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いざ学院へ 3

 姫様方がお風呂へ入っている間に、僕は浄化の魔法で自分の身体を綺麗にした。

 仰々しくするのは相手方が困るだろうということで、護衛には僕1人だけしかこの場ではついていない。そのため、いつでも姫様の危機には参上できるように態勢を整えていなくてはならないし、かといって、不潔なままでいるなどということは出来ない。

 お風呂の扉は厚い素材であるらしく、中から声や音が聞こえてくるということはない。僕は念のため、室内の音が聞こえないようにする遮音の結界を張った。

 ちなみに、外からの音は、姫様方にも危険を察知していただけるよう遮断していない。

 水源に関しては、近くにリリエティス川が流れているため問題はないだろうし、おそらくはお城などと同じように暖かい水が出る仕組みも整えられているのだろうから心配はないだろう。

 姫様方をお風呂へと見送った後、建物の外回りもしてきて外部からの干渉は無理だろうということも確認しているため、おそらく不逞の輩が現れることもないはずだ。そもそも、そのために僕がこうして見張りをしているのだし。

 この扉を隔てた向こう側がどうなっているのかは分からないけれど、そこには一糸纏わぬ姿の天上の美を持つ姫様方がお湯をいただいているわけで‥‥‥っと、そんな想像をしてはいけない。


「あのー」


 僕が頭を振って、想像というか妄想を振り払っていると、袋を持った冒険者と思しき女性のパーティーに声をかけられた。

 年齢はロヴァリエ王女と同じか少し若いくらいだろうか。


「申し訳ありません。私はここで姫様方の護衛をしているだけですので、決してやましい気持ちが、全くないとは言い切れませんが、とにかく、貴女方のご迷惑になったり、不逞を働こうなどとは微塵も考えておりませんので、どうか––」


 思わず早口で捲し立ててしまったのだけれど、彼女たちは、何がおかしかったのか、違いますよ、と軽い感じで微笑まれた。


「あの、ユースティア様ですよね。王室の魔法顧問の」


 一瞬、彼女たちの口から出たユースティア様というのが自分の事だとは理解できなかった。僕は決して様などという敬称をつけて呼ばれるような立派な人物ではないし、お城でも、殿をつけられることはあっても、様をつけられるようなことはない。

 そのおかげで反応が遅れてしまい、女性を待たせることになってしまった。

 ここへいらしたということは身を清められるためだろうし、時間をかけてしまうのも良くないだろう。


「はい。その通りでございます、お嬢様方」


 僕はその場ですぐさま膝をつくと、紳士的な態度で彼女たちの手を取った。


「私はユースティア。至らぬ身なれど、国王様のご厚意により、王室の魔法顧問などを務めさせていただいている者です」


 女性の冒険者のパーティーの皆様は、やっぱり、とか、本当に若いのね、などと驚いたような声を上げられた。


「ということは、当然、すごい魔法なんかもお使いになられるんですよね」


「おバカ! 失礼でしょう!」


 すごいというのがどういったものかは分からないけれど、魔法が使えるというのは間違いない。

 おそらくは、最初にコーマック元魔法顧問殿と手合わせ––というほどのでもなかったのだけれど––をしたときの周りの皆様の驚きようから考えても、僕がこの世界に持ち込んだ、正確には元々あったにもかかわらず、今まで使える人が居なかった魔法が、「すごい」と呼ばれるものであるのは間違いがない。

 それを踏まえれば、魔導書が出回ってしばらく経つとはいえ、すごい魔法を使えるという認識にさほど誤りがあるようには思えない。


「あの魔導書を編纂したのも貴方だと窺っているのですが‥‥‥」


「はい。その通りです」


 どうやらこちらの会話に耳をそばだてていたらしい、他の冒険者の方で、まだギルドの入り口付近で食事やお酒をいただいている方々のところからも、椅子を引くような音が聞こえてきた。


「あの、お忙しいのは重々承知の上ですが、なにとぞ、私にも魔法の授業をつけてはいただけませんか。もちろん、報酬はお支払い致しますので」


 何故だかその場に膝をつかれて、顔を伏せられてまでお願いされてしまった。


「何! 王城の魔法顧問殿が魔法を教えてくれるのか!」


「俺も頼んでみようかな」


「お前は魔法師じゃねえだろ、俺が行くわ」


「じゃあ、あたしも」


 そんな声が聞こえてきて、一斉に皆さんが押し掛けられたものだから、お風呂の前の通路は人で溢れ返ってしまった。


「うるさいわよ、ユースティア。どうしたのよ?」


 そんな時に、お湯上りで、火照った身体のフィリエ様が扉を開かれたものだから、一瞬の静寂こそあったものの、ギルドの中はまさに狂乱状態とでも言えるような状況に陥ってしまった。

 フィリエ様は、お湯上りのためか、いつもは左右で縛ったり、ひとつに纏めたりなさっている髪をほどいて下ろされていて、耳にかかる金の髪をかき上げる仕草が、溢れ出る気品と共に、とても7歳とは思えないほどに色っぽい。


「フィリエ様! 今しばらく、私がこの状況を押さえるまで中でお待ちください!」


「わ、わかったわ」


 すぐに状況を把握されたのか、フィリエ様がすぐに扉を閉められて、僕は精神を落ち着かせる魔法を使った。

 精神や情動などに関する魔法は危険なものもあるので一般に出回らせる魔導書には記していないものも多い。

 とりあえず騒ぎを沈め、一応僕の声を聞いてくださる態勢が皆さん整ったところで、改めて僕は口を開いた。


「私たちは明日学院へと向かう用事があるためこちらに立ち寄った次第です。皆様のご期待に応えたいのは山々なのですが、現在、私たちは国王様の命を受けて行動しております。今日は姫様も馬車に揺られてお疲れでいらっしゃいます。後日、改めて時間を設けることができるか確認して参りますので、この場はどうかお引き取りをお願いできますでしょうか」


 国王様のサインの入った書状の前に、なお詰め寄るような無謀な方はいらっしゃらず、とりあえずその場を収めることには成功した。

 しかし、フィリエ様には後でいくつか言いたいことが出来てしまった。

 

「フィリエ様、軽々な言動はなるべく控えていただけますか。でなければ、大変申し上げにくいのですが、王妃様にお伝えしなくてはなりません」


 この程度の事態で王妃様にお伝えすることはないだろうけれど、毎度毎度あのような行動に出られるようでは、こちらの気が持たない。

 部屋のベッドに腰かけられたフィリエ様は、おそらくお風呂で同じような事をナセリア様にも注意されたのだろう、ユースティアもお姉様と同じことを言うのね、とぼやかれながらも、わかったわ、と頷いてくださった。

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