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ナセリア~ユースティアと出会って 7

 別にここのお宅に泊めていただくことが楽しくなかったわけではない。

 皆さん、本当に良くしてくださったし、親交も深められた。一緒に、学院でやっているのだという勉強をしたことも、お料理やお掃除のお手伝いをさせていただいたことも、むしろ、楽しかったと言える。

 お城で教えていただいていることや、お城の図書館の本にあること、ミラが話してくれるような専門的だったりする事に比べると、学院の勉強というのは、私にとっては難しいとは思えない内容だったのだけれど、兄妹姉妹ではない誰かと一緒に勉強するという、そのこと自体が中々楽しいことだと思えたりもした。

 魔法についても教えてくださいませんかと頼まれたりもしたけれど、魔法に関しては、ユースティア達が編纂した魔導書の方が、私などよりもずっと詳しく、分かりやすいと思った。

 もちろん、私だってユースティア達の魔導書は、それこそ擦り切れるくらいに読み込んだから、それなりには教えることは出来ると思う。

 けれど、やっぱり私にとっての魔法の先生はユースティアなので、いつだってお守りというわけではないけれど、収納して持ち歩いている魔導書を取り出して、一緒に読みましょうとお庭で広げた。

 今回一緒にお泊りを下した女の子、女性の皆さんは、全員が全員、魔法をお使いになることが出来るというわけではなかった。

 けれど、興味のない方は1人もいらっしゃらず、程度の差こそあれど、皆さん期待に満ちたような表情で私たちの事を見つめていた。

 フィリエも随分と得意げな顔で、やる気になっていて、反対にミスティカは皆の前に出るのがやっぱりまだ恥ずかしいのか、私の後ろに隠れていた。

 妹に頼りにされるのは嬉しいけれど、きっとお母様がこの滞在を勧められたのには、自分からもっと世界を、とまで大げさではないかもしれないけれど、他人との関りを求められたのだと思う。

 だから私は優しい姉ではありたかったけれど、ミスティカにも、堂々と、せめてしっかりと自分で立つことが出来るようにと、

 

『ミスティカ。私を頼ってくれるのは心から嬉しいと思っています。あなた達の姉として、力になりたいともいつも思っています。けれど、少しだけ、お母様がこちらに私たちを向かわせられた意図を考えてください。もちろん、出来たばかりの友人と関わり合いになることのできる場を提供してくださったということもあるのでしょう。けれど、それ以上に、お母様たちから離れても、しっかりとできるのだということを示すためだとも思っています』


 本当のところはお母様に尋ねてみなければ分からなかったけれど、尋ねるつもりは、少なくとも私には、ない。

 だけど、友人を作って広い世界を知って欲しいとおっしゃられたお母様の言葉は本心であるはずだ。


『大丈夫です。私も、フィリエも、今はあなたのすぐ後ろに居ますから』


 胸の前で拳をぎゅっと握って、上目遣いに私を見上げるミスティカの額に、ずっと見守っていますからと心を込めてキスをする。

 フィリエが羨ましそうにこちらの様子を見ていたのは分かっていたけれど、私は真っ直ぐミスティカだけを見つめていた。


『はい、お姉様』


 おずおずとした様子でありながらも、ミスティカは摘んでいた私のスカートの端を離して、ゆっくりと向き直った。

 ぎこちなさはあったけれど、ミスティカは集めた水で見事に空中にお母様のお顔を作りだして、歓声と拍手、称賛を受けて、はにかんだ笑みを浮かべていた。

 もちろん、勉強だけではなく、一緒に、普段皆さんがなさっているのだという遊びにも混ぜていただいたりもした。

 私たちを外へ連れ出そうとしてくださったメイリーンや、他の皆さんに、ユリア様とご頭首様はあまり良い顔をなさってはいらっしゃらなかったけれど、私たちの意志であるのならば、それを止めるおつもりもなかったのか、外へ出かけることを許してくださった。

 かくれんぼや鬼ごっこを、こんなに大人数でやったのは初めてで、街の中では皆さんのご迷惑になるのでは、と思っていたのだけれど、お店を構えていらっしゃる方は微笑ましいお顔で見守ってくださっていた。

 護衛もつけずに、なんてことが知られたら、お父様やリュアレス団長、それにユースティアにも怒られたり、心配させてしまったりもするかもしれないけれど、きっと私たちが元気に楽しかったですと報告すれば、良かったですねと言ってくれるはずだ。

 お祭りではないのだけれど、感謝祭のような感じが少しして、お勧めなのだというチョコレートやクッキーを途中で一緒に食べたりもした。

 もちろん、御屋敷の部屋の中では双六をしたり、ファッションショーのようなことをしたり(詳細は恥ずかしいので省くけれど)、ヴァイオリンの演奏をさせていただいたり、それに合わせて、フィリエやミスティカも一緒に、皆さんが踊ったりしているのを何だか暖かい気持ちで眺めたり、夜中のベッドの中では恋愛の話なんかもしたりすることも出来た。

 学院ではどのクラスの誰が格好いいのだとか、彼はどうしようもないのだとか、パーティーで一緒に踊った少し年上の男性の話だとか、いつになっても尽きそうにないくらい、たくさんの話を聞かせて貰った。

 もちろん私も、ユースティアと一緒にいれば、毎分毎秒、とまではいかないかもしれないけれど、いつだって、何度だって感動していられるとは思う。

 そんな思いを話したりするのは、少し恥ずかしかったけれど、何だか暖かい気持ちになることが出来て、とても楽しい事であるように思えていた。

 そんな風に、毎日、宝物入れに仕舞うことが出来るような日々を過ごさせていただいたのだけれど、滞在の最終日には、朝から、正確には前日に眠る前から、心に浮かんでくる気持ちを止めることは難しかった。

 今日はやっと、ようやくユースティアに会う事が出来るのだ。

 先日、ユースティアと念話で会話をしたときには、ユースティアが嬉しいことを言ってくれるものだから、私もつい少しだけ本音を話してしまった。とても緊張したけれど、伝えられたのは嬉しかった。

 こちらに滞在していて楽しかったのは本当だし、またこうして遊びに来ることも、先方が許してくださるのであれば悪いものではないと思ってもいる。むしろ、またそうしたいという気持ちが強くないこともない。

 でも、そう思う気持ちよりもずっと強く、私はユースティアに会いたいと思っていた。

 顔を合わせて、この滞在中に私が感じたこと、私が見たこと、私が聞いたこと、お友達と話をしたこと、遊んだこと、何でも話をしたかった。

 ずっと顔を直接合わせていなかったからだろうか、私の心は大分そのことに占められていた。念話の魔法は便利だし、やろうと思えばイメージをそのまま届けることが出来るというのも教えて貰った。けれど、やっぱり、それよりも直接顔を見たかった。

 お父様やお母様から離れて別の場所に滞在することは今までにほとんどなかった。けれど、そちらに対しては、薄情だと言われるかもしれないけれど、今回離れて寝泊まりするにあたって寂しいと思うようなことはほとんどなかった。

 元々ほとんど散らかしてはいなかった荷物を仕舞い、また是非遊びに来させてくださいと、今度はお城の方にも遊びにいらしてくださいと、そんな風にお約束をして、ユースティアが迎えに来てくれるのを待っていた。

 正直、初日の頭から、本心だったとはいえ、フィリエの発言に対して黙っていたことで、あまり良い印象を持たれてはいないのではないかと思っていた。

 けれど、私たちの主張を完全に受け入れてくださったわけではないと思うけれど、アトライエル家の皆様、それから女の子達にも、大分打ち解けることができたと、それは幻想ではないと思えている。

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