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ナセリア~ユースティアと出会って 10

 お父様がリーベルフィアを出られることはほとんどない。

 お父様はリーベルフィアの国王で、長期間国を離れられるわけにはいかない。そうすると、当然お母様もお城を出られる––お父様と離れられる––ことはないので、基本的にこういった他国への招待にはエイリオスが名代として出席することになっている。

 となればフィリエが行くと言い出すのは当然のことで、お父様とお母様に、早いうちから広く世界を見てきてはどうかしらと諭されたらしいミスティカとレガールも、私たちに同行することになった。

 それに加えて、護衛をしてくださる皆さんも一緒なので、やはり結構な大人数になってしまうことは避けられない。

 本当はユースティアと2人で、それはリディアン帝国に限らず色々なところへ、行ってみたかったけれど、そういうわけにもゆかないということは理解している。

 エイリオスがお父様の次の国王になるのはまだまだ先の事だと思うけれど、それまでにこうして他国を訪れることが出来る機会というのは貴重な経験となるはずで、それは戴冠してからでは難しい。

 フィリエも、エイリオスの事がなくとも、お出かけには、というよりも自分の知らないことに対する興味は人一倍強いようだし、だからといってフィリエを1人でというわけにはゆかないのは当然の事だ。

 

『フィリエも何か演奏させていただいたらどうですか?』


『私は大丈夫よ。お姉様みたいには出来ないし、やっぱり音楽とかって退屈だもの。あっ、でも、お姉様の演奏は別よ』


 ただ行くだけというのも退屈かもしれないと思い、提案もしてみたのだけれど、フィリエはあまり乗り気ではない様子だった。

 フィリエとミスティカにはお母様もそういう、例えばヴァイオリンやピアノなんかを勧めていらしたこともあった。

 ミスティカはお母様の勧めということもあって、偶に私が練習しているところに顔を見せる事もあるのだけれど、フィリエは自分で演奏するという事は考えていないらしく、そんなことより庭の探検をしたり、魔法の練習や遊びだったり、お母様に街の中での暮らしや学院での生活の事を尋ねる方が楽しいらしかった。

 頼られればもちろん、ミスティカに、ピアノでも、ヴァイオリンでも、何でも教えたいと思うけれど、今のところ見ているだけで、私にも、誰にも、尋ねている場面にも、そんな話を聞いたこともなかった。


『招待に応じてくれてありがとう。また会えてとっても嬉しいわ』


 リディアン帝国のお城で出迎えてくれたロヴァリエ王女は、再会を心待ちにしていたというような笑顔を浮かべていた。

 リディアン帝国の皇帝陛下、つまりはロヴァリエ王女のお父様が一緒にいらしたからなのか、『挨拶』をなさるようなことはなく、私達とユースティアに再会を喜んで抱き着かれただけに留められていた。

 私がじっと見つめていたからだろうか、ロヴァリエ王女はぱっとユースティアから離れられると、お城に案内してくださって、それから会場の下見も兼ねて、国立の音楽ホールと、リディアン帝国の案内をしてくれた。

 学問と、それから芸術の国だと言われるだけのことはあり、リーベルフィアとは違って、お城のすぐ隣に国立劇場や美術館、学問に関しては近隣諸国を含めても最高学府と名高いヴィセンス学院、それからもちろん、とても立派な音楽ホールが建てられていた。

 リーベルフィアでは音楽ホールと美術館、劇場なんかは同じ建物に入っているのだけれど、リディアン帝国ではそれぞれ別に建てられていて、街の中には他にも、小さな野外ステージのようなものまであるのだという事だった。

 それらにも興味はあったけれど、とりあえず1度、実際に舞台で演奏させていただけることになった。

 いきなり本番というのも大変だと思っていたし、こちらから頼もうと思っていたことではあったけれど、提案してくださってありがたかった。

 ユースティアと、フィリエ、ミスティカ、エイリオス、レガール、それからロヴァリエ王女と、リディアン帝国皇帝陛下、お妃様、そして館長様という、9人の観客しかいらっしゃらなかったけれど、演奏を終えた時には、とても大きな拍手をいただいた。

 翌日はリハーサルで、人口としては多いはずの、リーベルフィアの年末の音楽祭に勝るとも劣らない、大勢の方がいらしていた。

 私の順番は最後だったのだけれど、どうやら私がゲストに呼ばれていたことは告知されていなかったらしく、演奏者の方で、ご自身のリハーサルを終えられた後に残っていらした方は驚かれているお顔をなさっていた。


『私? 私は歌いながら踊りを踊るのよ』


 リハーサルを終えて、お城に案内していただいて、夕食をごちそうになる前、ロヴァリエ王女の事について尋ねた。

 今日のリハーサルでは舞台に上がられなかったけれど、お城のお部屋で、私たちにはその踊りと、着替えるのだという衣装の数々を見せてくれた。


『衣装もたくさんあるのよ。準備してきてくれたんだとは思うけど、私はこの中から10数着を着替えるの。演奏自体は2,3曲だけれど、その後のチャリティーオークションに出品されるのよ』


 チャリティーオークションが開かれると聞いて、ユースティアは興味を惹かれていたようだった。

 前に、ユースティアは女性ものの服を着ていたことはあったけれど、ロヴァリエ王女の衣装に興味があるわけではなく、そのような催し自体に関心がある様子で、オークションの形態なんかを詳しく尋ねていた。


『可愛い衣装がいっぱいあるのね!』


 フィリエは衣装自体に興味があるらしく、ヒラヒラの、絵本に出てくる妖精のような真っ白なドレスや、古代の巫女風という、ふっくらとしたズボンのわりに上半身の露出が極端に多い衣装、スリットの大きく入った身体のラインがはっきり出る、何故だか胸のところが一部分開かれている物など、どれもを手にとっては試着してみても良いのか尋ねて、実際に試着したりもしていた。


『本番ではお姉様が着るのよね。お姉様、どれにするか決めた? 良かったら私が選んであげる!」


 良かったら、という割には、全身から『私が選びたい』というオーラを発していたので、『ふさわしい衣装だったら構いませんよ』と衣装に関してはフィリエに任せることにした。

 私たちが実際に着た服が出品されるというのは、変な感じがしたけれど、それが人のためになるのであればと了承した。

 フィリエが何かユースティアに耳打ちしていて、ユースティアが、珍しいことに、少し照れているような様子でそれを嗜めているのがちらりと目の端に映った。

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