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お城での遊びへの招待~ナセリア11歳 5

 久しぶりにお顔を合わせた庭師の方に訪ねながら庭の裏手を回って歩いてゆくと、噴水の縁のところにナセリア様は座っていらした。

 招待されている子供たちは表の庭の方でフィリエ様達がお相手をなさっていらっしゃるため、周りにはどなたもいらっしゃらない。

 陽の光を受けてきらきらと光る噴水を反射して、ナセリア様の肩口で綺麗に整えられた御髪が、さらさらと風に揺られながら、銀細工のように輝いていらっしゃる。

 この後の練習でもなさろうとされていたのか、手にはヴァイオリンを構えていらした。

 邪魔をしては悪いかと思って、建物の陰から終わるまでお声をかけずに見守ろうと思ったのだけれど、僕が来たことにお気づきになって一瞬こちらへお顔を向けられたナセリア様は、ぱあっと笑顔を浮かべられかけたけれど、慌てたようにツンと視線を落とされた。

 けれど、弓を動かされようとはなさらないので、ヴァイオリンを弾かれるつもりではないらしかった。


「ナセリア様」


 ナセリア様は動かれるおつもりがないようで、このまま見ているだけでは頼まれごとを完遂するのは難しい。

 今の僕はお城に使えている従者ではないのだけれど、気持ちはあの頃に戻ったみたいだった。


「皆様、すっかり準備も済まされていて、ナセリア様がいらっしゃるのをお待ちになっていらっしゃいますよ」


 フィリエ様の念話をいただいたので、あちらの様子は把握できている。

 身内だけの––招待された家のご友人の方々を身内と呼ぶのは違う気もするけれど––パーティーとはいえ、いや、だからこそ、家族が、ナセリア様が揃われるのを待っていらっしゃるのだろう。

 ナセリア様は、その場で何を優先させるべきか、いつも冷静な判断をなさる。今回のことだって、ご自身が向かわれなければ会が始まらないだろうということは十分にご理解なさっていらっしゃるはずだ。


「フェリシア姫がいらしているのですから、エイリオスとのことが話題になって、可愛らしくない私など居なくても楽しく進行しているはずです」


 ナセリア様がおそらくは思ってもいらっしゃらないことを口にされる。

 たしかにナセリア様のことは他のご兄弟と比べて大人びていらっしゃるとは思っているし、可愛いというよりは綺麗だという雰囲気だと言ったことはあったと思うけれど、可愛らしい方ではないと思ったことはない。

 先程の僕の言葉でナセリア様は拗ねていらっしゃるのだろう。

 言われるまでもない事だったし、そういうつもりで言った言葉ではなかったけれど、やはり女の子にとって、可愛くないと言われるのは傷つくことだったのだろう。

 

「ナセリア様がいらっしゃらないと、私も寂しいです。子供たちも皆、ナセリア様にお会いできることを楽しみにしていました」


 僕の意見がどれほどナセリア様に影響を与えることが出来るか分からないけれど、ナセリア様がこちらにいらっしゃる原因を作ってしまったのは僕であるようだし、この場には僕とナセリア様しかいらっしゃらないので、僕の気持ちを正直に伝えるしかない。

 もちろん、念話を中継すればフィリエ様達のお声を届けることも出来るだろうけれど、僕に任されたことなので、楽しんでいらっしゃるだろう皆様のお手を煩わせるわけにはいかない。


「‥‥‥わかりました。今日の主役はエイリオスですから、私の個人的な気持ちで台無しにすることは、私も本意ではありません」


 僅かな間の後、再び余所を向かれていらしたナセリア様は小さく溜息を1つつかれると、立ち上がって僕のところまで歩いていらした。


「けれど、ユースティア。フェリシア姫は私たちの友人であるのと同時に、エイリオスの想い人でもありますから、くれぐれも変な気は起こしたりしないでくださいね。フェリシア姫が心変わりでも起こされたら、リーベルフィアの未来が心配ですから」


 変な気とはどんな気だろう。

 それに、心変わりって、そんな心配はいらないと思うのだけれど。


「聞いていますか、ユースティア?」


「はい、勿論です、ナセリア様」


 宝石のような金の瞳を細められたナセリア様が、真下から上目遣いに睨みつけるように僕のことを見上げていらしたので、僕は慌てて答えた。わずかに染まった、少し膨らませられた頬が可愛らしい。そんなこと、口が裂けても言えないけれど。


「それから、こちらの手紙を預かっています。対外的にはあなたはまだリーベルフィアの魔法顧問となっていますから、お城へ宛てられたのでしょう」


 ナセリア様がわずかに困っているような、躊躇うようなお顔をなさりながら、収納されていらしたらしい封筒を取り出された。

 一応、僕の肩書としては、辺境伯というもののほかに、リーベルフィア王宮の終身名誉顧問というものも、大々的に国中に周知されてはいないだろうけれど、存在している。

 なので、魔法顧問のユースティアに宛てられた手紙を受け取ることも、あながち間違ってはいないともいえるかもしれない。


「2通ありますね」


 差出人を見てみると、リディアン帝国からのものと、ラノリトン王国からのもので、気が早すぎるとは思うけれど、リディアン帝国からは秋口のナセリア様のお誕生日の少し後に行われる芸術祭へのお誘い、ラノリトン王国からは、冬に行われるリーリカ姫のお誕生日パーティーへの出席を問うものだった。そのわりには、選択肢は1つしか用意されていなかったけれど。

 普通、こういったものは「はい」か「いいえ」で出席を確認するものだと思うのだけれど、僕へ宛てられた手紙では「いいえ」の選択肢がなく、代わりに「必ずご出席ください」と明記されていた。


「勿論私のところへも届けられました」


 ナセリア様がご自身の分を取り出して見せてくださる。


「私は、リーベルフィアでも感謝祭や音楽祭がありますけれど、お誘いいただけたことは嬉しいので出席するつもりでいます。エイリオスはおそらくフェリシア姫を誘われるでしょうから、こちらに残るはずです」


 ユースティアはどうしますかと尋ねられ、僕は一瞬考えた。

 

「まだ時間はありますからゆっくり、そうですね、私の誕生日くらいまでには返事を考えておいてください」


 そろそろ行きましょうと、ナセリア様は考えている僕の手を引いて歩いてゆかれた。



 ナセリア様と一緒に表の庭の方へと戻って来ると、僕達の姿を見つけた子供たちが駆け寄ってきた。


「ユースティア、あのね、聞いて」


「まほうがね、こう、ばーっと、すごいの!」


「フェリシア姫様とエイリオス様はとっても仲がいいの!」


 子供たちが口々に、見たこと、聞いたこと、感じたことを、目を輝かせて語ってくれる。


「喜ばれるのって楽しいわね」


 フィリエ様とミスティカ様は少し疲れていらっしゃるようにもお見受けできたけれど、大変満足されているようなお顔を浮かべていらした。


「そろそろいいわよね」


 フィリエ様は僕たちが戻ってきたことを確認されると、エイリオス様とフェリシア姫様が紅茶を飲みながら談笑なさっているテーブルまで歩いてゆかれ、何事か言い合われながらフェリシア姫様を連れてこられた。

 大人しいというか、人見知りなさる性格のフェリシア姫様は、リーベルフィアのお城での子供たちの集まりに丁度重なるように遊びに来られるのは初めてだということで、気心の知れた間柄でいらっしゃるエイリオス様と––理由はそれだけではないかもしれないけれど––一緒にいらしたのだけれど、フィリエ様に引っ張って来られて、もじもじとなさりながらも、フィリエ様に促されるように自己紹介をなさって、同じ輪に加わられた。

 

「フィリエ様もフェリシア姫様と仲良くなられたのですね」


 少し近づいて来られたのでフィリエ様にお尋ねすると、


「何言ってるのよ。こうすればお兄様との距離を離すことができるじゃない」


 などとおっしゃられ、ナセリア様がため息をついていらした。

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