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ナセリア~ユースティアと出会って 8

 久しぶりに見たユースティアの顔には、作り物ではなく、本当に嬉しそうには見えたけれど、こちらを見つめる瞳の中にはわずかに、寂しそうというか、悲しそうだというか、そんな感じの色が見え隠れしていた。

 最初は、ユースティアも私に会えないでいて、私と同じ気持ちでいてくれたのかとも思っていたけれど、それならばこうして顔を合わせているにもかかわらず、いまだにそのように感じているのはおかしい気もする。

 エイリオスとレガールを迎えに行く馬車の中でも、フィリエが滞在させていただいていた間の事を話している間も、確かにいつもと同じように笑顔を浮かべて聞いているようだったけれど、何だか無理をしているようでもあった。

 すくなくとも、あのユースティアの過去の話を聞いてしまった時からは、そういった表情を見ることはほとんどなかったというのに。

 私ではユースティアの悲しみを晴らすことは出来ないのかと思うともどかしい気持ちになって、けれどユースティアの思っていることが何だかとても大変な事であるように感じられて、聞くのをやめようかとも思ったけれど、やっぱり気になって尋ねてしまった。

 思っていることがあるのならば伝えて欲しかったし、私なんかで力になることがあるのであれば、どんなことでもしたかった。

 そんな思いを込めて尋ねてみたのだけれど、ユースティアから言葉を引き出すことは出来なかった。

 次の日には、ユースティアが出かけるときに、少しだけ話をすることが出来たのだけれど、それだけで私を喜ばせてくれた。

 私はユースティアの事を想っているけれど、ユースティアはどうなのだろうと思っていたから、ユースティアが私の事を考えて、胸を痛めていたのだと思うと、失礼かもしれないし、不謹慎かもしれないけれど、それはなんだかとても嬉しいことのように感じられていた。

 後から考えれば、私の思いは全くの見当はずれ、むしろ逆をいっていたと言っても良いくらいのものだったのだけれど。

 私達がアトライエル家から帰って来てから、もしかしたらその前からなのかもしれないけれど、ユースティアはずっと忙しそうにしていて、魔法の授業以外ではほとんど顔を合わせることが出来ないでいた。 図書室へ行くと、ミラには、ユースティアは今日も勉強に来ていたと言われるので、お城に全くいないという事ではないのだろう。

 元々、私もお稽古事等、やることはたくさんあって、会えないことも多かったのだけれど、このところはその時間が増えている気はしている。

 ユースティアに会えないのは寂しいけれど、お泊りに出かけているときとは違ってお城には毎日帰って来てくれているから、会いに行こうと思えばいつだって会いに行くことが出来る。

 私たちがお泊りに出かける前には、ユースティアがお城から出かけることは、正確には長時間お城を留守にすることは少ない––ほとんどなかった。

 ユースティアは真面目なので、お城の防衛を疎かにするわけにはいかないと、そのための魔法を使っているのにもかかわらず、あまりお城を離れるのを良くは思っていなかった様子だったから、今の状況になるのにはそれなりの理由があるのだろうとは思っていた。

 けれど、それがユースティアの個人的な用事であるのならば、寂しくはあるけれど、邪魔をしたくはなかった。

 それから、いつも家族の誕生日は家族だけでお祝いするのが王家、シュトラーレス家の習慣であって、実際に今までそうしていたのだけれど、どうやらお父様とお母様は、私たちにも、本人であるエイリオスにも告げないままに、リンウェル公国からお客人をお呼びになっていらした。

 招待に応じてくれたフェリシア姫は、エイリオスにお祝いの言葉をかけた後、お父様とお母様に感謝を告げていた。

 エイリオスは大分緊張している様子で、けれどそれ以上に嬉しそうな、はにかんだ笑顔を浮かべて、フェリシア姫にお礼を告げていた。

 フィリエはそれを面白くなさそうな表情で見つめていたけれど、その夜には私の部屋まで、ミスティカとフェリシア姫を連れて遊びに来ていた。


『お兄様の事、好きなの?』


 フィリエが真っ直ぐに、何の前振りもなく、いきなりそのように尋ねると、フェリシア姫は見る見るうちに頬を林檎のように真っ赤に染めて「えっと‥‥‥」と俯いてしまった。

 その反応だけで、フェリシア姫がエイリオスの事をどう思っているのかは丸わかりで、ミスティカは、もちろん私も、微笑ましい気持ちになってフェリシア姫の事を見つめていたのだけれど、


『お兄様の事は渡さないんだからっ』


 フィリエはそんなことを叫んでいた。

 エイリオスが緊張しながらフェリシア姫にお手紙を書いていた時にもアドバイスをしていたフィリエが、エイリオスの次くらいにはフェリシア姫と再会できたことを喜んでいるように見えたフィリエが、そんな風に言うのは何故なのだろう。

 きっと、大好きな兄を他の女性にとられたくないと思っているのだろう。

 でもそれ以上に、幸せでいて欲しいのかもしれない。

 フェリシア姫と一緒に居る時に浮かべるエイリオスの表情は、フィリエが言うには『お姉様がユースティアを見ているのと同じような顔』だということで、私はその時の自分の顔を自分で見ることは出来ないけれど、どんな気持ちでいるのか推測は出来た。

 まだ諦めないんだからと意気込んでいたフィリエだったけれど、フェリシア姫の滞在中、1番気にかけていたのもフィリエで、『敵に勝つには敵を知るのが1番よ』などと嘯いてはいたけれど、本心ではフェリシア姫の事をどう思っているのかなんてきっとお城に居る誰もが分かっていた。

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