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感謝祭に向けて

「あの、この服はいったい‥‥‥?」


 お城の庭に鮮やかな緑が生い茂り、デューン様、太陽の女神様が一年のうちで最も輝かれる頃、リーベルフィアのお城は右から左へ大忙しだった。

 僕も、いつも姫様方に魔法をお教えするときに着ているような、間に合わせで縫製させていただいた服ではなくて、随分と派手な、きらきらとした飾りがたくさんつけられている服を合わせられていた。


「その、僕は自分で調えたものがありますから‥‥‥」


 こんなに色々と取り付けられた歩き難い服を着させられたのは初めてのことで、どちらかと言えば、僕が服を着ているのではなく、僕が服に着させられている感じがして落ち着かないことこの上なかった。

 僕なんかがこんな立派な服を着ていると、なんだか服に悪い気がして遠慮させていただこうと思ったのだけれど、


「だめよ、ユースティア」


 薄茶色の髪を綺麗に結い上げられた、空色の瞳が綺麗なメイドの女性に窘められてしまった。


「ユースティアはお城の代表、つまりはこの国で、ひいてはこの大陸で最も優秀な魔法師として出席するんだから」


 聞いた話では、もうすぐリーベルフィアでは太陽と月の女神様であるデューン様とアルテ様に感謝を捧げるお祭りが開かれるらしく、お城の外ではまさにお祭り騒ぎだという事だった。


「ユニスさん、そのようなことをおっしゃられても‥‥‥」


 お城へ来る前はリーベルフィアの学院の家政科というところに所属していて、最も優秀な成績を修められていたというユニスさんは、小柄だけれど、胸の豊かに膨らんだ、けれどしっかりと均整の取れた良い体つきをしている女性だ。

 紺のメイド服、それから白のエプロンとブリムがとっても良く似合う彼女は、魔法を使うことは出来ないという事だったけれど、まだ見ぬ相手に想いを馳せていらっしゃるように瞳を輝かせながら感謝祭について教えてくださった。

 僕が特別に何かをするというわけではないけれど、僕がこの国に来て、お城の魔法顧問が入れ替わったということは結構重大な事であるらしく、この機会にアルトルゼン様の感謝祭での挨拶のついでに僕のことも国民の皆様に周知させようという目的があるらしかった。


「王室付きの魔法顧問なんて、魔法を使えて、学院で学んでいる皆の憧れと目標として見られるんだから、ちゃんとそれにふさわしい格好をしなくちゃいけないのよ」


 そういうものだと言われてしまえば、お祭りとはどういったものなのか知らない僕は納得するしかない。

 ただ一言挨拶をして、お辞儀をしてくれば良いと聞いていたのだけれど、そのためだけにこんな準備をするなんて、やはり王族というのは裕福なのだなと改めて実感させられた。

 感謝祭には、普段は食べないような食べ物や、何だか楽しいらしい屋台と呼ばれるものが出来るらしく、興味は惹かれたけれど、まだもう少し魔導書編纂の仕事も残っているし、お城の防衛のためにも、僕はお城に残っていた方が良いのではないかと思えた。

 別にミラさんに用事があるというわけではないのだけれど、図書室に置かれている本は、物語も、魔導書も、学術書も、どれも大変に興味深く、まだ全てを読み切れてはいないので、せっかくお城の中は静かになるのだし、それを読んで編纂に役立てようと考えていたのだけれど。


「すまんが、ユースティア殿。子供たちの護衛を務めてはくださらぬか?」


 感謝祭の前日、衣装の合わせもすっかり済んで、後は明日を迎えるばかりと少しばかり緊張していた僕に、さらに緊張を与えようと、アルトルゼン様から大役を仰せつけられた。


「せっかくの祭りだ。子供たちにも国民に混ざって楽しんでもらいたいところだが、流石に子どもたちだけで行かせるわけにはいかぬし、私や王妃がここを離れるわけにもいかぬ。護衛に騎士団や魔法師団をつければ、仰々しくなってしまい、国民が純粋に祭りを楽しめなくなってしまうやもしれぬ」


 国王様と王妃様は、開催の挨拶をなさった後、真っ直ぐに広場からお城へ戻られるとのことだった。リーベルフィアの国土は広大だけれど、お城と広場の距離はそれほど離れておらず、半日もかからずに馬車で十分に行き来出来る距離らしい。


「ですが、私はこの国の土地について全く詳しくありませんし」


 ナセリア姫様達もお城の外について、それ程詳しいというわけではないようだったけれど、僕なんてリーベルフィアに来てから、お城の外へ出たことすらない。逆に僕が迷子になったりしやしないかと不安になる。


「それについては問題ない。子供たちは時折、私が城下へ視察に出る際同行させているので、迷うことはないだろう。それに、いざとなればそのくらいの事、魔法でどうにか出来るのではないかな、魔法顧問殿」


 探索の魔法も、飛行の魔法も、はぐれないため、そしてはぐれてしまった際に有効だし、武器等の装備がなくとも対応できる僕は、たしかに護衛という面では重宝されるのかもしれない。


「どうしても不安だと言うのならば、詳しいものを同行させよう。他には何か不安なことはあるかな?」


 あれ以来音沙汰ないとはいえ、ナセリア姫様が狙われたということは事実。もし国王様がおっしゃられるように、人がごった返すようで、そこへ姫様や王子様が行かれると言うのであれば、彼らにとっては絶好のチャンスとなり得るかもしれない。それに、おそらく僕が何を言ったところで、結局首を縦に振らされてしまうのだろう。


「承りました。その任、謹んでお受けいたします」


 話を長引かせてしまってもご迷惑になるので、僕はただ静かに頭を下げた。


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