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嵌められた罠~ナセリア14歳

 エイリオス様の戴冠式が執り行われ、正式に109代リーベルフィア王国国王の位を継がれてから、リーベルフィアの熱は冷めることなく、飛ぶように季節は過ぎ、気がつけばいつの間にやら年が明けていた。

 

「このドレス、本当に素敵で、私、大好きです。ありがとうございます、ユースティア」


 純白の、ヒラヒラのドレスを纏われたナセリア様に、何度目か分からない感謝を告げられる。

 ナセリア様がお召しになっていらっしゃるドレスは、ナセリア様の14歳のお誕生日に僕がお贈りしたものだ。

 直前のエイリオス様とフェリシア姫様の結婚式に影響を受けていたのか、何をお贈りしようかと考えていた時、真っ先に、というよりも頭の中に浮かんだのは、宝石でも、アクセサリーでもなく、真っ白なドレス姿のナセリア様だった。


「喜んでいただけたのでしたら幸いです」


 裁縫に関しては多少腕に覚えがあったし、ドレスを選んだことに対する後悔はしていないのだけれど、毎度、この孤児院にいらっしゃる度にそのドレスをお召しになっていらっしゃるナセリア様を見るたびに、そのきっかけとなったフェリシア姫様の結婚式での姿と重なってしまい、自分でデザインして贈ったにも関わらず、むき出しの真っ白なうなじや、首筋から鎖骨、肩にかけての優美なライン、信じられないほど滑らかな素肌を、どうにも意識せずにはいられなかった。

 お城に出向いて、メイドの皆さんに、普段ナセリア達の服を作られている際の型を教えていただいて、お城にいらっしゃるナセリア様に内緒にしながら作るのは結構大変だったけれど、お贈りした際のナセリア様の幸せそうなお顔と、こうして実際にお召しになられた姿がとても嬉しそうで、見るたびに、恥ずかしさと共に、それに倍する嬉しさもこみ上げてくる。

 ナセリア様は、そのお礼にと孤児院を訪れてくださった際に、同じく真っ白なレースのカーテンを持ち込まれて、孤児院の、僕の部屋の窓にかけられた。


「いけませんか?」


 ヴェールのようにカーテンを被り、ふわりと振り向かれたナセリア様のお姿に見とれてしまっていた僕は、断ることなど出来るはずもなく、以来、こうして孤児院と、僕の部屋を訪れられるたびに、そのようにカーテンと戯れられるナセリア様に動揺させられっぱなしだった。


「ナセリア様。私はまた明後日から出かけようと思っておりますので、その際はくれぐれもご注意ください」


 僕は今でも国内外を問わず出かけていって、同じような境遇の子供たちを連れて帰るということを続けている。

 それこそ、僕がお城に残るわけにはいかなかった理由であり、代償行為だと言われようとも、止めることなど出来ない、僕の為すべきことだと思っているからだ。


「心配してくれてありがとうございます、ユースティア」


 ナセリア様は、いつまでも子供ではありませんから、とは口には出されなかったけれど、大人っぽい表情で微笑まれ、またドキリとさせられた。

 そんな日々が続き、たまたま僕がヒエシュテイン皇国の方へ出向いていた時に、丁度こちらへいらしていたらしいルルーウィルリ様とリンデンブルムさんとも再会したりもした。


「ユースティア、また会ったのう」


 お久しぶりですとご挨拶をさせていただくと、御ふた方には首を傾げられた。

 人間の感覚で言えば4,5年ぶりといえば大分久方ぶりの事になるのだけれど、同じ時間感覚で生きてはいらっしゃらない竜の皆様にとっては、つい先日のことという認識であるらしかった。

 まあ、何千年も生きられるらしいので、そのうちのたかだか数年など、僕達にとっての数日ぶりくらいの感覚なのかもしれない。


「お主はもうあの銀の娘と番になったのか?」


 開口一番でルルーウィルリ様が仰られたのがそれだった。

 そういえば、初めてお会いした音楽祭のときにも、出逢ってすぐの僕に子供が作れるとか何とかおっしゃられていたけれど。


「ん? あの時の人間の王、たしかアルトルゼンと言ったか、奴の話では時間の問題だという事だったのだがのう」


 あの時前国王様がなさっていたのはそんな話だったのか。

 てっきり、もっと、こう、お知りになりたがっていたような、人間社会の文化とかに関する話だと思っていたのだけれど。


「気に入った雄、お主の場合は雌か、がいれば、番って子供をぽんぽこ産むものではないのか」


 お主は人間の中では最も才あるものであろう? とルルーウィルリ様は不思議そうに首を傾げられた。


「我らの国でも、強い雄や雌にはいくつも所帯があるぞ」


 無論我にもな、とルルーウィルリ様は何でもないことのように告げられた。

 竜の世界の常識で人間社会の事を語られても困るのだけれど。


「ルルーウィルリ様、才と申しましても、私共の世界には色々とございますので」


「お主はあの娘に対して魅力を感じていないと? 子をなそうとは思っていないという事か? 関係を持つつもりはないと?」


「––っそのような事‥‥‥」


 人間とは相も変わらず不思議な生き物じゃと言い残されたルルーウィルリ様は、これから大戦に赴くのじゃ、またの、と言い残して飛び去って行かれ、リンデンブルムさんが礼儀正しく一礼されて、その後を追って行かれた。


「子供って––うわっ」


 先日の純白のドレスを纏ったナセリア様のお姿がフラッシュバックして、そしてそれ以上の具体的な想像をしてしまいそうになり、危うく墜落しかけたりもした。

 もちろん、孤児院に戻った際には、やはりいらしていたナセリア様のお顔を正面から見ることが出来ず、困った思いをさせられた。


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