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ミラさんの悪だくみ?

 ロヴァリエ王女が魔法の授業に参加されるようになってから数日が経過していた。

 騎士団の皆さんも目を見張るような剣技をお持ちのロヴァリエ王女だけれど、流石というか、学問の国と評されるリディアン帝国の姫君だけあって、そちらの方面にも明るいご様子だった。

 僕に魔法を教えて貰っている代わりにと、ナセリア様たちの勉強の授業にお顔を見せられたらしい。

 エイリオス様はリディアン帝国について、政治や文化に大きな関心を示されたらしく、将来ご自身がリーベルフィアの国王様にご即位されるにあたり、隣国の事情を詳しく尋ねられていたらしい。

 数学や大陸の歴史、哲学など、大分研究が進んでいらっしゃるみたいです、と、図書室で勉強をしているときに隣にいらしたナセリア様もおっしゃっている。


「ユースティア、それにナセリア王女、2人で何しているの?」


 その日の午後、お茶の時間を過ぎた頃、僕がナセリア様に勉強を見ていただいていると、場内を散策されていたらしいロヴァリエ王女がお顔を見せられた。

 ナセリア様はお優しくて、僕が魔法師団の皆さんと訓練していないときなどに図書室や魔法師団に宛がわれている部屋で勉強しているときにはいつもお顔を見せてくださって、難しいことの書かれている学術書をとても分かりやすく説明してくださったり、とても感謝している。


「へー。ユースティアは私たちより年上に見えるけど、魔法と違って、こっちの方はあんまり得意じゃないのね」


 ロヴァリエ王女は机の上に広げられている本をさらっと流し読みされると、ナセリア様とは反対側の、僕の隣の椅子に腰を下ろされた。


「こっちにいる間、私も魔法を教えて貰っているんだし、私もユースティアに勉強教えてあげましょうか?」


「いえ、ロヴァリエ様はご賓客であらせられますから」


 ロヴァリエ王女が口を開かれかけたところで、普段は図書室になど寄り付かれることはないフィリエ様がミスティカ様の手を引いて顔を見せられた。


「ロヴァリエ王女、お母様がお茶を入れてくださったの。私もクッキーを焼いてみたし、お母様もロヴァリエ王女とお話がしたいっておっしゃっていたわ」


「え、あ、そうですか」


 フィリエ様はそのままロヴァリエ王女の背中を押すような形で、行きましょう、と、去り際にナセリア様に素敵なウィンクを投げられた。


「お姉様もご一緒にどう?」


「いえ、私はユースティアと約束がありますから」


「あの、僕は別に––」


「そう。じゃあ、また、今度はユースティアも一緒にね」


 あっという間にフィリエ様が去ってしまわれ、図書室には僕と、少し頬を染められたナセリア様と、とても楽しそうな笑顔を浮かべて今の光景をご覧になっていたミラさんだけが残された。


「あの、ナセリア様。王妃様のお誘いでしたのに、よろしかったのですか?」


 ペンを動かしながら尋ねてみると、


「ユースティアは私と一緒にこうして勉強するのは嫌ですか?」


 ナセリア様は、少し沈んでいるみたいな、躊躇うような、遠慮がちな声で上目遣いに見上げてこられた。


「いえ、そのようなことはありませんが」


 嫌どころか、こうしてナセリア様と一緒にいると、何だかとても、何というか、暖かい気持ちになる。けれど、ナセリア様がおっしゃられたこととはいえ、僕のために時間を使ってくださっていること自体はとてもありがたく思っているのだけれど、そのためにナセリア様を制限したりはしたくない。


「鈍い男の子はもてないわよ」


 不意にミラさんがそのような事をおっしゃられて、びくりと震えたナセリア様の肩が僕の腕にぶつかった。

 ナセリア様が、それにフィリエ様やエイリオス様も、どんな種類とは同じではないけれど、僕に好意を向けてくださっていることは分かっている。

 好意というものとは縁遠い生活をしていたので戸惑うことばかりだけれど、それはとても嬉しい気持ちになることのできる気持ちだ。

 しかし、その気持ちに流されるわけにはいかない。


「ユースティア、あなた何を躊躇って、いえ、怯えているの?」


「お、怯えてなんて‥‥‥」


 ミラさんに尋ねられ、咄嗟に否定したけれど、言葉を続けることは出来ずに視線を逸らしてしまう。それはミラさんの言葉に頷いたも同然だった。


「‥‥‥そういえば、この間、娘が家に彼氏を連れてきてね、旦那がもうそれはそれは大変で。やっぱり男の人はいくつになってもあほねえ、と思ったんだけど、ユースティアもそう思う?」


 ミラさんの質問に対して、僕がどう答えようかと逡巡していると、当のミラさんから、そんなことはどうでもいいのと言われた。

 ご自分で質問して、答えも聞かずに打ち切るなんて、一体何が目的なのだろう。


「どうでもいいと思ったし、寝たら忘れてしまいそうだと思ったでしょう? 私も、あなたに聞いたことはここを出たら忘れてしまうから、お姉さんに話してごらんなさい。それだけでもほんの少しは軽くなるはずよ」


 ふんわりとした、優し気な微笑をたたえながら、カウンターの向こうからミラさんが語り掛けられる。

 ミラさんが心からそう思っていらっしゃるのだろうことは伝わってくるし、ナセリア様の表情からも僕の事をとても気にかけてくださっているのは見て取れる。

 おそらくおふたりに、いや、もう季節も2つ3つ以上流れる中でずっとお城に暮らさせていただいているわけだから、お城の方ならどなたもきっと、話しても何かがあるわけではないとわかっている。

 けれど、だからこそ、そんな輝く陽だまりの中に居るような人たちに、話をするべきではないだろう。


「‥‥‥これは荒療治が必要かもしれないわね。無理やり話さざるを得ない状況を作ってしまいましょう」


 僕は直前の話を振り払うかのように学術書に没頭したので、ミラさんがナセリア様と一緒に話していらっしゃる内容までは聞き取ることが出来なかった。


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