・シュトラーレス王女殿下、ロヴァリエ・アインシュタットリディアン帝国第一王女殿下、それにユースティア王室魔法顧問殿ですね。ご案内致します」


 それから畏まって敬礼された守衛の方に先導されて、僕たちは立ち並ぶ木々を眺めながら学院へと続く道を歩いた。


「今の季節は花など散ってしまっておりまして。もう少し致しますと、この並木道にも満開の花が咲くのですが」


「もちろん姫様のご要望とあれば、いつでも花を咲かせてご覧に入れますが」


 学院ではもうすぐ卒業式だということで、行事などはもうほとんど残っていないということだった。


「構いません。普段の授業風景が見学したかっただけですから」


 ロヴァリエ王女にそうおっしゃられて、守衛の方はわずかに気を楽にされたようだった。ほんのわずかにだけれど。


「ではまず、学院長室へご案内致します」


 案内された学院長室にいらしたのは、王妃様と同じくらいの年齢に見える女性の方だった。


「ようこそお越しくださいました。私が現在ウィンリーエ学院の学院長を務めさせていただいております、エルトリーゼ・フォンテーヌでございます」


 クリーム色の髪を1つに結い上げられた、柔らかい雰囲気の女性が立ち上がって頭を下げられた。


「王女様方がお越しになることを生徒に告げてはおりませんが、知ればきっと皆の励みとなることでしょう。どうぞよろしくお願いいたします」


 エルトリーゼ学院長、御自らご案内していただけるということで、僕は姫様たちの後ろについて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ