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捕獲には危険が伴い‥‥‥ません

 見張りだった彼らがいなくなってから、まだそれほど時間は経っていない。

 おそらく定時で報告をしていたのだろうけれど、まだ見張りの交代に来るような気配は感じられなかった。

 隠蔽や認識阻害等の魔法を使い、気配や音を消しながら館の中を探索する。気付かれて、ないとは思うけれど、万が一結界を突破されて逃げられるようなことになれば厄介なことこの上ない。

 広間を抜けるといくつかの小部屋が並んでおり、そのうちの1つから明かりが漏れてきていて、中からは男性のものと思われる複数の笑い声が聞こえてきていた。


「おい、そっちはどうだった」


「ああ、予想以上に大漁さ」


「こっちも、たっぷり巻き上げたさ。けど、悪い知らせもある」


「なんだ」


「実は、ここへ戻ってきていないあいつらはこの間新しく就いたっていう魔法顧問に捕まった」


 それまで騒ぐようにしていた男たちが、ぴたりと動くのを止めて、館の中は無音に包まれた。

 他にもあの場にいた、というよりも、かなり上手くあの場から逃げおおせたらしい仲間がいたようで、僕の容姿等の情報が彼らに伝えられてしまった。先の見張りの人たちは僕のことを良く知らないみたいだったためにわずかに油断を誘うことが出来たけれど、この人数、一気に制圧するのは少しばかり骨が折れそうだ。


「それで、ここの事と俺達のことはどうなんだ? ばれてしまったのか?」


「それは分からんが、魔法顧問になるくらいだからこちらの居所くらいはすでに掴んでいるかもしれない」


 実際は、居所を掴んでいるどころか、すでに潜入を果たし、自分たちのいる部屋のすぐ外でこの会話を聞いている、などとは露ほどにも思っていないのだろう。普通に考えればありえないことではあるし、それは仕方のないことなのかもしれない。


「なあに、慌てることはない。仮にここの場所を掴んでいたとして、まとまった人数を動かすにはそれなりの時間が掛かるだろうし、それまでにこの国とおさらばしてしまえばいいのさ。いくらなんでも、オランネルト鉱山やムーオの大森林を越えてまで、たかだかスリごときを相手には追ってはこないだろう」


「そりゃそうか」


 たかだかスリと彼らは言っているけれど、スリだって犯罪には変わらない。彼らにはそうしなければ生きていけないといったような、切羽詰まった、逼迫した様子は見受けられない。

 索敵魔法を使って確認し、扉の隙間から直接肉眼で確かめたところ、どうやらこの館にいるらしい男たちは全員、7人とも目の前の部屋の中に集まっていた。仮面をつけていたりするわけでもなく、特に偽造しようとかそういった意図は見受けられない。最初から露見することが前提で犯罪を始めることはないだろうし、当然なのかもしれない。

 僕は館全体を覆う様に展開していた結界を狭め、この部屋だけを囲う様に構成し直した。これで、例えばこの部屋に隠し通路の入り口があったり、窓をぶち破って逃走を図ろうとしても、確実に捕獲することが出来るだろう。


「こんばんわ」


 意表を突くという意味も込めて、僕はそのままできるだけ爽やかに聞こえるように微笑んで挨拶をしながら部屋の中へと足を踏み入れた。相手は僕より大分年齢が上の大人の男性達だったけれど、武器も腰に下げたり下げなかったりの小さなナイフだけしか見えておらず、別段脅威にはなり得ないだろう。

 狙い通り、僕の事を知ってはいても、見た目だけはまだまだ子供である僕の出現に、男たちはぽかんと口を開いてただじっとこちらを見つめていた。

 彼らは未だ思考能力を取り戻してはいないようで、僕が彼らを捕まえるだけの準備をするには十分な時間を与えてくれた。


「えっと、今の話は聞かせていただきました。状況から見てもあなた方が何らかの窃盗を働いていることは事実と思われます。大人しく捕まってはいただけないでしょうか」


 その場にいる全員が――僕の事を報告していた人も含めて――一瞬固まった後、お腹を抱えて笑い出した。


「おいっ、こいつは今何て言った?」


 目尻に涙までも浮かべながら、机に手をついて笑っている男が仲間の男に確認を取っている。


「どうやらこの坊主は俺達全員を捕まえるつもりらしい」


「そりゃすごい。いーっひっひっひ、ぐえっほえっほ!」


 笑い過ぎて咳き込んでいる方までいる。どうやら、僕が彼らに告げたことは、とても信じられないようなことらしい。


「面白いことを言う坊主じゃねえか。お手並み拝見といこうじゃねえか」


 僕は右手を突き出して、作りだした障壁を勢いよく撃ち出した。

 たちまち、目の前にいた男の1人が吹き飛ばされたようにはじけ飛び、壁に激突して、勢い余って跳ね返り、床に倒れ伏した。


「は‥‥‥?」


「障壁を重ねて打ち出しただけです。派手に吹き飛んだように見えましたでしょうけれど、それほどダメージがあったわけではないのでご安心を。軽い脳震盪だけです」


 僕が、いや、この場にいた誰も、手すら触れていないにも関わらず、吹き飛ばされて気絶してしまった仲間を見て、彼らの顔が驚愕に染まる。


「おい! 今のはなんだ!」


「わからん! おそらくは障壁を使ったのではないかと思うが」


 彼らの中にも魔法師はいたらしい。どうやら自身の気配を絶つ技術だけは相当なようで、人が居るということは分かっても、その中に魔法師がいることまでは気づくことが出来なかった。僕もまだまだ修練が足りないな。


「今は魔法談義をしている暇はありません。聞きたいことがあれば後ほど、国王様の前でお聞きしますので、大人しく捕まってください」


「お? おっ? 何だ? 何なんだ?」


 自身の身体が突然宙に浮かぶ感覚に驚いたのか、彼らは空中でくるくるともがくように回り始めた。

 流石にこの人数を全員同時に持ち運ぶのは疲れそうだ。飛行魔法ではなく、浮遊魔法だけれど、人数が多くなれば、それだけ負担も増すことになる。


「出来ればじっとしていていただきたいのですが」


 僕は建物の屋根を吹き飛ばす。すると、それまでじたばたと動いていた彼らの動きが止まった。どうやら静かにしてもらえるようだ。


「ありがとうございます。僕も一刻も早く戻らなくてはなりませんので」


 そのまま館を文字通り飛び出し、途中で先程気絶させたままだった見張りの彼らを回収し、僕は一直線にお城へと急いだ。



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