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お城での遊びへの招待~ナセリア11歳 2

 孤児院に居るくらいの子供の成長は早く、以前、ティノ達にプレゼントできなかった代償行為にしているつもりはないのだけれど、僕は出かけた先で得た報酬では、よく生地を買うようにしている。その他の必需品はニール院長と分担して買い出しに出かけている。

 家族の顔を思い浮かべながらの縫製はとても幸せな時間で、ニール院長も手伝ってくださって、皆が寝た後には一緒に服を作っている。

 日中は仕事に出かけていたり、皆が一緒に遊ぼうと引っ張っていってくれるので、一緒になって庭で走ったり、本を読んだりすることが多いため、そういった仕事をするのはもっぱら夜中に皆が寝静まってからになる。

 それからたまには学院に魔法の授業の講師として仕事に呼ばれることもあって、その際の報酬には金銭ではなく、古くなったり、余ったりしている教本をいただくことにしていて、孤児院に持ち帰ってから、大抵は自習だけれど、お暇な時にはニール院長に教えて貰うこともある。


「何とか間に合いましたね」


 招待されている日の前夜、正確には深夜を回っていたので当夜だけれど、ようやく全員分のお出かけ着の縫製を終えることが出来た。

 ティノ達の分の服を作るのには、それこそ1年とかの時間が掛かったけれど、あの時とは人手も、お金や時間の掛けられ方も違うし、最大の違いは魔法を使用できるということだ。

 もちろん、ティノ達の服を作った時にも魔法を使おうと思えば使うことは出来た。もちろん、迷惑をかけてしまったかもしれないということはあるので、実際に使えていたかはわからないけれど。

 あの時には一針一針丁寧に縫うことが僕なりの真心の込め方だったし、その気持ちは今でも持っている。

 けれど、ナセリア様達に魔法をお教えしていた僕としては、魔法を使って仕事をしても、それで込める想いが変わるということはないと感じていた。

 魔法は僕が生きているうえで、切り離して考えることは出来ないものだし、そのおかげでたくさんの嫌な事もあったけれど、逆に嬉しい事や楽しいこともたくさんあって、今、こうしてここで孤児院を開いていられるというのも魔法があったおかげだ。

 だから、魔法を使うことに躊躇はなかった。


「これで、完成ですね」


 最後の糸をしっかりと止めて顔を上げると、笑顔を浮かべられたニール院長と目が合った。


「こちらも終わりましたが、いやはや、やはり敵いませんね。私が1着分を仕上げている間にユースティア殿は倍仕上げてしまいますからね」


 今孤児院に居るのは、僕とニール院長を含めて8人。子供たちは、ジェーンを含めて、女の子が3人と男の子が3人だ。僕も子供だという意見––特にニール院長のもの––には、僕はここの責任者だからだと言っておく。

 

「まあ、その、僕のは普通とは違いますから」


 リーベルフィアでは、基本的に魔法が使える人は仕立て屋なんかには就職したりしない。

 なんか、という言い方は失礼だけれど、リーベルフィアに、もっと言えばこの世界に暮らしている人で、魔法が使える方はもっと稼ぎの良い仕事はたくさんあるので、本当に好きな人以外は別の仕事に就かれていることが多い。

 僕はこうして誰かのために服を作ることは好きだし、それで喜んでくれるので、やりがいも感じている。


「ジェーンの服も戻って来る最中にデザインは終わらせてしまっていましたからね。何かするのがとても楽しいし、嬉しいんです」


 料理でも、魔法を教えたりするのでも、もちろん服飾だってそうだけれど、皆のために何かを出来るのはとても楽しくて、疲れなんて感じる暇もないくらい次々アイデアが湧いてきて、眠くもならずに作業に没頭できる。

 

「決して傲慢などということはありませんよ。事実、それは素晴らしいことで、なかなか、しようと思ったり、考えてはいても、実行までできる方はそうはいませんから」


 流石に歳のこともあってお疲れのご様子のニール院長に、チェックはこちらで済ませておきますからと、先に休んでいただいたけれど、僕は眠いどころか、とても楽しく心が弾んでいるような気持ちだった。

 こうして糸目の確認をするのも、フリルの数を数えるのも、リボンの向きを整えるのも、ボタンがしっかりとついていることを確認するのも、全部が全部楽し過ぎて、そんな幸せな時間を独り占めにしてしまっていて、逆にニール院長に悪いような気さえしている。


「喜んでくれるといいな」


 皆の成長は早く、この、今仕上げた服だって半年も着られるかどうか分からない。

 けれどそれならそれで構わない。

 ここで暮らす皆には、絶対に金銭その他の事で不安だったり、心配にさせるようなことはしないと心に誓っている。

 尋ねられたリ、不安がらせてしまった時には、これは僕の趣味で、皆にプレゼントしたくてたまらないのだと説明している。

 実際その通りだし、嘘偽りのない心からの気持ちだ。

 転移の魔法を模索する段階で、魔導書には載せていない新しい魔法もいくつか考案、実戦していたりもする。

 それらはいずれ魔法師団の皆さんにもお伝えしなければならないとも思っているし、それによって魔導書の編集もしなければならないとは思っている(実際にそれらの魔法が掲載された魔導書の第2版が発売されて、さらにより多くの印税が入って来ることになるのだけれど、それはまた別の話だ)。

 

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