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感謝祭 2

 姫様たちは、というよりもフィリエ様は、子豚のレースを観戦されたり、甘い果実の蜜をかけた胡桃や、ふわふわのクリームをたっぷり乗せたパンケーキを召し上がられたりして、大層お祭りをお楽しみになっていらっしゃるご様子だった。


「ユースティア! 次はあれよ、あれがいいわ!」


 フィリエ様がとても次から次へと指を差され、僕たちは鰻掴みやくじ引きだったり、木彫りの面をつけたりして、立ち並ぶ屋台の間を堂々と練り歩いた。


「あー、やっぱり王女様は希代の美少女だよなあ」


「本当にお姫様みたい。あっ、みたいじゃなくて、本当にお姫様なのよね」


「あら、レガール様も素敵よ。あのお歳で随分としっかりなさっているし。あの方が将来国王様として国を統べられるのだから、リーベルフィアは安泰よね」


 などといった会話が其処彼処から聞こえてくる。話をしている皆さんは聞こえていようといまいと関係ないといったご様子だったし、エイリオス様は緊張されてか、少しばかり動きがぎこちなくなっておられたけれど、フィリエ様は、あたしが可愛くて素敵なのは当然よ、とばかりに薄い胸を張って得意げなお顔をなさっていた。ナセリア様はいつもと変わらず、いや、いつもより少しばかり頬を赤く染められている様子だったけれど、それ以外に気になるところは見つけられなかった。


「エイリオス様、ナセリア様、おふたりはフィリエ様のように何か食べたいものでも、したいことでもありませんか?」


 こんな風に賑やかなお祭りには参加できたことはなかったけれど、小さな身体で命一杯楽しんでおられるフィリエ様は本当に楽しそうなお顔を浮かべていらっしゃるので、出来ればエイリオス様とナセリア様にも同じように楽しんでもらいたかった。


 楽しめるときに楽しむのは、本当に素晴らしいことで、きっといつになっても変わらず大切な思い出として心を温かくしてくれるだろうから。


「ナセリアお姉様」


 両手いっぱいにお菓子の棒や袋を抱えていたフィリエ様は、それらを一旦僕に預けられると、ナセリア様の手を引かれて、歩いていってしまわれた。

 フィリエ様が向かわれたのは商品の横に高かったり、太かったり、小さかったりする、色々な棒が立てられているお店だった。


「次は一緒に輪投げをしましょう、ナセリアお姉様。ほら、あのリングなんて格好良くて素敵よ」


 フィリエ様はちらりと僕へと視線を向けられると、悪戯っ子のように微笑まれて、


「ユースティアが新しく魔術顧問になったお祝いに、あたしがとってあげるわ!」


 お店を開いている男性に1枚の金貨を渡された。


「フィリエ様、申し訳ありませんが、こちらではお使いになりません」


 店主の男性が大変申し訳なさそうに頭を下げられたけれど、フィリエ様はどうしてなのかよく分かっていらっしゃらないようなお顔をなさっていた。


「え? どうして? これってお父様が渡してくださった硬貨よね? 大陸で流通している物は共通だってお父様は仰っていたわ」


 一般的にかどうかは怪しいけれど、リーベルフィアで流通している硬貨は金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨の5種類だ。これは大陸中で共通しているのだけれど、各国ごとに微妙に意匠が異なる。リーベルフィアで作られている物には、星の形が彫り込まれていた。


「ええ、もちろんです。これは立派な金貨で、混じりけ無しの本物です。これ1枚で私達は、普通に暮らせば1年は十分家族を養うことが出来るでしょう」


「じゃあ、なんで使えないのよ」


 言い争いというほどではなかったけれど、フィリエ様が興奮した様子で話されるので、気になったらしい見物人に僕たちは囲まれつつあった。


「私の店では、これにお釣りをお出しすることが出来ません。ここの景品を全て買い取っていただいても、それでもお釣りをお渡しすることが出来ないのです。このままでは私は詐欺師として捕まってしまいます」


 僕が銅貨を渡すタイミングを逃したせいで、大分大事になってしまっていた。僕が今更銅貨を出せるような雰囲気でもないし。

 どうしたものかと困っていると、ナセリア様が、


「ユースティア、私に銅貨を」


 冷静な口調で、ひんやりとした目を向けていらした。

 僕が袋から銅貨を探してお渡しすると、ナセリア様は、それを手にしてフィリエ様のところまで歩いて行かれた。


「申し訳ありませんでした。こちらでよろしいでしょうか?」


 とても9歳の女の子とは思えない、落ち着いた物腰と口調で、神秘的な金の瞳を持つ、類稀な美少女であらせられるナセリア様が告げられるものだから、店主様も圧倒されていらっしゃるご様子で、


「ああ、ええ、はい」


 と、どもりながら銅貨を受け取られ、代わりに輪っかを手渡された。


「これで出来るのね!」


 フィリエ様が張り切っていらっしゃる横で、ナセリア様も同じように輪っかを手に取られて、じっと正面とご自身の手を見つめていらっしゃった。


「ナセリア様?」


 僕が声をかけても、ナセリア様は集中しているご様子で、おそらくは距離や角度を測っていらした。


「ユースティア、申し訳ありませんが、少し喋らないでいてくださいますか? 今、距離と角度、風向きと力加減を調整しているので」


 真剣な顔つきで言い切られ、僕はフィリエ様とナセリア様から少し離れて、


「エイリオス様もご一緒に、は無理なようですから、ナセリア様とフィリエ様の次にでもなさってはいかがですか?」


 と勧めると、エイリオス様は、


「え、ああ、そうだな。王たるもの、国民に混ざって国民の事を知らねばならないというのが父上のご意向だったし、こういったことも体験しておくことは悪いことではないのかもしれないな」


 と、少し早口でおっしゃられた。

 エイリオス様が髪飾りやリングなんかの装飾品を欲しがるとは思えないから、きっと王妃様に贈り物をしたいのだろう。


「きっとクローディア様もお喜びになられますよ」


 僕がそう告げると、エイリオス様は、そうか、と若干頬を染められて頷かれた。

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