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ナセリア~ユースティアと出会って 9

 水の月になると、ユースティアはそれほど忙しくなくなったようだった。

 勿論、私たちに魔法を教えてくれたり、空いている時間を見つけてはミラのところへ勉強を教えて貰いに行っていたり、外へ出かけることはなくなったわけではないのだけれど、なんとなく、お城に居ようとしているのではないかと思えた。

 私のところへはリディアン帝国から書状が届けられた。

 ロヴァリエ王女の署名が入れられたそれは、秋にリディアン帝国で行われる芸術祭への招待状だった。

 招待状といっても、観覧側ではなく演者として、国立の音楽ホールで出演して欲しいという依頼書だった。

 すぐ後にはリーベルフィアでの感謝祭も催されるし、もし大変ならば断わってもよいとお父様はおっしゃられたけれど、私は、行きますと答えた。

 芸術の国として名を響かせるリディアン帝国の王女様から直接誘われたことはとても光栄な事に思えるし、私を指名してくださったことも、私のヴァイオリンを評価してくださったことも、素直に嬉しかった。

 リディアン帝国まで行ってロヴァリエ王女に会う事が出来るのは嬉しくもあるけれど、少しだけれど不安になる気持ちもあった。

 ロヴァリエ王女はユースティアの事をまだ想っていらっしゃるのだろうか。

 私に止める権利がない事は分かっているのだけれど、やっぱりユースティアに他の女性と仲良くしては欲しくなかった。


『ナセリア、何か思うところがあるのなら、別に断っても良いのよ』


 お母様は無理に応じられずとも良いとおっしゃられた。

 けれど、お父様もいらっしゃる前で素直な気持ちを告げることは出来ず、そんなことをすればお父様がどのような行動に出られるかたまったものではない。

 なので私は、はっきり大丈夫ですと答えた。

 別に私がリディアン帝国に呼ばれただけで、まだロヴァリエ王女に他意があると確定したわけではない。

 けれど、私の頭の中ではロヴァリエ王女がリーベルフィアからお戻りになる際にユースティアにキスをしていた光景が、浮かんでは消えてを繰り返していた。

 私がベッドの上で枕を抱えながら悶々としていると、お母様がお部屋を訪ねてきてくださった。

 警戒していた私の考えを読まれたかのようにお母様は『お父様は一緒じゃありませんよ』とおっしゃられたので、私はゆっくりと扉を開いて、お母様をお招きした。


『迷っているの?』


 お母様は、私の思っていることや考えていることなど全てお見通しですよとでもいうような穏やかで優し気な瞳を向けられた。


『‥‥‥王女としての正式な招待ですから。迷っているなどということはありません』


 両国の関係を考えても、断らない方が賢明だ。

 まさか大事になったりはしないだろうけれど、ユースティアにも器が小さいと思われたくはない。


『‥‥‥そう。でもね、ナセリア。私はあなたの母ですから、我慢しないで、言いたいことがあれば言って良いのよ。もちろんお父様には内緒にしますから』


 お母様が内緒にしてくださっても、お父様にそれが分からないとは思えない。

 もっとも、それを言い出したら、今、お母様が私のところへいらしているのだということも、私が本当はどう思っているのかという事さえも、お父様はどうせご存知なのだろうから、あまり意味があるとも思えなかった。


『‥‥‥リディアン帝国にはロヴァリエ王女がいらっしゃいますから』


 ロヴァリエ王女がユースティアにキスをした光景を、お母様は直接ご覧になってはいらっしゃらないはずだ。

 もちろん、すぐにフィリエが報告していたからご存知だとは知っているけれど。

 あの時、ロヴァリエ王女は挨拶だなどとおっしゃっていたけれど、どう考えてもそんなことはあり得ない。

 ユースティアも、私みたいな子供よりロヴァリエ王女やユニスみたいに大人の女性の方が好みなのかもしれない。


『ナセリア。もっと自信を持ちなさい。たしかにあなたはまだ子供だと、自分でもそう思っているのでしょう。でもね、好きな人を想って嫉妬をするのは恋をする女の子、女の子に限らず、当たり前のことだし、そんなことくらいでユースティアさんはあなたの事を嫌いになったりはなさらないわ』


 ユースティアの名前を出されたとき、お母様は何だか寂しそうなお顔をなさっていらしたけれど、何だか尋ねるのを躊躇われてしまった。

 それに気づかれたのか、お母様は『どうしたの?』とおっしゃられたけれど、私は何でもありませんと答えてしまった。

 本当はユースティアの事が気になっていたけれど、ここでお母様から聞いてしまうのは、何だか違う気がして、それはずるいことのように思えてしまった。


『ほかにどんなに輝く星があっても自分の方を向いてもらえるように、貴方が1番その人にとっての輝く存在になれば、自然とそちらへ顔を向けて貰えるわ』


 ユースティアに好きになって貰いたかったけれど、それは個人の気持ちの問題で、私にどうこう言えることではないと思っていた。

 嫉妬はするし、悲しい気持ちにもなるけれど、仕方のない事なのだと。

 そう割り切れるほど大人ではなかったけれど、お母様のおっしゃられたことは不思議とすっきりと理解することが出来た。


『分かりました。ユースティアにずっと見ていて貰えるような、そんな演奏をして参ります』


 

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