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ラノリトン王国 リーリカ姫のお誕生日~ナセリア13歳 5

 ◇ ◇ ◇



「ようこそお越しくださいました。招待状を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


 朝食を終えた僕は、お城の正門で、リーリカ姫様のお誕生日のパーティーに出席なさるためにお越しくださったお客様の案内をさせていただいていた。

 ウェイラム様にも、ソリトフィア様にも、オズワルド国王陛下とシルフィーナ王妃様にも、それからリーリカ姫様にも、そのようなことはしなくていいと言われたのだけれど、何もせずにただご飯を頂いたりするのはどうも落ち着かない。

 城内は城内で当日の準備に忙しそうだったのだけれど、とりあえず、最初は手伝わなくとも大丈夫そうに見えていたので、今まさに人手が必要だろう案内の係を務めさせていただけるよう申し出た。

 公侯伯以上の貴族の方がラノリトン王国中各地、或いは国外からもいらっしゃって、お城の門の前の道は先が見えないほどに長い列が形成されていた。

 これが酒場や組合だったりしたのであれば、押し合いへし合い、罵声雑言が飛び交ってもいたのだろうけれど、さすがにこちらにいらっしゃる方でそのようにはしゃいでいらっしゃる方はいらっしゃらなかった。


「はい。ペイラー・エアクレール様。確認させていただきましたので、これよりご案内いたします」


 招待状を確認して、門の中へとお通しすると、そこから先はこちらのお城のメイドさんに案内していただけるようにお引継ぎをお願いしている。

 僕がしなくてはならないのは、ご本人様の確認と、不審者や不審物の持ち込みなどのチェックだ。

 これだけ人が集まるのだから、どさくさに紛れて良からぬことを企んでいる方がいらっしゃらないとも限らない。以前僕がこちらを訪れる原因となったこととはあまり関係はないかもしれないけれど、それがなくとも、用心するに越したことはない。

 失礼にならない程度にお引止めして、探知の魔法で馬車と荷物の中、それからご本人様を確認させていただく。あまり仰々しくすると不快に思われるかもしれないので、素早く、招待状の確認と同時くらいの速さで魔法を併用して、チェックを終わらせる。

 僕の事をご存知でいてくださる方も中にはいらっしゃって、尋ねられたことに対して対応させていただきたかったのは山々だったのだけれど、数が数だったうえ、おひとりずつに対応していては確実にさばききれないと思っていたので、申し訳なく思いつつも、後程とお約束をさせていただいて、ご案内の方を優先させていただいた。

 ようやく一息付けた頃にはすでにパーティーが始まる直前というところだった。


「ありがとうございました、ユースティア様。大変助かりました」


「後は私共だけでも大丈夫ですので、どうぞ会場へお戻りください」


 一緒に対応していた皆様からお声をかけていただいて、そういえば僕はパーティーに出席者として招待されていたのだと、今更ながらに思い出した。

 本当に忙しくて、案内している最中にはそんなことすっかり頭から抜け落ちていた。


「ユースティア様がいらっしゃるのを、姫様は本当に心より楽しみに、待っておられましたから」


 お誕生日ということを抜きにして考えても、招待してくださった方の意向に添えないようでは、それこそ招待された意味がない。

 門兵の方と、まだいらっしゃるかもしれない方へ対応される方に、ありがとうございますと頭を下げ、僕は急いで会場へと向かった。



 会場が近付くと、中からは大きな拍手の音が聞こえてきていた。おそらく、リーリカ姫様が挨拶を終えられたのだろう。

 それからグラスの重なるような音が聞こえてきて、一気に会場の方は賑やかさを増したようだった。


「お誕生日、まことにおめでとうございます、リーリカ様」


「リーリカ様、この良き日にこうしてご挨拶をさせていただけたこと、とても光栄に思います」


 ご当人でいらっしゃるリーリカ姫様は会場の中心付近で、それは大勢の方に囲まれていらして、お声が聞こえなかったのならば、普通にどこにいらっしゃるのかの特定は難しかったことだろう。

 リーリカ姫様の隣にいらっしゃるオズワルド様を除いて、姫様方は舞台のような壇の上で、ウェイラム様、ソリトフィア様、シルフィーナ様とご一緒に談笑なさっていらした。

 そちらを見た際、ナセリア様と目が合ったのだけれど、これから僕が壇上に上がるのも変だろうと思って、壁にでも寄りかかって警備でもしていようと思っていたのだけれど。


(ユースティア、どうして来てはくれないのですか)


(申し訳ありません、ナセリア様。ご挨拶でお忙しそうにお見受けできたので)


 リーリカ姫様ほどではないにしろ、壇の上でウェイラム国王陛下、ソリトフィア王妃様とお話をなさっているナセリア様達のところへもひっきりなしにお客様が訪れられてはお話しをなさっていらっしゃるご様子だった。

 ラノリトン王国でも名のある芸術家の方だとか、立派なお家柄の貴公子の方だとか、もちろん、大陸でも最大の国家であるリーベルフィアの王女様、あるいは王子様とのパイプを作りたいというお考えの方もいらっしゃるのだろうけれど、それ以上に、ナセリア様にご興味があるのだという様子の方々が、その方達の事を見ているだけで悟ってしまえるほどで。

 自分でも、随分と嫌味な言い方だったと思う。

 けれど、発してしまった念話は取り消すことはできないわけで。

 なんでそんな言い方をしてしまったのだろうと後悔していると、お客様からも心配するようなお声をかけられてしまった。


「ユースティア様。お加減でも優れないのですか?」


「いえ、なんでもありませんよ。ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません」


 僕の事で、せっかくパーティーにいらしている方の気分を害したくはない。

 何でもありませんと笑顔を浮かべて、学院の魔法学科に通われている学生なのだという女性や、教員の試験を受けるのだという女性の方達などとお話をさせていただいていると、やがてホールが片づけて広げられて、ダンスを踊るための場が設けられていた。


「リーベルフィア王国第一王女、ナセリア・シュトラーレスです。お越しくださっている皆様と、リーリカ姫のお誕生日を祝して、演奏させていただきます」


 ナセリア様の演奏が会場中に響き渡り、申し込んだり、申し込まれたりでダンスを踊られる方、優美な演奏に耳を傾けて感心なさっていたり、うっとりなさっている方、豊かに広がるヴァイオリンの調べが出席者の方の心をとらえていた。


「素晴らしい演奏ですね」


 そんな中で、いつの間にやらリーリカ姫様が僕の隣までいらしていた。


「踊ってくださいますか?」


 もちろんです、光栄ですと、僕はリーリカ姫様の前で膝をついた。



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