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パーティーの裏側で

 ナセリア様のおっしゃられた夕食の後という時間は、今日に限っては存在しなかった。

 正確には、僕たちが出かけている間にお城のホールではパーティーの準備が進められていて、その日の夕食はそのパーティー会場で各々が自由にという形式だった。

 僕は会場の警備も兼ねて、以前の感謝祭の時に使用した服を着ていた。

 こういったパーティーに参加できるような服装はそれしか持ち合わせていなかったし、お祭りとは違ってそれほど自由なものではないため、普段着ているような服装での参加など出来るはずもなかった。


「で、こんなところで何しているのよ?」


「何って、もちろん見ての通りだけれど?」


 食事を運んでいると、お客様の案内をしていたらしいユニスが近寄ってきて、大きく溜息をついていた。

 溜息をついていると幸せが逃げてしまうわよ、とフィリエ様も仰っていたし、若くて可愛いユニスに溜息はあまり似合わない。

 でも、ナセリア様はユニスよりもずっと年齢は下でいらっしゃるのに、窓際で物憂げな表情をしながら庭を見下ろして溜息をついているところが似合いそうだなと、どちらに対しても、とても失礼なことを考えてしまっていた。


「そうじゃなくて、ナセリア様のところについていなくていいのって聞いているの。フィリエ様に頼まれたのでしょう?」


 僕たちが観光から帰って来てすぐ飛び出してこられたフィリエ様は、ナセリア様とアルトマン様のご様子を詳しくお尋ねになられた。

 僕は、知っていることに関しては包み隠さず話したのだけれど、話しているうちに、フィリエ様の表情は段々と険しいものになり、たちまちどこかへ走り去ってしまわれた。


「うん。それはそうなんだけれど、僕自身にはアルトマン様に対して思うところはないから、何をどう気を付けていたらいいのか分からなくて」


 フィリエ様は以前からアルトマン様の事をご存知で、その経験から僕に忠告してくれているのだということは分かるのだけれど、如何せん僕の方の知識が足りなさ過ぎて、どう気を付けていればいいのか分からない。


「忠告‥‥‥ねえ」


「何、ユニス」


 ユニスが何だか面白がっているような、決して良いものだとは言えない笑みを浮かべながら、僕の顔をまじまじと見つめていた。


「ユースティア、今私が聞いた限りの判断だから、確証は持てないけど、フィリエ様の言葉は別に忠告じゃなくてただのお願いなんじゃないの?」


「それって何か違うのかな?」


「私にはただフィリエ様がナセリア様を心配しているだけのようにも聞こえるけど? もちろん、フィリエ様のお気持ちが分からないわけではないけれど‥‥‥」


 ユニスは小さく息を吐くと、何だかとても穏やかな、優し気な瞳を向けると、僕の耳元に口を寄せて、小声で告げた。


「ユースティアは男の子だから分からないかもしれないけど、そうね、女の勘ってものかしら。なんとなくアルトマン様からは、言いたくはないんだけど、嫌な感じがしているのよね」


 女性のいう、女の勘というのは案外馬鹿には出来ないものだということを、僕は知っている。

 特に色恋沙汰になると、特に目ざとくなるのだと、以前働いていた酒場や娼館でもなされていた会話からも学んでいた。

 大抵、そういう事柄に関する感覚は、女性の方が男性よりも鋭いもので、フィリエ様、ユニスの感覚の方が僕よりは信頼できるのかもしれない。もちろん、それらは感覚、もしくは感情的な面の問題なので、一概に正しいと言い切ることは出来ないのだけれど。


「分かったよ。僕も注意しておくから」


 娘を溺愛されている国王様のお耳に入ったら、どうなることか想像がつかない。余計な騒ぎにでもなったらナセリア様やフィリエ様が傷つかれるかもしれない。

 フィリエ様やユニスの不安を解消するには、やはり直接現場を押さえるしかない。

 アルトマン様とフィリエ様、どちらを信じるかなど決まっているし、僕が護りたいと思うものも決まっている。

 そもそも、どうして僕は最初からアルトマン様を信じようなどと思ってしまっていたのだろう。

 ここのところ、過ごしていた生活があまりにも幸せで、そういったことに関する感覚が鈍ってしまっていたのかもしれない。

 そうだった。ナセリア様や、リーベルフィアに来てから出会った人たちは基本的に善人だと判断してきていたから気が抜けていたのかもしれない。


「そういえば、あのアルトマン様の秘書だか侍従だか知らないけれど、薄茶色の髪の女性、えーっと、そうそう、ジョセフィーヌ様のお姿が見えないのよね」


 ユニスに言われて、そういえばホールを見回っている間には見つけられなかったなと思った。


「ユースティア」


「うん」


 ジョセフィーヌ様とは直接お顔を合わせているし、会話もした。探索魔法で探すのはわけもないことだった。

 女性に対し使用するのはいささか失礼な気がして、あまり取りたい行動ではなかったのだけれど、ユニスに頼まれては仕方がない。ユニスの言う女性の勘が、どの程度までの正確性を誇るのかは分からないけれど、それがナセリア様とフィリエ様、ユニスの心の平穏のためになると言うのであれば、これ以上躊躇うことはなかった。


「お城の中にはいらっしゃるみたい。えっと、これは、アルトマン様に宛がわれている寝室かな。あ、移動された」


 彼女にもプライバシーというものはあるのではと思ったけれど、ユニスの圧力に押されてジョセフィーヌ様の動向を探ると、どうやらお城の床や壁に魔法陣を施している。

 それほど、いや、この世界の人たちの実力から考えると、何も知らずに抗うのは難しいかもしれない。ましてや、ご来賓の前で魔力防御を展開するような失礼を働くこともないだろうし。

 魔法師団の顧問としては、お城で魔法がこのように使われているのを、黙って見過ごすわけにはいかない。


「どうしたの、ユースティア?」


 この場にはナセリア様とアルトマン様がいらっしゃるので、フィリエ様の命をどうしたものかと考えていると、そのフィリエ様からお声をかけられた。


「フィリエ様。その、ナセリア様とアルトマン様は?」


 僕がお2人の動向について尋ねると、フィリエ様は満面の笑みを浮かべられた。


「そう、ユースティアもお姉様のことが気になるのね!」


「はい。それで、そのことに関係もするのですが、フィリエ様には」


「任せておいて。お姉様のことは私がきちんと見ていてあげるわ」


 フィリエ様はジョセフィーヌ様のご動向をご存知ないはずだけれど、これも女の勘というやつなのだろうか。なんとも恐ろしい。


「だから、お姉様を頼むわよ、ユースティア」


「お任せください」


 僕はお城の見回りに行って参りますと、その場にいた魔法師団の方に会場の方の警備を任せて、ジョセフィーヌ様の下へと急いだ。

 

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