ナセリア~ユースティアと出会って 12
◇ ◇ ◇
リディアン帝国での芸術祭は無事に終えることが出来た。
私はリーベルフィアの王女であって、本当に出させていただいただけだと思っていたのだけれど、演奏を終えた時には大きな拍手と歓声をいただき、翌日に開かれたパーティーでも、雑誌の取材の方だとか、舞台監督の方だとか、他にもたくさんの方にお声をかけていただいた。
チャリティーオークションに出品されたという、私やロヴァリエ王女が着替えた衣装はとても高値で、それこそ国宝級の値段で取引されたとのことだった。
私はその場にいなかったから、私の衣装に何でそんなに高値がつけられたのかは分からない。
けれど、その報告を受けた時、フィリエは得意気な顔をしていて、
『お姉様なら当然ね』
と私よりもずっと誇らしげな様子だった。
チャリティーオークションに興味を示していた様子のユースティアは、嬉しいような、困っているような、何とも言えない難しそうな顔をしていた。
『ユースティアはお姉様が着ていらした衣装、欲しくなかったの?』
フィリエが真っ直ぐにそんなことを尋ねるものだから、ユースティアも突然の事に少し驚いているような表情をしていた。
私は何だか、どちらの答えを聞くのも堪えられない、とても恥ずかしいような気持ちでいたのだけれど、だからといってその場を離れることも出来ずに、耳を塞いでいるようで塞いでいないという意味のない格好で、恐る恐るユースティアの事を見上げていた。
『数分前までお姉様が身に纏われていらした、お姉様のぬくもりと香りの残ったドレスに全く興味はなかったの?』
そんな私の様子など気に留めていないかのように、フィリエはとんでもないことを言いだした。
食べ物を食べていたり、手に物を持っていなくて本当に良かったと思う。そうだとしたら、もしかしたら、粗相をしてしまっていたかもしれない。
私が呆れて、ユースティアも困っている様子で、それに慌てたような表情でフィリエを咎めていたのだけれど、フィリエもフィリエで、『だって、あのオークションで競り落とした人たちの考えているのはそういう事でしょう? 本当に信じられない!』と、怒っていた。
『いえ、あの、フィリエ。さすがに浄化の魔法はかけましたけれど‥‥‥』
そう声をかけたのだけれど、フィリエには一層激しく怒られてしまった。
『お姉様だって、ユースティアがいないときに、ユースティアのお部屋のベッドに入って枕を抱きしめられたり、顔を埋められたリ、服を羽織ってみたりなさるでしょう? お姉様は‥‥‥だから良いんだけど』
まるで見てきたようにフィリエが語っている間、なんだかユースティアがこちらを見ているようで、私は急激に顔の方が熱くなってゆくのを感じていた。
私がユースティアのベッドに倒れ込んで、恥ずかしくはあったのだけれど、なんだか嬉しいような、悶えているでもないけれど、脚がパタパタと動いてしまうのを止められなかったことを見られていたなんて。
きっとユースティアにも呆れられて、はしたない子だと思われてしまう。
『フィリエ様。あのオークションの目的から考えれば、どのような目的であろうとも、高値で取引されるのは良い事であるように思われますが‥‥‥』
私の動揺とは裏腹に、ユースティアは至って平然を取り戻したように冷静な口調だった。
ユースティアが全く興味を示してくれないのも、それはそれで何となくもやっとする。
興味を示されたら示されたで、思うところはあるだろうに、逆でもこんな風に思ってしまうのは、私がおかしいからだろうか。
『だって––』
フィリエはまだまだ全然言い足りないという雰囲気だったけれど、ロヴァリエ王女がいらして話しかけてくださったので、強引にではあったけれど、話をうやむやにすることができた。
『今回は、そちらでも忙しい時期だったのでしょうに、招待に応じてくれてありがとう。改めてお礼を言うわ』
たしかにリーベルフィアでも収穫祭はあるけれど、もう少し先の事だ。
『鑑賞にいらしてくださったお客様方も、リーベルフィアのお姫様の演奏に本当に聴き入っている様子だったわ』
私の演奏がリディアン帝国の方々の心に響いたのなら、それは何よりの事だ。
私個人としても、このような立派な舞台に招待していただいて、演奏までさせていただけたのはとてもよい経験になったと思っているし、いただいた暖かなたくさんの拍手も、とても嬉しいものだった。
『また何かあったら、いいえ、何もなくても、遊びに来てくれるかしら?』
『ええ是非。ロヴァリエ王女もまたリーベルフィアにいらしてください』
それでも私は負けませんから、と私とロヴァリエ王女が挨拶を交わすのを、ユースティアは嬉しそうな顔で見つめていた。




