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結婚式と~ナセリア15歳

 ナセリア様が15歳になられた秋、僕達はエイリオス国王様とフェリシア王妃様が結婚式を挙げたのと同じ、お城のすぐ近くの教会で結婚式を挙げた。

 結婚を申し込んだのが年を明けてすぐの春だったのにも関わらず、結局ここまで遅れてしまったのは、フェリシア王妃様のご懐妊が発覚したためだ。

 どうやら僕がナセリア様にプロポーズをしたときには、すでにフェリシア王妃様のお腹の中にはお世継ぎがいらっしゃったらしく、お城も、リーベルフィアの街も、歓喜に包まれた。


「生まれるのは夏ごろになるそうです」


 幸せそのもののお顔でそう報告されたフェリシア王妃様のご宣言通り、エイリオス様のお誕生日とほとんど同時期にご出産なさった。

 お生まれになった赤ん坊は女の子だったのだけれど、エイリオス様もフェリシア王妃様もそれはそれは喜んでいらっしゃって、アルトルゼン様もクローディア様も、お孫様のお顔見たさに、旅先からリーベルフィアまで飛んで戻られた。


「おーよしよし。可愛い可愛い。私は別に次代が女王でも一向に構わんよ。それにしても可愛い可愛い」


 アルトルゼン様は可愛いという単語以外をお忘れになられたかのように、公務に追われるエイリオス様の代わりに、ファメリーゼ王女様をあやし続けられた。


「父上。私だってまだファメにそこまで触れ合う時間をとれていないのに、そろそろ私にも抱かせてください」


「何を言っている。私だって王位に居た頃は、お前たちが生まれてもクローディアに、お仕事が終わってからにしてくださいと言われ続けたんだぞ」


「それでも国王様はよくお部屋までいらしていましたけれどね」


 火花を散らせて睨み合われるエイリオス様とアルトルゼン様を、クローディア様とフェリシア様は微笑ましく見守られていたのだとか。

 ナセリア様はナセリア様で、教員資格をお取りになられて、ウィンリーエ学院で音楽の教師として働き始められた。

 お金を稼ぐのは僕がいくらでも出かけていってしようと思っていたのだけれど。


「それだと今にも増してユースティアがここを離れる時間が長くなってしまうでしょう? 私は出来るだけ長くユースティアと一緒に居たいんです」


 いけませんか? と上目遣いに迫られて、僕に断ることが出来るはずもなかった。

 


 結婚式の日は良く晴れていた。

 どこまでも青空が広がり、デューン様にも祝福されているような暖かな日差しが降り注いでいた。


「本日はおめでとうございます」


 現在孤児院にいる皆はもちろんの事、すでに成長して孤児院を卒業していった皆も、ウィンリーエ学院の教え子さんたちも、エルトリーゼ学院長様も、それからメイリーン様やトゥエルノート様、グリッグ館長様、他にもたくさんの方がお祝いに来てくださった。

 教会にはいらっしゃらなかった方も、街の方ではお祝いをしてくださっているらしく、お祭り騒ぎの歓声や楽器の鳴り響く音が聞こえてきていた。



 アルトルゼン元国王様とそのご家族も、式が始まる前に、わざわざ僕の控室まで来てくださった。


「貴殿がここへ来てからのナセリアの様子を見ていて、いつかこんな日が来るだろうとは予想していた。いつも興味のなさそうな顔でいたナセリアが色々な表情を見せてくれるようになったのは、貴殿と出会ってからだ」


 それから僕の肩を強く掴まれたアルトルゼン様は、何かをおっしゃろうとなさって、口ををパクパクとさせていらしたのだけれど、目元を押さえられながら、「‥‥‥タッチ」とクローディア様の方を振り向かれた。

 あらあらと柔らかく微笑まれたクローディア様は、


「ナセリアはずっとユースティアさんのことが大好きですから。ナセリアのことをどうかよろしくお願いしますね。難しいところもありますけれど、心根は素直な優しい子なんですよ」


 ファメリーゼ王女を抱かれたエイリオス国王様は、


「これからは私もユースティアの家族になることが出来て嬉しく思っている」


「私も国王様と同じ気持ちです」


 フェリシア王妃様と見つめ合われながら、微笑まれた。


「おめでとう、ユースティア。私もそんな風に思い合える相手と結婚するわね。もちろん––いえ、なんでもないわ」


 フィリエ様は、例の結婚相手の理想像を語られることはなく、


「これからはお義兄様になるのかしら? ねえ、ミスティカはどう思う?」


 ミスティカ様は、ご自分でお作りになられたという、小鳥を番で見せてくださった。


「こんな風にナセリアお姉様とも仲良く過ごされて下さい」


 レガール様は、


「‥‥‥おめでとうございます」


 と、僕が魔法をお教えしたことはほとんどなかったのにもかかわらず、落ち着いた声で、さらりとお声をかけてくださった。



 たくさんの方に祝福され、見守られる中で、結婚式が始まった。

 僕がお贈りした真っ白なドレスに身を包まれて、薄いヴェールを被られて、アルトルゼン様と腕を組まれながらいらしたナセリア様は、まさに女神様だった。

 お姿が見えた瞬間、あまりの美しさに、その可憐さに、誰からともなく溜息がもれるのが聞こえた。

 白磁の頬は薔薇色に染められていて、お月様のような瞳はきらきらとした光に溢れていて、花びらのような唇が幸せそうに綻んでいて、本当に幸せそうな、嬉しそうな笑顔をうかべていらした。

 誰もかれもが、ナセリア様に見とれている。

 もちろん僕だって。

 緋色の絨毯を踏まれながら、静かに、ゆっくりと、ナセリア様が僕の方へと近づいて来られる。

 したり顔のアルトルゼン様から、たしかにナセリア様を受け取る。

 ナセリア様が僕を見上げて微笑まれたので、僕も微笑みをお返しした。

 ヴェールをそっと持ち上げて、祭壇の前で、健やかなるときも、病める時も、晴れの日も、雨の日も、いつまでも貴女を愛しますと、苦しみも喜びも2人で分かち合いますと誓い合い、指輪を交換する。

 ナセリア様の左の手首には、金の宝石が輝く腕輪が嵌められていた。

 厳粛な空気の中で、小鳥たちのついばみのようなキスを交わす。

 周りから歓声と、たくさんの拍手が沸き上がった。


「おめでとう!」


「幸せにね!」


 銀色の結婚指輪をはめるために、ナセリア様の瞳を見つめたまま、ほっそりとした手をとった。

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