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ラノリトン王国 リーリカ姫のお誕生日~ナセリア13歳 7

 人の間を抜けて会場の舞台まで辿り着くと、すでにナセリア様はたくさんの方に囲まれていらした。

 先程、演奏をされる前にもいらしていた方達で、おそらくは演奏の感想などを告げられているのだろう。

 どなたも、甘い表情をしていらして、ナセリア様の気を引こうとなさっていることはあきらかで、お声をかけようとしていた僕の足はその場で止まってしまった。

 傍までいってお声をかけなければダンスのお相手など申し込むことすら出来ないというのに、僕にはそれを眺めていることしか出来なかった。

 昨年の、リディアン帝国へ行ったときにも同じような光景を、僕は今と同じように遠巻きにして眺めていた。

 その時のナセリア様はどうだったのだろうか。

 僕がロヴァリエ王女のダンスのお相手を務めさせていただいて、その間、ナセリア様はあいさつ回りをしていたのだと拗ねていらした。

 けれど、今のナセリア様は、少なくとも拗ねてはいらっしゃらないようで、笑顔を浮かべてはいらっしゃらないまでも、丁寧にお相手をしていらして、僕は胸のあたりに鈍い痛みが走ったような錯覚がした。

 どなたも、ナセリア様のお手をとろうと一生懸命だ。けれど、それをどうこうとは思わないし、むしろ、ご自分の意思を伝えることが出来ている彼らをすごいとさえ思う。


「何をしているんですか、本当に」


 いつの間にやら会場に戻られていたリーリカ姫様が僕の隣で呆れられたご様子でため息をついていらした。


「彼らをかき分けてナセリア姫の手をとる気概はないのですか? 今はまだ男性の方が争っていらっしゃいますけれど、ナセリア姫も、たとえ相手がユースティア様でなくとも、正式なお申し込みで、礼儀を守っていらっしゃれば、差し出された手をとらないようなことはないと思いますよ」


 リーリカ姫様は僕のことを悪戯気な笑みで見上げられて、


「私としては、ここでユースティア様がナセリア姫の手をとられず、私の手をとってくださるのでしたら、それは嬉しいことですけれど‥‥‥冗談ですよ。ユースティア様は、ナセリア様のあの手をどなたにも渡したくないと、そう感じていらっしゃるのでしょう?」


 それを恋と呼ぶのではないのですか。

 不意に柔らかくて温かい瞳で僕の事を見つめられたリーリカ姫様の言葉に僕が呆けていると、「えいっ」とリーリカ姫様が僕の事を両手で押し出されて、笑顔で手を振られた。

 殆ど真っ白な意識では、突然のことに踏ん張ることも出来ず、たたらを踏みながら、僕はナセリア様の前まで進み出てしまっていた。


「ユースティア」


 ナセリア様が驚いていらっしゃるようなお顔で僕の事を見上げられる。

 他の方が状況に慣れて口を開かれる前に、身体に沁みついていた動作で膝をつくと、急いで口を回らせた。


「ナセリア様。最後のダンスのお相手は私に務めさせてはいただけませんか」


 ナセリア様の宝石のような金の瞳が大きく見開かれて、それからすぐに柔らかく、優しく、嬉しそうに細められた。


「はい。喜んで」


 そのままナセリア様の差し出してくださった手をとって、ホールの真ん中まで進み出る。

 

「リーリカ姫のお誕生日を祝うものであるはずなのに、どうして皆さん、私の方にいらっしゃるのでしょう?」


 優雅にステップを踏まれながら、ナセリア様は、少し疲れましたとおっしゃられた。


「それだけナセリア様が魅力的だという事ではないですか」


 ナセリア様は急にお顔を上げられて、僕の顔を見つめられながら何度も瞳を瞬かせられた。


「えっと、その、それは、ユースティアから見てもそう思いましたか?」


 口を開かれたナセリア様は、途中でお顔を林檎のように真っ赤にされて、最後の方は本当に消え入りそうだった。


「はい。私にとっては、ナセリア様は、もうずっと前から、とても魅力的に、素敵な女性に見えています」


 ナセリア様が握られている手や、背中に回された手にぎゅっと力が入れられる。

 そわそわとなさっていらっしゃるように、コロコロと表情が変わり、視線も忙しなく宙を彷徨わせていらっしゃる。

 そんなナセリア様を独り占めにしていたいと思うし、僕だけにもっと色んなお顔を見せて欲しいとも思う。


「それって––」


 ナセリア様は彷徨わせていらした目を恐る恐るといったご様子で定められ、潤ませられて、じっと僕を見上げていらっしゃる。


「ナセリア様。私、いえ、僕は––」


 そこで周りから歓声と、大きな拍手が起こり、はっと我に返った。

 どうやらダンスの時間は終了していたらしい。

 以前、お城の図書室で読んだ物語のように、魔法が解けてしまったかのように、僕は今まで用意していた答えを告げることが出来なかった。

 なんとなく、繋がれていた手を離してしまい、1歩退いて頭を下げる。

 ラストダンスが終了し、パーティー自体もリーリカ姫様とオズワルド様の締めの言葉でお開きになったのだけれど、僕の身体が持った熱はしばらく冷めそうになかった。

 

 

 

 

 

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