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リディアン帝国への招待~ナセリア12歳 2

 念話の魔法にも制限はあるらしい。

 僕は自分で使う分には困ったことがなかったので失念していたのだけれど、当たり前のことで、どうやら個人の魔法の力量に左右されるらしく、それは距離や人数にも関係してくるらしかった。

 というのも、リディアン帝国に近付いて、丁度国境の管理をなさっていらっしゃる方のところを通り過ぎたところで、ロヴァリエ王女からの念話が届いたからだ。


『––ティア! 良かった、やっと繋がったわ』


 ロヴァリエ王女は心底ほっとしたというようなご様子で、念話からも随分と安堵したというような感じが伝わってきていた。

 中途半端な名前の呼ばれ方をしたせいで、思い出したくない記憶を思い出してしまいそうになったけれど、ロヴァリエ王女のご様子が僕なんかよりもずっと切羽詰まっていらっしゃるようで、僕の方は冷静に対応することが出来た。

 僕のあの姿を知っているのはナセリア様を含めてごくわずか、まさかリディアン帝国の王女様がご存知であるはずもないだろう。


『お久しぶりでございます、ロヴァリエ王女。どのような問題が発生しているのでしょうか?』


 ロヴァリエ王女の口ぶりでは随分と急ぎの、それも重大な問題が起こっているようだけれど、馬車から見えるリディアン帝国の街並みや道行く人たちの様子からは、ラノリトン王国で起こっていたような問題が発生しているようにはとても思えなかった。

 どちらかと言えばその逆で、一部の年頃の男性を除き、どなたも喜んでいらっしゃる、もしくはお祝いでもなさっていらっしゃるような表情を浮かべていたり、なにかお祭りでも行われるのでは、或いは実際にお祭り騒ぎを起こしているのではとも思えるような状況だった。


『お父様が私に結婚しろって言うのよ! 相手は‥‥‥えーっと、何て言ったかしら、とにかく大問題なの!』


『はあ、婚約ですか』


 想像していたのとは斜め上の状況に、返事がなおざりになってしまった。

 ロヴァリエ王女は、僕が魔導書の初版を発行した際、リーベルフィアにいらしたときに御年17歳。今ではおそらく19歳になっていらっしゃると思われるので、王家の子女としては、各国の歴代王族の家系図を見ても、丁度良い年齢、むしろ少し遅いのではとも思われる。


『それはおめでとうございます』


『冗談じゃないわ!』


 これが念話であって本当に良かったと思う。

 どれ程の気持ちを込められたのか、頭の中が直接揺さぶられているかの様な大音声に、直接声を聞いているわけではないので意味はないと分かってはいても、思わず耳を塞いでしまいたくなった。

 どこの誰とも分からない相手と結婚なんて、とかなんとか、おそらくは今まで喋るお相手がいらっしゃらなかったのだろう鬱憤を僕へとぶつけてきていらっしゃるご様子だった。


『‥‥‥というわけよ。ユースティアだってひどいと思うでしょう? ちょっと、聞いてる?』


 要約するとこんなところだ。

 ロヴァリエ王女のお母様、現リディアン帝国のお妃様がご出産なさった。

 それはそれは玉のように、眼に入れてもいたくないほど可愛いということで、ロヴァリエ王女も、お父様、お母様とご一緒に大層喜ばれたらしいのだけれど、生まれたのは妹君であったらしい。

 男の子でいらしたのであれば国王様、もしくは王宮のどなたかが補佐をなさるという形で、しっかりとした意志をお持ちになられるまでお待ちになるという選択肢もあっただろう。

 しかし、国王様もそれなりのお歳ということで、これ以上のお子は望めないかもしれない。そして、ロヴァリエ王女の妹君、レスメルティ様が王女として起たれるようになるまでには、少なくともあと10数年はかかるだろう。それでは、帝国の行く末にも不安がある。

 そこで、ロヴァリエ王女に位を譲ることにされたという事らしい。

 事情は分かった。けれど。


『あの、ロヴァリエ様』


『何よ』


『ロヴァリエ様は今までご兄弟姉妹はいらっしゃらなかったのですよね?』


『そうよ』


『では、いずれは女王として即位しなければならないということも、当然お分かりだったはずでいらっしゃいますよね?』


 ロヴァリエ王女がここでいくら世襲に反対したところで、では、突然他のどなたかをお連れしてきて、『今日からあなたが国王です』ではさすがに問題があり過ぎるだろう。

 正論だったのか、ロヴァリエ王女は黙ってしまわれて、こういう事になるとお父様はお母様より全然だめなのよね、とぼやかれながら念話をお切りになられた。


「随分と黙り込んでいましたけれど、何かあったのですか?」


 ナセリア様に尋ねられたので、僕は今のロヴァリエ王女との念話をかいつまんで要点だけお伝えした。


「そうですか」


 ナセリア様は少し眉を動かされて、


「ユースティアは気にしなくても良いとは思いますが、注意だけはしていてくださいね。あなたは女性のこととなると警戒が薄くなるようですから」


 わずかに喜んでいらっしゃるようなお顔を浮かべられた後、窘められるようにそうおっしゃられた。

 やはり、ご友人のお祝いだからだろうか。それと、そんなに僕は女性に対して甘くなるように思われているのだろうか。


「何はともあれ、目的は芸術祭です。本場であるリンウェル公国とは比べられないかもしれませんが、他国の文化に触れることのできる大切な機会です。私も演奏させていただけるみたいですから、ユースティアも舞台で、一番近くでちゃんと聴いていてくださいね。また、この前のように、直前に事件に巻き込まれたりしないでくださいね」


 以前のルルーウィルリ様の件があるので、確実にとは言い難いものがあるけれど、ナセリア様の生演奏を特等席で拝聴させていただけるというのはとても光栄なことだ。昨年はどうにか間に合ったけれど、今年はどうなるか分からない。

 もっとも、同じような事件など、そう立て続けに起こるはずもないとは思うけれど。


「舞台袖というのは無理があるのではないでしょうか」


「付き人という事でしたら問題ないかと思われます」


 ナセリア様はさらりと言ってのけられた。

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