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お迎え

 まさか皆様がご覧になっている中で、国王様から賜った爵位を表わす証をすぐに仕舞ってしまうわけにもいかず、姫様方をお迎えに行くための馬車に乗りこみ人目がなくなったところでようやくそれを収納した。

 これから自分でしようとすることは、自分で決めたことであるはずなのに、それを報告しなければならないと思うと随分と気が重くなった。

 しかし、今更後に引くことは出来ないし、引くつもりもない。ようやくわかった自分のやりたいかもしれない事なのだから、むしろ気分は明るくなるはずなのにどうしてなのだろうか。


「はあぁ」


 何度目か分からないため息をつく。

 ため息ばかりついていると幸せが逃げていくと以前言われたけれど、その通りかもしれない。いや、僕は自分からその場所を出て行くわけだから、幸せが逃げるのではなく、幸せから逃げているとも言えないだろうか。

 そんなどうでもいいことを考えてしまうくらいに、ダメージを受けているらしい。


「だめだだめだ。こんな顔でお迎えに上がったら、姫様若様を不安にさせてしまう」


 別に今生の別れというわけでもないのだし、要請があればお城にも魔法顧問としての役目を果たしに行く必要もある。

 毎日というわけにはいかないだろうけれど、魔法の授業だって続けられるものなら続けたい。

 実際には辺境伯とは名ばかりで、あの孤児院を守るためにいただいた地位だ。領地もその敷地分だし、貴族と言われても僕には何をどうしたらいいのか分からないし、そもそも孤児院に関すること以外、何かをするつもりもなかった。


「そうとも。これは確かに僕のやりたいことだ」


 誰かに言われたからとかではない。

 別に魔法顧問の仕事をやりたくないというわけではないけれど、今、僕が1番やりたいと思えることはそうではなかった。


「きっとナセリア様も分かってくださる」


 いや、もう余計な事を考えるのはよそう。何故だか胸がぎゅうっと締め付けられるみたいな気持ちになるし、あまり考えすぎると、平静でいられるかどうか分からない。


「はやく済ませてしまいたい‥‥‥」


 ナセリア様のお顔を拝見したいと、そう思っているのに、どうかいつまでもアトライエル家につかなければ良いと、様々な感情が入り混じって、自分でもよく分からない思考に憑りつかれる。

 どうせお城に戻れば分かってしまう事だし、仕方がないと切り替えようと思っても、何となく振り払うことが出来ずにいた。



 ◇ ◇ ◇



 アトライエル家に着いたとき、すでにナセリア様とフィリエ様とミスティカ様はお庭まで出ていらしていた。

 ご頭首様にご挨拶をしている間、きっと今日までにもなさっていたのだろうに、フィリエ様はまた遊びましょうという旨をメイリーン様にお伝えしていらした。


「お迎えに上がりました、ナセリア様、フィリエ様、ミスティカ様」


 アトライエル家の皆様に厚くお礼を申し上げ、フィリエ様の嬉しそうなお顔でのご報告等を、後でお聞きいたしますとお答えして、ナセリア様から順番に馬車の中へとお連れして、最後にアトライエル家の皆様に再び頭を下げる。

 お礼と感謝を告げると、私共も、子供たちもとても喜んでおりました、感謝に堪えませんと、深く頭を下げられた。

 フィリエ様が出発した馬車からお身体を乗り出され、またねーとおっしゃられると、メイリーン様と、ご友人の皆様も手を振り返されていらした。


「ご友人宅へのご滞在はいかがでしたか?」


 無言になると何だかまずい気がして、当たり障りのない会話を振ると、フィリエ様がとても嬉しそうに、楽しそうに、ご滞在中のお話を聞かせてくださった。


「そうですか。楽しまれたのであれば、よろしかったですね」


「でもねー、お姉様はね––」


「ユースティア」


 エイリオス様をお迎えに上がる途中、フィリエ様がナセリア様の事について話されようとなさったところで、ナセリア様がそのお言葉を遮られた。

 フィリエ様は何だか嬉しそうなお顔でナセリア様のお顔を見ていらしたのだけれど、僕を正面から見つめられるナセリア様のお顔は、どこか曇っていらっしゃるご様子だった。


「何があったのですか?」


 何か、ではなく、何が。

 なるべく、というか、態度や表情には出さないでいたつもりだったのだけれど。

 案の定、フィリエ様とミスティカ様は何の話か分かっていらっしゃらないというお顔をなさっていた。


「私の顔に何かございましたか?」


 何でもない風に、普段と変わらない感じを装って、いつもと同じ様に笑顔を浮かべる。


「いえ、少し、寂しそうな、悲しそうな顔をしていたような気がしたものですから」


 私の気のせいかもしれません、そうおっしゃられたナセリア様は僕からお顔を逸らされて窓の外へと向けられた。


「お姉様がユースティアのことに対する直感で間違えられるはずはないわ‥‥‥」


 フィリエ様が何事か呟かれてじっと僕の顔を見つめられたけれど、分からないわ、という様に首を小さく横に振られた。



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