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エスコートの練習

 今まで世間に出回っていたものとは全く違う、どころか、僕たちの編纂した魔導書に載っている魔法はそれまでのリーベルフィアの魔法事情を一変させた。

 学院では生徒及び親が集まっての数日にも及ぶ簡易的な講習会、演習会も開かせていただいたし、冒険者ギルドの方へ向かわれた師団の方はとても満足げな表情で帰って来られた。

 魔導書の複製は即座に行われ、悪人に利用される可能性を極力減らすために、それぞれに配られた物には皆、鍵の魔法が掛けられていた。それで確実に安心かと言われれば、絶対にとは言い切れないけれど、知っていると知らないとでは不測の事態に対する対応にも差が出てしまう。知識は力だ。そのことは、今回の魔導書編纂の件で、魔法師団の全員が同じ意見だった。


「すでに冒険者を通じて知ったのか、魔導書の複製の閲覧許可を求める書簡や、複製で良いから買い取りたいという遣いも、近隣諸国をはじめ、各国から届けられている」


 玉座の間に呼び出しを受けた僕たちは国王様のお言葉を静かにうかがっていた。


「近日中にリディアン帝国から是非本人に会いたいということでロヴァリエ王女がお越しになる。その際には色々と頼むことになるだろう。よろしく頼む」


 リディアン帝国はリーベルフィアの西、リリエティス川を境として国境を敷いていて、いわゆる学問の国としても知られているらしい。

 お城の図書館にもリディアン帝国の学術書は置いてあったし、体系化というほどではないけれど、こうして世に出回った魔導書の編纂者に会いたいというのはあり得ない話ではないように思えた。

 アルトルゼン様のお話では、ロヴァリエ王女は御年16歳。ユニスと同じ年頃の美少女だという事だった。


「頼むと言われても、僕に王女様のお相手が務まるとも思えないんだけれどなあ」


 もちろん、ナセリア様やフィリエ様、ミスティカ様のお相手はさせていただいている。でもそれは僕が魔法を教える立場だという事と、年下の女性に対する接し方はユユカやロレッタ達で慣れていたからだと言っても過言ではない。同年代ならばティノの事も当てはまる。

 しかし年上ともなると、そういう風に女性と接したことはなくなる。

 娼館で働いた経験など、まさか生かせるはずもないし、シナーリアさんとはそんな風に畏まった付き合い方はしていなかった。

 まさかユニスと同じように王女様に接するわけにもいかないだろう。

 とにかく、慣れることが必要だと感じていた。


「どうしたの、そんなに余裕のない顔をして溜息なんかついたりしちゃって。大仕事を成し遂げたんだからもっと胸を張っていたら?」


 昼食をとっていると、対面の席に同じように昼食を手にしたユニスが座っていた。

 相変わらず見事な膨らみをみせている胸元は、布地が弾けそうになっていて、制服のエプロンは真っ白く、薄茶色の髪はきちんと結い上げられていて、綺麗な大きい水色の瞳で僕の事を覗き込んでいた。


「侍女の皆の中でもそうだけど、街中、私の友達にもユースティアに会って話してみたいって子はいっぱいいたわ」


 ユニスは当然、リディアン帝国からロヴァリエ王女がいらっしゃることを知っていた。


「それはそうよ。私たちだって、王女様がお城に滞在される間、失礼のないようにおもてなしをしなくてはならないんだから」


 ユニスはとても気合の入って表情で頷いていた。

 メイドとしての仕事に誇りを持っているユニスは、王女様のお世話ということもあって、やる気と気合に満ち溢れてているのだろう。

 僕はユニスにロヴァリエ王女の案内役と、お話のお相手をすることになったことを打ち明けた。


「まあ! 良かったじゃない、ユースティア。大役よ」


「そうなんだけどさ、この国の案内と言っても、どこへ行ってどうしたらいいのかさっぱり分からないんだ」


 たしかにお祭りの時に姫様たちの護衛を務めたこともあったけれど、基本的に僕はこの国、この街に詳しくはない。他国からいらっしゃる王女様に満足していただくような案内ができる自信はなかった。


「ユースティア、今日この後は暇?」


「いや、今日はこの後、姫様たちの魔法の授業があるから。明日なら授業は午前中だけれど」


「じゃあ、明日の午後、デートしましょう。ついでに地理というか、スポットも教えてあげる」


 それじゃあ、とユニスは言い残して、軽い足取りで食堂を出て行ってしまった。



 ◇ ◇ ◇



 僕の方は大丈夫だけれど、ユニスの方は仕事を休んできても大丈夫なのだろうかという心配は、余計なものだった。

 その日、ユニスは非番だったらしく、感謝祭の時にも開催の宣言がなされた広場が待ち合わせの場所だった。


「どこかへ出かけるのですか?」


 午前の授業を終え、姫様たちが昼食へ向かわれる中、門の方へと向かう僕へとナセリア様がお声をかけてくださった。


「はい。先日、国王様よりロヴァリエ王女の案内の任をいただきましたので、今日はその下見といいますか、ユニスにおすすめのスポットを教えていただけることになっているんです」


 僕が答えると、ナセリア様はじぃっと僕の顔を見つめられて、それから


「そうですか。私はこの後ダンスのお稽古がありますから、私の事はお気になさらず、ユニスとのデートを楽しんできてください」


 と、少しばかり拗ねられたような口調でおっしゃられて、歩いていってしまわれた。


「いけない、ユニスを待たせてしまう」


 ナセリア様の様子に少しひっかかりを覚えたけれど、それは後回しにして、僕は飛行の魔法で一直線に広場へ向かった。

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