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内緒の準備 2

 孤児院で暮らしていた子供たちはそれほど多いわけではなかったけれど、やはりある程度はいるわけで、これからはもっと増えるかもしれないのだから、それに備えて色々と家具を作ったりして揃えていたら、あっという間に時間は過ぎ去っていて、いつの間にやら夏も終わりである水の月に差し掛かっていた。

 その間にはエイリオス様のお誕生日とレガール様のお誕生日もあって、おふたりは10歳と6歳になられた。

 エイリオス様のお誕生日には、基本的にリーベルフィア王家の方のお誕生日はお身内だけで祝われているのだけれど、リンウェル公国からフェリシア姫様がお祝いにいらしてくださっていた。

 お城の中ではエイリオス様がフェリシア姫様の事をどう思っていらっしゃるのかは周知されていて、つまりは国民の方全員がご存知というわけで、街の中では、もうあと5年もすれば戴冠式も行われるのではないかと、今からすでに盛り上がっていらっしゃるご様子だった。


「手続きは終わったのか?」


「はい。滞りなく」


 僕がこのお城に来てからもうすぐ1年になる。

 1年前の今頃は、シナーリアさんに訓練をつけていただいていたか、それとも鉱山で働かせていただいいていたか分からないけれど、いずれにせよ、こんなことになるとは思ってもいなかった。


「引継ぎの方も問題ございません。快く、とはいかなかったのですが、アザール団長様は引き受けてくださいました」


 もちろん、大分渋られはした。

 魔法師団の皆様だってずっとお城に籠って研究ばかりなさっていらっしゃるようなイメージかもしれないけれど、ちゃんと、たまには、いや、稀にはだろうか、とにかく、お家にはお帰りになられている。

 なので、僕にも、孤児院にお移りになられてからもお城へ雇用されることは出来るのではないですか、と、何度か考え直すようにも言われた。

 僕の事を必要としてくださって、歓迎してくださるのは、本当に、心から嬉しく、ありがたいことだと思ってはいたけれど、実際問題、両方を同時にこなすのには無理が生じる。

 僕は確かに孤児院を引き継ぐつもりで、実際に引き継いではいるけれど、この街に、あるいはこのリーベルフィアに留まるつもりはないからだ。

 さすがに世界間を転移するようなことにはならないとは思うけれど(こちらは僕の自由意志では不可能なので確実にないとは言い切ることはできない)、別の国には行ってみるつもりだからだ。

 観光したいという気持ちがないわけではないけれど、基本的な目的は、昔の僕のように独りぼっちになってしまっている子を見つけることだ。それは、僕に可能な範囲であれば、リーベルフィアに限定するつもりもない。

 

「それは素晴らしいことだとは思いますけれど、その間の孤児院の運営はどうなさるおつもりですか?」


 王妃様が心配そうに尋ねられる。

 嫌味とか、そんな感じでは全くなく、純粋に孤児院の子供たちの事を心配なさっているお顔だった。


「ご心配には及びません、王妃様。ニール院長様もいらっしゃいますから」


 現状では大丈夫だと思う。

 現に、今まではニール様と孤児院でも年長の方が中心となってやってこられたという事だったし、今ではあの土地に関しては僕の持ち物だ。王宮魔法顧問という肩書はなくなってしまったけれど、僕が購入したという証書もちゃんと保管してあるし、写しはお城でもトラバール様が保管してくださっている。今度はしっかりと整理された部屋で。先日のように圧力がかけられることもおそらくはないだろう。


「その肩書に関してなのだが、魔法師団の方から珍しく嘆願書が上げられてきていてな」


 国王様は、僕と同じくご存知なかったように驚かれている王妃様とは違って、楽しそうなお顔をなさっていらした。

 渡された嘆願書を読んでみれば、僕を終身名誉顧問として頂きたいとの旨が記載されていた。


「貴殿が彼らに与えた衝撃がそれほど大きかったということだ。無論、彼らに限らず、この国、或いは他国にとってもな。それについては、金銭的な話にはなるが、貴殿の編纂された魔導書の印税からも推察してくれていることと思う」


「国王様。それは確かにとてもありがたいお話ではあるのですが‥‥‥」


 しかし、これ以降、僕がお城に何か貢献できるわけでもない。にも拘わらず、そのようなご迷惑をおかけしてしまうかもしれない肩書だけをいただいてしまうわけにはいかない。


「貴殿の話、やりたいことの内容から考えても、この肩書はあった方が色々と楽なのではないかな?」


 それはその通りで、何をして働くにしても、身分を証明できる物の存在はありがたいものではあるのだけれど。


「では国王として、貴殿、ユースティアを王宮の終身名誉顧問に任命する」


 任命式でも何でもなかったけれど、王妃様もいらっしゃる前で、というよりも国王様の命を断れるはずもなく、その肩書を引き受けることになってしまった。



 ◇ ◇ ◇



 引き受けるとは言ったものの、国王様もその場では他に準備もなさっていらっしゃらず、数日後にはしっかりとその場を設けるとおっしゃってくださったので、僕もその日に合わせて出発できるように準備を終わらせた。

 別にその日に合わせる必要は、厳密にはなかったのだけれど、何か区切りは必要であると思っていた。

 元々散らかってなどいなかった部屋に片付ける物などほとんどなく、準備といえるほどの事ではなかったけれど、お城の方はそれでも、孤児院の方はそうもいかず、片付けには数日を要した。

 その間、魔法の授業の方はアザール団長(本人はまだ団長ではありませんとおっしゃっていらしたけれど)にお任せした。

 姫様や若様とも、分かってはいるのだけれど、顔を合わせづらく、出来る限り準備と称してお城には居ないようにしていた。

 それから、一足早く、ナセリア様のお誕生日のプレゼントも準備した。

 本当は自分で決めた方が良かったのだろうけれど、アドバイスくらいならば大丈夫だろうと思い、何が良いのでしょうかと、同じ女性の事ならばと、ミラさんや、ユニスたちメイドの皆さんにお尋ねしたところ、皆さん同じ答えを返してくださった。


「左手の薬指はまだ早いわよ」


 とも言われたけれど、そこは将来ナセリア様の夫となられる方が嵌められる場所であることくらいは僕だって承知している。


「存じております」


 言われるたびに、数年後のナセリア様が純白の衣装に身を包んで本当に嬉しそうなお顔を浮かべていらっしゃる光景を幻視してしまって、喜ばしいことであるはずなのに、何だか胸が締め付けられる思いがしていた。

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