表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/217

結婚式 その夜

 結婚式と披露宴を終えて、僕とナセリア様が2人きりになることが出来たのは、夜になってからだった。

 お城の貴賓室が飾り立てられていて、純白のシーツを敷かれたベッドの上にも、絨毯や机や椅子の上、あちらこちらに、赤や白、ピンクの花びらがばらまかれている。

 隣を見ると、シンプルな白い部屋着に着替えられたナセリア様が、ぽーっと頬を染めていらした。

 

「ナセリア様」


 あきらかにそういう事のために飾り付けてくださったのが丸わかりだったのだけれど、とりあえず、まずは身体を清めてからが良いだろうと思ったのだけれど。


「ナセリア様?」


 お声をかけても、ナセリア様は何かおっしゃりたいというようなお顔で僕の事を見つめられているばかりで、僕が何も察していないと分かると、小さく溜息をつかれた。


「これからは私のこと、ナセリアと呼んでください」


 宝石のような金の瞳で見つめられて、少し赤みがかった頬を膨らませられる。

 僕が黙ったままでいると、敬語もやめて、孤児院の子供たちと接するように私にもしてください、とおっしゃられた。

 そ、そうだよね。

 結婚して、夫婦になったんだから、いつまでも敬称をつけていては、対等な関係とは言えないもんね。


「ナ、ナセリア」


 僕も照れていたけれど、自分でそう呼ばせたにも関わらず、ナセリア、は真っ赤になって俯いてしまった。

 正直、物凄く可愛すぎて、もう今すぐにでも抱きしめて、ベッドに押し倒してしまいそうになったけれど、とりあえず、反応を待つしかない。


「ナセリア」


 呼ぶたびに、ナセリアの耳や顔は真っ赤に染まっていって、なんだか段々楽しくなってきていた。


「ナセリア」


「もうっ! 聞こえていますよ!」


 何度目か分からないくらいに、耳元で囁いてみたり、抱きしめてみたり、少し離れてみたりしながらその名前を口にしていると、これ以上はないというくらいにお顔を真っ赤に染められたナセリアに怒られてしまった。


「ユースティアはそんなに私の事を困らせて楽しいのですか? これが噂の鬼畜というやつなんですね」


 どこの噂だ。

 多分、フィリエ様か、ミラさん辺りからの入れ知恵、もしくは何かの本でご覧になられたのだろう。何の本なのかは聞かないけれど。

 しかし、そうして真っ赤になって目の端に涙を浮かべるナセリアも本当に可愛い。


「ナセリアが呼べと言ったんだよ」


 しゃがみ込んでナセリアの頬に手をあてると、くすぐったそうに首をすくめた。


「なんだか、結婚してからユースティアは私に意地悪ですね」


 いやいや、まださっき結婚式と披露宴を終えたばかりだから。


「では、やめましょうか、ナセリア様」


 そう言って離れると、ナセリア様はうぅっと唸りながら「わかっているくせに‥‥‥」と呟かれた。


「ごめんごめん。でも、ナセリアの反応が可愛くて可愛くて、つい」


「うぅ‥‥‥本当に馬鹿です」


 またしてもナセリアはその場に蹲ってしまって、少しやり過ぎてしまったかなと反省した。


「‥‥‥先にお風呂へ行ってください」


「‥‥‥先にお風呂へ向かわれてはどうですか?」


 しばらくの沈黙の後、2人の声が重なって、僕達は顔を見合わせてようやく口元を綻ばせた。


「では––じゃあ、一緒に入ろうか」


 どうせこの後にはもっと恥ずかしいことを––生物的に考えれば全く恥ずかしいことではないのだけれど––するのだからと思って提案すると、ナセリアは身体を硬直させたようだった。


「い、一緒にですか? ユ、ユースティアと?」


 わたわたと、林檎のような頬っぺたを押さえながら頭を振っていたナセリアは、「やっぱりやめておきますか?」と提案するより先に、覚悟を決めた表情で僕を見上げた。


「分かりました。参りましょう」


 貴賓室にはバスルームが備え付けてあって、誰にも見られず、2人で入るには都合が良かった。

 そこでお互いに全てをさらけ出したのだから大丈夫だろうと思っていたのだけれど、どうやらナセリアはまだ恥ずかしかったようで、ベッドに入ってもまだ、真っ白なローブを羽織っていた。


「ナセリア」


「はっ、はいっ!」


 僕の方をまじまじと見詰めながらも、まだ緊張して恥じらっている様子のナセリアが愛おしくて、その額に優しく口づけを落とした。


「まだ覚悟ができていないなら––」


「いえ、もう大丈夫です」


 今日のところはこのまま寝ようかと提案しようと思っていたのだけれど、どうやら余計な心配だったらしい。

 ほんのりと頬を赤く染めたナセリアが陽だまりのように優しく微笑んだので、僕はそのさらさらの銀糸のような髪を優しく撫でて、もう一度キスをした。


「よろしくお願いします、奥さん」


「はい、旦那様」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ