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パーティーの裏側で 2

 探索魔法の下、辿り着いたのはジョセフィーヌ様のお部屋ではなかった。

 もちろんアルトマン様のお部屋でもなく、ナセリア様の寝室だった。


「お任せ下さいとは申しましたけれど、フィリエ様‥‥‥」


 いくらこの中にジョセフィーヌ様がいらっしゃるからといって、ほぼ確実に人には言えないようなことをなさっているだろうからといって、ナセリア様のご寝室に僕が躊躇なく足を踏み入れることが出来るかといえば、そんなことはもちろんありえない。

 たしかに、例の襲撃があった夜、僕はナセリア様のご寝室に許可なく––後で許していただいたけれど――入ったとはいえ、あの時はナセリア様が室内にいらっしゃった。しかし、今ナセリア様はパーティーにご出席なさっていらっしゃるので、確実にこの部屋にはいらっしゃらない。

 ユニスや他のメイドさん方であれば、掃除などと言うことも出来るのだろうけれど、僕にはそれは出来ない。


「ユースティア、どうかしたのですか?」


 ナセリア様の部屋の前で固まっていると、この場にいるはずもない、まさにご本人から声をかけられた。

 パーティーということもあり、今夜のナセリア様は普段着ていらっしゃるような普通のドレス––とはいえ、街中の仕立て屋さんで売られているようなものではなく、一点物の、目を見張るものだけれど――ではなく、きらきらと眩い光を反射するひらひらとした布を重ねたようなドレスを纏われている。


「見回りです。この前のようなことがあってはいけませんから」


 先日とは違い、今日は他の貴族の方達もパーティーにご出席されている。そんな中で事件などが起こってしまっては、大変な騒ぎになる。


「ナセリア様はどうしてこちらに?」


 フィリエ様は確かにナセリア様を引き留めていてくださるとおっしゃられたはずなのに。

 ナセリア様はご自分の使命を放り出して、パーティーの最中だというのにお部屋に戻られるような、そんな方ではない。ゆえに、こちらへ戻られたのには相応の理由があると思われ、この場から離れていただくのは無理かもしれない。


「‥‥‥少し会場を抜けてきたのですけれど、そうしたらこちらにユースティアの姿が見えたので」


 ナセリア様はわずかに頬を染められて、言いにくそうに告げられた。


「お部屋にご用事があるわけではないのですね?」


 思わず確認してしまい、しまったと思った。ナセリア様は夜空に浮かぶ月のように美しい金の瞳をわずかにひそめられて、僕の顔をさっと見つめられると、それからご自身のお部屋へと顔を向けられた。


「大方の事情は把握しました。では行きましょう」


「お待ちください!」


 あまりにも自然にお部屋へと入ろうとなさるものだから、僕は思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を塞いだ。思わずきょろきょろと辺りを見回して、誰もいないことを確認すると、僕は小さく溜息をついた。


「ナセリア様、お分かりの事と思いますが、中に居るのはこちらに対して何らかの害意を持った、言ってしまえば敵なのですよ?」


 自分のことは棚に上げてしまうけれど、女性の部屋に無断で侵入するような輩がまともであるはずはない。たしかにナセリア様は賊と対峙されても平然と––内心はどうか分からないけれど――なさっていらっしゃるような方だけれど、悪意や害意を持つ者がいると知っていて、わざわざそこに姫様を向かわせてしまうようでは、僕は一体何のために警備など任されているのだろうと思ってしまう。


「問題ありません」


 しかし、ナセリア様は全く臆する様子も見せられずに、扉に手をかけられた。


「だって、たとえ何があっても、ユースティアが護ってくれるのでしょう?」


 穏やかな、何も心配していない、完全に信頼しているというような笑顔を見せられては、その信頼を裏切るわけにはいかない。

 騒ぎが大きくなってしまえば、パーティーは中止になって多くの方にご迷惑をかけてしまうことになってしまうし、それはナセリア様も望まれてはいらっしゃらないだろう。


「それに私が一緒にいれば、万が一お父様にこの事が露見しても言い訳にすることも出来るでしょうから」


 元々女性の部屋に無断で入ってしまうことには抵抗があったのだけれど、改めて言葉にされると、アルトルゼン様に僕の首が飛ばされるイメージしか沸いてこない。

 おそらくナセリア様がそのような報告をなさるはずはないと思いつつも、このように脅しのように言われたことからも、ここで引きさがられるような意志がないことは明白だった。


「承知いたしました。この命に代えましても、ナセリア様のことはお守りいたします」


「それではダメです」


 間髪入れずに否定され、僕は顔を上げた。

 ナセリア様は子供を咎める母親のような表情を浮かべられると、膝をつく僕に向かって、細くて綺麗な人差し指を立てられた。


「ユースティアは私の誕生日をお祝いしてはくれないのですか?」


 ナセリア様のお誕生日まではあと10日もない。先日手に入れたプレゼントは、僕の部屋の机の引き出しに大事に保管している。

 お祝いするということは、僕がその贈り物をナセリア様に手渡さなければならないということで、ここで倒れたりすることは絶対に出来ないということだ。


「すみませんでした。必ず、ナセリア様の10歳のお誕生日をお祝い致します」


 窓からわずかに差し込む月明かりに照らされたナセリア様は、とても綺麗な笑顔をなさっていた。


「しかし、危険な事には変わりありません。どうか、私の後ろにいらしてください」


「はい」


 いまだ賊––無断で姫様の寝室に入るような輩が賊でなくてなんだろうか––の反応は中から1つ。

 僕はナセリア様と頷きあった後、魔力障壁を展開しながら、勢いよく扉を開け放った。

 中に入ると同時に、ナセリア様が部屋に明かりを灯されて、天井から下がるシャンデリアがきらきらと室内を照らす。


「それで、このような事をなさっている説明をしていただけるのですよね、ジョセフィーヌ様?」


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